第19話・番外 ロードルの転落

「待て、考え直してくれミア!」

「待ちませんし、何回考えても同じことです!」

 私、ヘンリー・ロードルは追い詰められている。

 それは、私の妻ミアがこの家を出ていくと言っているからだ。

「なぜだ!?」

 私はミアを少しでも引きとめようと、そして、その間に説得しようと試みた。


「あなたは私が思った以上の馬鹿です。貴族が! 唯一のわが子を追い出す? 後継はどうするんです!? それに、どんなクズでもゴミでもアーロは私にとっては大切な我が子です! 探すためにも私は冒険者に戻ります!」


 ロードル家は魔法の才に劣り、代わりに武術の才を強く持つ一族だった。その弱点である魔法の才を補うために、平民から貴族家に招いたのがミアだった。

 ミアは、Aランクの冒険者でステータスは申し分無かった。更には信仰系を得意とする術師であり、ロードル家に足りない魔法の才を強く持っていた。

 そのミアを私は侮っていた。ミアが言うことは、貴族として紛れもなく正しいことだ。私だって、冷静に考えて見ればわかる。アーロを追放したことは、貴族としての思慮に欠けていた。私たちはもう十年も、第二子を得れていないのだから。


「お前が行ってしまったら。本当に第二子ののぞみが絶たれてしまう……」

 悲鳴にも近かった。私が愚かだった。今度アーロを見ることがあったら、私は付して頼み込もう、ロードル男爵家に戻ってきてくれと。

「絶たれればいいのです! このような愚かな男爵風情に未来などありません!」

 だが、ミアの決意は硬かった。


「だ、男爵風情だと!? 不敬だぞ!」

 平民の女など、そう言っておけば大抵なんとかなると思って、その言葉を口にしてしまった。

「それで、私をどうこうできるつもりですか? 私のAランク冒険者資格はまだ生きてます」

 そうなのだ、Aランク冒険者は男爵以上に希少だ。故に、男爵を侮辱した程度では罪に問えない。男爵など貴族社会の最底辺、それこそ掃いて捨てるほど存在するのが男爵だ。帝国はそんな男爵よりAランク冒険者を優遇する。


「私が悪かったミア……」

「今更謝ったところで遅いのです。あなたが貴族として正しい行いをする限り、私はあなたの妻であることを決めました。だけど、あなたは貴族としてあまりに愚かな行いをしました。さようならロードル男爵」

 それは、私が自ら招いた結末だった。

 息子であるアーロの名を奪い、追放した。それはあまりに愚かすぎた。だが、いくら嘆いたところで、アーロを探す方法すら自ら絶っていたのだ。

 そのアーロが冒険者としてSランクの頂きに手をかけたことを知るのは、そのしばらく後の話だった。

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