第13話・始まりの一歩

 エヴァンス伯爵領は、膨大な収益を誇る直轄領と、いくつかの男爵領で構成されている。直轄領は面積で言うと伯爵領の中ではかなり狭い、しかもその大部分が草原と森林である。


 今回はその森林が僕の目的地だった。

 森林に入ってからしばらくは、獣の痕跡も見受けられず静かだった。僕は、そこが静かな理由に心当たりがあった。

 このあたりは、イビルラビットと騎士団の戦闘があった場所だ。となると、以前に僕が捨てた木の棒を見つけることができた。僕はまだ自分の武器を持っていない、だからこれが当面の僕の武器だ。


 やがて森は急に騒がしくなっていく。戦闘の騒音で、森林の一部区画から追い出された獣達がひしめき合っている。

 僕は、昨晩のオリバー様の話を思い出しながら獣の追跡を始めた。

 木々には縦に引っかき傷が残っている。爪とぎの痕、おそらくこの狼たちは戦闘があった場所を縄張りにしていたのだろう。

 地面に目を移すと、足跡がある。四足歩行、中型の動物だ。だが、土の塊が落ちている。猪か、それに類する獣だ。おそらく体に付着させた泥の鎧が剥がれたものだろう。

 この痕跡はハズレだ。おそらく爪痕の方の足あとは何かに消されてしまったのだろう。


 さらに追跡を進めていくと、一本角の研ぎ痕がある。アルミラージの痕跡だ。

 やがて森の生体を把握し始める。

 アルミラージを最底辺として、競合しない草食生物としてダートボア、捕食者としてダイアウルフがいるらしい。だが、ダイアウルフいるとすればそのの競合相手や、上位捕食者が存在しない。

 通りで数が増えるわけだ。


 再び森の浅い位置での追跡へと戻る。ダイアウルフが街へ降りたとしたら、森の浅い位置に痕跡が残っているはずだ。

 森の浅い場所を調べていくと、確かに四足歩行の獣の足跡がある。それに、爪痕だ。爪を持つのは肉食動物の特徴だ。この森ならおそらくダイアウルフだ。

 足跡をたどり森の奥へと進む。出来るだけ音を立てないように。


 しばらく進むと木漏れ日が差し込む、この森の一等地があった。そこに、堂々と鎮座するのはダイアウルフだった。ほかではおそらく見られない光景だろう。ダイアウルフの出で立ちはまるでこの森の主だった。

 僕は飛び出すと同時にダイアウルフの一頭に直上から体重をかけた一撃を放つ。


 <レベルが上昇しました>

 ―――――――――――――――――

 レベル6

 HP32/32

 MP32/32

 筋力32

 魔力32

 素早さ32

 器用さ32

 スキル:天賦の才(大鎌)

 称号:絶望喰らい

 ―――――――――――――――――

 ダイアウルフの経験値量は多く、レベルが上がる。

 僕のステータスは倍増する。


 ダイアウルフ達は僕に気付き、四方八方から襲いかかってくるが、野生の獣は人間のようにフェイントを使ったりしない。素早さが上がってしまった僕には、その目線を全て追い切るのはそう難しいことではなかった。

 それが分かってしまえば自然と体が動く。

 突きで内一体を叩き落として、三体の攻撃を身をよじって回避する。

 叩き落とされたダイアウルフは倒れこみ、他三体も次の突進のためには少し体制を整えなくてはならない。


 その間に僕は倒れ込んだダイアウルフに頭上から強烈な一撃を叩き込む。

 四体ですら僕に勝てなかったのだ、残る三体で勝てるはずもなくダイアウルフは逃走する。だがレベルアップでステータスの増している僕はそれに難なく追いついた。



 さらに一体を倒したところで僕はレベルが上昇する。

 ―――――――――――――――――

 レベル7

 HP64/64

 MP64/64

 筋力64

 魔力64

 素早さ64

 器用さ64

 スキル:天賦の才(大鎌)

 称号:絶望喰らい

 ―――――――――――――――――

 さらにステータスが増した僕にダイアウルフたちは為すすべもなく蹂躙されるのだった。

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