第20話・王都
ギルドの辞令により、僕は馬車で王都に向かった。
道中は特に何もなく進んだ。
王都に着くと、まずはその人の多さに圧倒された。伯爵直轄領ですらありえない、三階建てや四階建ての建物が立ち並ぶ。街ゆく人が着ている服は、貴族の意匠が施されていないものの高級感があふれている。下手をすれば、男爵家よりお金を持っている町人が多いのではないだろうかと思ってしまうほどだった。
比べれば僕の服は貧相だ。田舎から出てきた冒険者感が否めない。とはいえ、お金はあった。不死者の大群から伯爵領を守った時の報奨金だ。冒険者ギルドに行く途中、僕は服を買って着替えることにした。
冒険者ギルドに入ると、そこは予想と違って、思ったよりも平均的な服の質が低かった。そのせいで、僕は少し目立ってしまう。
「見ねえ顔だな! いい服着てるな、ガキのくせに」
冒険者ギルドはその多くが酒場を併設している。それは、冒険者に下る大規模依頼の慰労会に使うためである。
その酒場にいたのが、このガラの悪い冒険者である。
こんなことなら、服を着替えるべきではなかったと少し後悔をした。
「何か御用ですか?」
だが少しも怖くはなかった。その冒険者の持つ装備は全て含めても、僕の持つ大鎌一個に劣るだろう。装備の質は、その冒険者の格を示す。どう高く見積もっても、この冒険者はBランク前後の冒険者だろう。
「俺はBランク冒険者ジェンソン様だ! ここで平和に暮らしたいなら、俺様に顔を通しておくんだな!」
僕の予想はあたっていた。高く見積もった方があたっていたのなら、この冒険者は金遣いが荒いのだろう。高みを目指している冒険者は、装備にこそお金をかける。
「僕はサイスです。よろしくお願いします」
僕は、自分の名を告げるとギルドの受付へと向かおうとする。
「サイスぅ!? あっはっは、もっとマシな嘘つけよ。お前みたいなガキがSランク冒険者のはずはねぇ!」
Sランク冒険者の移動は、冒険者たちにとって一大イベントの一つだ。その移動してくる冒険者の名前を知らない人は、冒険者としてやっていけないほどに。
「これでもSランクです」
「なら受けてみな!」
ジェンソンさんは僕に向かって拳をゆっくりと突き出す。これできっとパンチのつもりだろう。だけど、僕には止まってみせた。だから、その拳に僕は拳を突き合わせた。
「はい、これで友人ですね」
拳と拳を付き合わせるのは、冒険者が行う友人同士の挨拶だ。
「お、おう……」
ジェンソンさんはもう何も言えないだろう。それは僕が気を使ったからだ。痛くないように、威力を殺しながら拳を受け止めたのだ。
「これでも、僕はSランク冒険者ですよ。はい、ステータス」
僕はそう言いながら、ジェンソンさんにステータスを見せた。
それを見ながら、ワナワナと震えるジェンソンさん。それもその筈だ、僕のステータスはSランクの中でも尚高い。
「化物だ……」
「ひどいですね、これでも人間ですよ」
と言って、僕は笑った。
しかし、これのおかげで僕はジェンソンさんから解放されたのである。
受付には、エヴァンス伯爵領よろしく受付嬢さんがいる。だが、伯爵領とは規模が違い、窓口の並ぶこと20、壮観である。
「こんにちは、エヴァンス伯爵領から参りました。冒険者サイスです」
「サイス様!? 若いとは聞いてましたが、まさかここまでとは……念のため冒険者証を確認させていただきます」
僕は言われるまま、冒険者証を取り出して受付嬢さんに見せた。
「確認致しました、冒険者サイス様。フィリップス国王領へようこそ」
こうして、僕はフィリップス王国直属の冒険者になったのだった。
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