第9話・祓呪

 僕は、冒険者オスカー様に連れられて冒険者ギルドにたどり着いてしまった。

 もし、孤児院の外の世界など本当にないとしたら、僕はきっと消えてしまえる。そんなことを期待していたのに、それはあっさりと裏切られた。

 オスカー様は、冒険者ギルドに向かう道中も、僕に優しく話しかけ続けた。

 きっと、後で僕はとてつもないしっぺ返しを食らうのだ。僕には、それが恐ろしくてたまらない。その時までに、僕は死んでしまわなければならないのだ。


「オスカーさん、お疲れ様です。早かったですね」

 冒険者ギルドの受付をしている人間様が、オスカー様に話しかける。

「胸糞悪いものを見てしまってな」

 オスカー様はそう言うと、僕に目線を合わせた。

「すまないサイス君。嫌だろうけど首元を見せてくれ」

「はい……」

 震える手に気づかれないように、僕は首元をはだけた。

「オスカーこの外道!」

 その瞬間その声とともにオスカー様に向かってとてつもなく早い拳が飛んでくる。

 オスカー様はそれを受け止めると、慌てたように叫ぶ。


「まて! 俺じゃない! ……孤児院の院長が、やったんだ」

 その言葉を聞いた人間様たちが、驚き目を見開いていた。

「なら、祓っても問題がないわけですね」

 綺麗な女性の方がこちらに近づいてくる。

「あぁ、頼む」

 オスカー様が答えると、女性はしゃがんで僕に目線を合わせた。

「サイス君でいいのかな? 私はソフィア、オスカーのパーティで術師をしています」

「は、はい、サイスです」

 孤児院で誰も教えてくれなかった名前を覚えるたび、僕の不安は強くなっていく。


「うん、じゃあサイス君、そのまま動かないでね。懲罰紋消しちゃうから!」

 言われるまでもなく僕は動けなかった。

 ソフィア様は、まるで歌のような詠唱を始める。

 詠唱が進むたび、僕の周りに文字が浮かび上がっていく。白く、静謐な雰囲気を感じる美しい文字だった。

 やがてそれが僕の首元に集まって、僕の首元から懲罰紋を引き剥がして分解していく。

「はい、終わり。協力してくれてありがとうね」

 ソフィア様は僕に目線を合わせてそう言うと、ニッコリと笑った。


「しかし、このままだと人さらいか?」

「規則場そうなります。ですが、その規定は子供に懲罰紋が施されることを想定していません」

「だが、今の規則上そうなってしまうよな」

 オスカー様と、受付嬢様はそう言ったっきり考え込んでしまった。

「ねえ、サイス君。少し戦う事になるけど、冒険者になるのはどうかしら」

 ふと、ソフィア様が言った。

「確かに、それなら管轄が冒険者ギルドに移ります」

「それに、俺たちなら試験官の必要条件も満たすしな!」

 それが、僕の世界を大きく変えるなんて思ってもみなかった。

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