第7話・絶望喰らい
胸の痛みが引く頃に僕が目にしたのは無数の赤い瞳だった。
手に持っているのは、扱いに慣れてもいない古びた鉄の剣だけ。
だから僕は、その剣を群れに向けて投擲した。
<レベルが上昇しました>
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レベル3
HP4/4
MP4/4
筋力4
魔力4
素早さ4
器用さ4
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ようやく、一般的なLv1のステータスに追いついた。
僕の思ったとおり、ステータスは今回も倍増している。だが、僕のステータスでの剣の投擲が二体以上を倒せたと思えないため経験値は倍増していると思えない。となると早熟型で全レベルで必要な経験値が1ということも考えた。
もう一つの憶測がこうだ、必要な総経験値取得量が倍増している。
だが、そんなことを考えるより、クロスに教えてもらった棒が欲しい。僕が生きて帰れる唯一の方法が、走り回り隊列を伸ばし、追いつかれるたびに敵を倒すというものだ。我ながら馬鹿げた希望的観測だ。それでも、それにすがらなくてはいけない。
僕はこんなところで死にたくない。
だから、僕はイビルラビットの群れがいる森へと飛び込んだ。そこ以外に長い棒を確保できる可能性のある場所が思いつかなかった。
幸運なことに、木の棒はすぐに見つかった。それを視認したのは、飛び込む途中、体がまだ空中にある時だ。
イビルラビットの体重は平均して990グラム。腐った木でもない限りイビルラビットを吹き飛ばすのには問題ない強度を持っている。
そう判断した僕は、着地と同時に木の棒を手に低空をなぎ払う。
何匹かのイビルラビットがそれに巻き込まれ、吹き飛ばされていく。
<レベルが上昇しました>
うち、絶命したのは三匹。僕は3の経験値を獲得した。
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レベル4
HP8/8
MP8/8
筋力8
魔力8
素早さ8
器用さ8
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やっぱりだ、やっぱり思ったとおりステータスは二倍になる。これで、訓練を積んでいない騎士の新兵と同等の力を手に入れた。
僕はイビルラビットの群れの中で、そのまま前に走った。街から離れてしまうが、そこだけが唯一の逃げ道だったからだ。
走りながらも、常にイビルラビットの目線を意識して、それでも立ち止まらずに走った。
だが、当然のようにイビルラビットは追いついてくる。それはイビルラビットの素早さがアルミラージよりも高いからだ。
追いつかれるたび、棒で突き、薙ぎ、ようやく隊列が伸びきる。
僕はその瞬間を待っていた。
僕は反転して、街へ向かう。その間に追いついてきたイビルラビットを棒で叩き、うち何匹かは死亡した。
イビルラビットはアルミラージに比べても防御力が低い、代わりに攻撃力とすばやさが圧倒的に高いのだ。今の僕では、一撃食らったら最後死んでしまう。
だが、唐突にその時は訪れた。
<レベルが上昇しました>
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レベル5
HP16/16
MP16/16
筋力16
魔力16
素早さ16
器用さ16
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いくら必要な経験地が多くなっても、数をこなせる。
だが、今のステータスではとてもじゃないがあの巨大な群れの中で生き残ることはできない。耐えられて一発だ。
そんな時に、急に胸が痛みだした。
懲罰紋の有効化だ。
『生きているなら帰ってこい、このゴミ』
痛みに紛れて、院長の怒ったような声が聞こえてくる。きっと冒険者候補生たちが孤児院に戻ったのだろう。
あともう少し、だけ時間をくれたなら望み通り生きて帰れたかもしれない。だというのに、死んだと思われて懲罰紋の呪縛から逃れられる。そんな希望すら、院長は僕から奪っていく。
「もういいや……」
そう思うと、胸の痛みですらどうでもよくなって僕は草原に大の字に寝転がる。
赤く煌々と光る懲罰紋が痛む。だけど、意識自体が遠くて、痛みすら俯瞰的に見てしまう。死んでしまいたい、消えてしまいたい。そんな思いで胸がいっぱいだった。
だが、世界はそれすら許してくれない。
「イビルラビット共を殲滅せよ!」
騎士団が到着する。
掛け声とともに雪崩込むようにイビルラビットの群れに突撃する。
どうでもよかった、ここで死んでしまいたかったのに。それなのに、助けられて生き延びて、胸の痛みが帰ってくる。
「う、ぐ……」
その呻きすら、突撃する騎士たちの掛け声にかき消される。
「「「おおおおお!」」」
イビルラビットの強さは、数の強さだ。だが、伯爵直轄領の騎士は数が多く、イビルラビットの群れと比べても実に五割はいる。そんな状況ではイビルラビットに勝ち目などなくただ蹂躙されていく。
<称号:絶望喰らいを獲得しました>
<致命的な絶望を生き延びた者に送られる称号>
<絶望的な状況時全能力+50%>
僕はそれを全く喜べなかった。
なぜなら、僕に自由など二度と訪れないのだから。
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