第12話・受注

 龍の霹靂の家での一夜が明け、新しい一日が始まった。

 日が昇る前から、僕は家を掃除し、日が昇ってから龍の霹靂の出発を見送る。

「掃除なんてしなくていいんだぞ」

 見送る時に掃除道具を持っていた僕を見て、オスカー様が言った。

「お、お役に立てることなんてこのくらいですから……」

 非人である僕を、人間のように扱ってくれた。それだけで、僕にとっては十分だ。例え、後から対価を支払うことになっても。だから、僕は初めて自分の意思で掃除をした。

「そうか、じゃあ……」

 オスカー様が、オリバー様とソフィア様に目配せをする。

「「「行ってくるぞ(きます)」」」

 そう言って、歩き出す背中に僕は手を振った。

「行ってらっしゃい」

 そう、言いながら。


 見送りが終わり、掃除を再開した僕ではあったが、掃除はすぐに終わってしまった。

 孤児院に比べ、小さなこの家。それに、僕は掃除をすることに慣れていた。

 掃除が終わった僕は、冒険者ギルドへと向かった。

 冒険者ギルドの掲示板には所狭しと依頼書が掲示されている。オスカー様が夕食の時に話してくれた話によると、僕が受けられるのはティア2ランクFまでの依頼だ。


 しかしながら、低ランクの依頼というのは意外なほど多い。それが、冒険者ギルドと騎士の活躍を基盤として成り立つ平和の証拠である。平和であるがため、農民は武器を捨て、代わりにより良い実りのために注力する。自然と税収が増え、騎士が村の防衛をし、防衛の懸念材料を冒険者ギルドへ低ランク依頼として発注するのだ。

 僕が手にとった依頼も、依頼者は騎士団だった。

 ――――――――――――――――――――

 討伐依頼【ダイアウルフ討伐】

 依頼内容:ダイアウルフ五頭の討伐。

 繰り返し受注:可

 概要:害獣としてダイアウルフの出現報告多数につき、個体数を減らされたし。

 受注資格:Fランク・ティア1以上

 ――――――――――――――――――――


 僕はそれを持って受付へ行く。

「ソロで行かれるのですか?」

 受付嬢様は少し不安そうな面持ちで僕を見る。

「は、はい」

 ダイアウルフはFランクの冒険者が相手をするには少しだけ強い相手だ。Fランクでこの依頼を受けるなら、パーティを組むことが推奨される。

 だけど僕は、今の幸せなまま死んでしまいたかったのだ。


「わかりました。ご健闘お祈りします」

 受付嬢様は、僕を止める権限を持っていない。受注資格を持つ以上、受注を受け付けるしかないのだ。

 僕は、振り返ると冒険者ギルドを後にするのだった。

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