第9話 転送が使える?!

「で?」


「で? とはなんだ、オヨリ」

「オウミとイズモ公、だったな。なんで俺まで巻き込まれたのかって話ヤオ」


「巻き込んだつもりはないノだ。お主が勝手に流れに身を任せているうちに我らに引きずり込まれただけなノだ」

「それを巻き込んだって言うんだよ!」


 ここは洞窟である。どうしてこんなところに3人だけで入ることになったのか。それは。


「おっと、なんかぎらぎら光る細長いのが出たぞ。オウミ、なんとかしろ!」

「分かったノだ。あれはヘビメタなノだ。よいしょっと」

「どこのえっくすじゃぱんだよ?」

「皮膚が金属でできたヘビのことなノだ」


 見た目そのまんまのネーミングだな、おい。


 ちなみによいしょっととは、オウミの万能型攻撃魔法の呪文である。どんな属性の魔物にも有効な便利な攻撃魔法である。


「わおぉ、こっちからも3体ぐらい、うねうねなのが来てるぞぉ」

「あれはヒャクニチゴニシヌヘビという魔物だ。俺に任せるヤオ」

「それ、ワニの間違いじゃないのか?」

「お主にはあれがワニに見えるのか?」


 いや、そういうことじゃなくてさ。


「100日後くらいに効いて死んじゃう遅効性毒を持つヘビなのか?」

「いや、死ぬのは咬んだヘビのほうヤオ」

「やっぱりワニじゃねぇか!」

「だからヘビだと、とぉぉぉぉやぁ!」


 オヨリの剣が、ヘビだかワニだかを屠ったかけ声である。


 ちなみにオヨリは修法使いであるが、現状では手に持った剣で物理的に魔物を屠っている。それほど強い相手ではないから、これで充分とのことだ。


 そうして約1時間もすると、あれほどいた魔物もほとんど退治できたようだった。こんなに魔物濃度の濃い洞窟(ダンジョン)は珍しいらしい。俺は全然知らんけど。


 しかしこれだけ魔物が発生して誰のものでもないダンジョンなら、ここをアイヅみたいな修行用ダンジョンにできるかも知れない。帰ったらハタ坊に相談してみよう。だがその前に、ここがどこなのかを把握する必要がある。


 そもそもここから出ないといけないが、転送ポイントを設定していない場所で、しかも現在位置がどこか分からないところから転送することは危険すぎるので止めた方が良いとのことだ。だから、なんとかして現在位置を特定するか、転送先が目視で確認できるところまで移動する必要がある。


「ふぅ。ちょっと疲れたノだ。さすがの我も相手が多すぎたノだ」

「ちょうど良い準備運動になったヤオ」

「同じぐらい働いたのに、えらく感想が違うものだな」

「まるで働かないお主には言われたくないノだ!」


「しょうがないだろ。俺だけは普通の人間なんだから」

「「ええっ?!」」


 なんだろうな、この反応は。オウミどころか、ほとんど話したこともないオヨリまで同じ反応しおった。

 こういうケースが最近とみに増えたような気がするのだが、心当たりがまったくない。まあどうでもいいことだ、無視しておこう。


「それにしても、どうしてこうなったのか。説明しないと読者が困るヤオ」

「誰目線だよ」


「それはふいんきのせいなノだ」

「どこの空間の話ヤオ?」

「焼成炉の雰囲気の話じゃない、あのドラゴンのことだ」


「ああ、そうだった。あのときドラゴンが乱入してきていきなり吠えたんだったな。その声で視界が真っ暗になったと思ったら、次の瞬間には俺はここにいたヤオ」

「それは我らも同じなノだ」


「お主らとあのドラゴンは知り合いなのか?」

「知り合いというか、なんというか」

「分かりやすく言ってくれヤオ」

「えぇと、ミノウが作ってハルミが育てたドラゴンの名前がふいんきなノだ」


「ふいんきってドラゴンの名前だったのか……いや待て待て待て! そんなことよりミノウが作っただと? それをハルミ……ってあの剣士だよな、が育てただと!? なんだそれ?!?!」


「なんだそれ、って言われても」

「事実がそうなノだ。我にも良く分からないノだ」

「しかも名前まで付けたのか」

「そんなに驚くことか?」


「当たり前ヤオ。ドラゴンがどうして生まれるのかが分かったら、この世界を支配することだって可能ヤオ。たった1体でもそのぐらい強いのだ。それにドラゴンは本来孤高の魔物だ。決して群れをなしたりしない。また人に懐いたりもしないヤオ」


 俺とオウミは顔を見合わせる。


「「懐いてるよなノだ?」」

「まじでか?!」

「「ハルミになノだ」」


「ツッコみどころが多すぎてどこからどう聞いたら良いものか」

「普段の俺の苦労が分かってもらえて嬉しいよ」

「被害者ぶるでないノだ。ユウが真っ先にボケていることも多いではないか」


「ボケとツッコみ談義はもういい。えぇと、ミノウがドラゴンを作った、と言ったな。それはいったいどうやったのだ?」

「いや、作ったのはミノウではなくてユウなノだ」

「俺はただきっかけを作っただけで、それを掘り出したミノウが」

「ミノウは迎えに行っただけなノだ」

「じゃあ、魔法をかけたハルミが悪いな」


「おいおい。いくら俺でもそれだけ話がとっちらかってると理解できんヤオ」


「分かりやすく言えばハルミは懐かれただけなノだ」

「そうだ、オウミが悪い」

「我はなにもしてないノだ、まったく悪くないノだ」


「ミノウが連れてきたんだったな」

「そう、ミノウが掘り出したノだ」

「じゃあミノウのせいにしておこうか」

「それで良いと思うノだ」


「こら。欠席裁判はやめるヤオ」

「じゃ、じゃあ悪いのはオヨリってことで」

「それでも良いノだ」


「よかねぇよ! お主らは自分さえ悪くなきゃ良いのか。どさくさで俺を混ぜるな。そもそも誰が悪いかなんて話はしてないヤオ。どうしてこうなったのかって聞いてるヤオ」

「もちろん、それはオウミが」

「我は関係ないノだ。ハルミが」

「いやいや、元はといえばミノウが」

「それを言うならユウが」


 ごち~ん×ふたり分


(オヨリがふたりを、拾った玄武岩で叩いた音である)


「痛たたたた。そんな硬いもんで殴るな!」

「ノだノだノだ。ひどいノだ。痛いノだ。久しぶりに本気で痛かったノだ」


「お主らの話がちっとも進まんからだ。責任論はどうでもいい。あのドラゴンはなにものだ?」


 あれはかくかくしかじかという、そんなわけだ。とユウとオウミの掛け合い漫才……ボケとツッコみを交えた説明で、ようやく正しく内容を把握したオヨリであった。


「デジャブなノだ?」

「オヨリって意外と遠慮のないやつだなイてててて」

「俺は目的達成のためには、最短ルートを選ぶのが好きヤオ。そのことに関しては遠慮はしない」


「俺、一応イズモ太守なのだが、いててて。そういうのは嫌いじゃないが、痛いのは嫌いだ」

「それならふざけないで真面目に話してくれれば良いヤオ」


「「それはダメだノだ」」

「なんでだよ!」

「「真面目に話したら、この物語の根幹が崩れるからだノだ」」


 どんな根幹だよ……と頭を抱えるオヨリであった。



 3人がここに飛ばされる少し前のイズモでは、ユウの発言に皆の注目が集まっていた。


「なんかあのちっこいのが威張ってるようだが」

「俺が絞めてやろうか?」

「バカこけ。あの人はイズモ公だぞ。人間だがめっぽう強い部下がたくさんいるという話だぞ。ヘタしたら死ぬぞ」

「俺も聞いたことがある。たしか幼女の姿をしたスクナという人が、後ろで糸を引いてるそうじゃないか」


「人? なのか、そのスクナってのも」

「なんでも日本中の魔王を従えているって噂だ」

「げげげげっ。そんな部下がいたら、なんでもできちゃうな」


「すでになんでもやり放題みたいだぞ。逆らったらどんな目に遭わされる分からん」

「なんまんだぶなんまんだぶ」

「お前も一応は神だろ。念仏を唱えてどうするよ」

「もう神仏習合に馴染んでしまってな」


 プライドもへったくれもない神々である。


 そこに磊音とともに乱入してきたのが、ふいんきとその背中にノミのようにしがみついていたハルミとユウコであった。


 ハルミはオヅヌと戦っているうちにユウたちにホッカイ国に置いて行かれ、思うさま戦って満足してクマノに帰ったオヅヌにも置いて行かれ、なんだかんだでホッカイ国にぽつりと取り残されていた。ふいんきとともに。


「ママん?」

「ん? ああ、ふいんきか。お前、また大きくなったな」


 ふいんきは毎日のように脱皮を繰り返し、いまではハルミと肩を並べるほどの身長になっていた(身長が同じということである。頭からシッポまでの全長でいえば2メートルは超えていると思われる)。


「なんか寂しそうなん?」

「あ、ああ。私はユウの護衛だったはずなのだが、置いて行かれてしまった。これじゃ、ユウコの二の舞だ」


「呼びました?」

「あぁ、びっくりした!! ユウコもいたの? ミノに帰ったんじゃなかったの」

「いましたよ、ずっと。ここで足踏みマットになってました。私なんか根を詰めた置いてけぼりキャラなので、このぐらいいつものことです」


「根を詰めないほうがいいと思うが。そうか、それで足元が暖かかったのか。それはありがとう」

「いや、お礼を言われるのはなんか違うんだけど。それより、ユウさんを追いかけなくて良いの?」


「追いかけたいのはやまやまなのだが、私には方法がないのだ。船で追ってもイズモに着く頃には年が明けているかも知れない。ミノはもっと遠いし、どうしたものか」

「どこに行くのん?」

「最優先はユウの行ったところ、イズモだ。でもふいんきは転送魔法なんか使えるはずはないよな」

「それなら僕が送るのん」


「「使えるの!?」」

「イズモってどっちのほうなのん?」

「だいたいあっちのほうだけど」

「分かった。やってみるのん」


「ちょっとちょっと待って。私もたいがいいい加減だけど、あっちのほう、なんて適当な情報だけで転送できるものなの?!」

「まさか、その背中に乗って飛んで行く、とかじゃないよね?」

「僕、まだ飛べないのん」


「そうか、じゃあ転送しかないのか。いままでに使ったことは?」

「あるわけないのん。だけどなんとかなるのん。多分」


「私、最後のひと言がすっごい気になるんですけど。転送先が海で、そこにドボンなんて嫌よ」

「そのときは僕が助けるん」

「落ちることが大前提になってますけど!?」


「水練なら私は得意だぞ」

「そういう問題でもないような。だってこの気候よ?」

「僕が助けるってば」


「まあ大丈夫だろう。それしかないのならやってみよう。ふいんき、転送して。行き先はイズモの宮殿ね」

「了解なのん。だいたいで転送するのん」


「ふぁっ!? って言ってるの私だけなのねひゃぁぁぁぁぁ」


 こうしてハルミ、ふいんき、ユウコの3人の、苦難の旅が始まったのである。

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