第7話 個別に話を

「「「「それでユウはどっちに付くんだ!?」」」」


 イズモに着いた俺たちを見るなり、そんな言葉が飛んできた。言ったのはアマチャンとスセリ。それにヒダのエロ姫とアイヅのハニツだ。なんか懐かしいのがいるな。


「誰がエロ姫よ!! 367話以来の久しぶりの登場なんだからまともに紹介しなさいよ!」

「タッキーも元気そうね」

「あん、スク姉。助けて。お願い、こっちに付いて」

「こっちって、あんたはどっちなの?」

「私はもちろんアマテラス様側よ。だって同じ女性だもの」

「あんたのその理由は納得がいかない。これから状況を見極めてからにするわ」

「うぅぅ、スク姉ぇぇ」


「ユウはアマテラス様と同じ系統の魔法使いであろう。こっちに付くべきだぞ」

「ハニツもそっち側に付いたのか。でもなんだよ同じ系統って。俺はカイゼン士だ。魔法は使えないぞ」


(いや、そんなはずはないのじゃがな)

(アメノミナカヌシノミコト様、まだ、内緒になっているノだ)

(もうバラしても良いのではないか?)

(そのほうが話がおもろいから、とかなんとかヨ)

(そうかのう?)


「ユウとオオクニとは切っても切れない縁で縛り付けられている間柄でしょうが。こっちに付きますわよね?」

「縛り付けられた覚えはねぇよ! オオクニを縛ってんのはスセリ、お前だろ」

「…………」

「アマチャンもなんか言えよ」

「ユウの性格を考えると、どう言っても無駄なような気がするのじゃ」

「良く分かってるじゃないか」


「「「「それでユウはどっちに付くんだ!?」」」


 俺とスクナが到着してから、こんなやりとりが延々と続いた。旧交を温めるとかどうでもいい。俺は情報が欲しいのだ。しかしどいつもこいつも自分の主張を繰り返すばかりで、正確な情報が手に入らない。いい加減うんざりしてきた。


「相変わらず人間関係にはドライだヨ」

「うん、こいつら人間じゃないけどな」


「スクナ。ダメだこいつらから有益な情報を引き出せない。なにが問題なのかさっぱり分からん」

「そうね。でも問題は分からないけど、私が見る限りではだいたいこんな感じで分かれてはいるようよ」


 オオクニ派はスセリを筆頭に西側諸国(ほぼ、アマテラスを押しつけられたくない勢)、アマテラス派はナガタキとアシナで、東側諸国(ほぼ、アマテラスを押しつけたい勢)の代表のようである。


「結局、アマテラスじゃねぇか!」

「でもそれにしては、拗れすぎよね?」

「それは確かにそうだ。しかしなあ、スクナ」

「なに?」


「いっそのこと、こいつら全部滅ぼしてこの国から神の領地なんてなくしちゃったらどうだろう?」

「どうだろう、ってそんな物騒なことを真顔で言わないで! いくらユウさんだって、この人数よ?」


 うぅむ。やはり許可は下りないか。どうするべぇかなぁ。


「スクナが許可したら神を滅ぼすつもりだったノか」

「発想が極端なやつだヨ、まったく」

「スクナも人数次第では俺に同意するような言い方だったけどな!」


 返事を保留したままもっとまともなのはいないかと会場を歩くと、なにやら人だかりになっている場所があった。


「神だかり、というべきなノだ」

「知らねぇよ。あれ? そういえば」


「お前ら、なにげに出てきているが、いいのか?」

「なにがなノだ?」

「神の祭りにお前らは参加していいのか?」


 ぴゅっ。


 隠れやがった。



「それで、難民はどのくらい出ているのだ。どの地域で多いのだ。ニホン海側といっても広いぞ、どことどこのことだ」

「えぇいもう、うるさいわ! お前の頭髪には関係ないから黙ってろ!」

「人の頭のことは放っておけ! それより正しい情報をよこさんか」


 口げんかしているのはオオクニとイセのようだ。どうやら騒乱の発生元はここらしい。それを取り巻く連中が大勢いた。俺が見たことのない連中ばかりだ。



「俺はオオクニ様に20円な」

「それならあたしはイセに100円」

「さぁみんな、張った張った。オオクニ様対イセの世紀の大決戦だ。どっちが勝つか賭けるどこどこ」


 騒乱の場がカジノになっとる。神のくせにいいのかよ。って仕切ってるタケじゃないか。お前、オオクニの部下だろ。


「情報というものはだな、自分で調べて手に入れることを言うのだ。どのみちお主の領地には関係が……あっ!? ユウではないか! こっちだ、こっち。こっちに来てくれ」

「なに、ユウだと? おおっ、久しいな。お主も招待されたのか」


 全員が振り返ってこっちを見た。いや、お前らさっき会ったばっかりだろ。小1時間ほど前に俺をスカウト? にホッカイ国まで来たくせに、なんで久しぶりに会った感を出してんだ。


「ご無沙汰をしております。オオクニ様、イセ様。ご健勝そうでなによりです」


 スクナよ、お前もか。


「誰?」

「あれは確かこの領地の太守じゃないか?」

「ってことは人間か。魔王は来てるし、あんな子供まで呼んで、この祭りの威厳なんかあったものじゃないな」

「最初から祭りに威厳なんかないだろ」


 神々が勝手なことを言い合っている中を進んで、オオクニたちに近づく。なんか視線がトゲトゲしいのは気のせいじゃないだろう。


 俺だって好きでやって来たわけじゃないのに、噂の種にされるのは面白くない。あまりの緊張で、右手と左手が右足と左足の合間を縫うように出たり入ったりしている。


(起用な歩き方なノだ)

(表現をややこしくしただけで、普通だと思うヨ)


 芸能人ってのはいつもこんな感じのストレスに晒されているのか。人気者の辛さが少しだけ分かった。


「イズモの太守って女性だったのか」

「ああ、かなりのやり手だという話だ」


 見てるの俺じゃねぇのかよ!


(わははは、いまのは相当恥ずかしい勘違いなノだわははきゅっ)

(やかましいわ。池に沈めて腐った頃に掘りだして皮を剥いたろか)

(それ、なんてイチョウの実なノだ)


「それで、いったいなにがあったのですか?」

「それはだな、さっきも言った通……ごにょにょ」


 その設定まだ続けるんか。


「オオクニのやつが」

「イセが」

「スセリが」

「たぬきなのん!」

「アマテラスが」

「「「「「悪いんだ!!」」」」


 メンバー紹介はもういいっての。あと、たぬきネタはいつまで使うつもりだよ。


「うん、聞いたこっちが悪かった。聞き方を変えよう。スクナ、ここは俺に任せろ」

「う。うん。もう私では話をほぐせそうにない。ユウさんに一任します」


 スクナの言う通り、この状態では話をまとめるのもほぐすのもムリだ。多少時間はかかるが、ひとりずつ個別に話を聞こう。それ以外に全貌を掴む方法はない。


 どんなに入り組んだ難問も、目の前の小さなゴミ(問題)をひとつずつ片づけて行くと、本当の問題が見えてくるものだ。


 だから面倒くさがらずに、前の前のガラクタを片づける。そこから着手しよう。


「まずは、全体を見ていたであろうアマチャン。お前から話を聞きたい」


 なんであんな子供が威張ってんだ? スクナ様の従僕じゃなかったのか? アメノミナカヌシノミコト様に命令をしているように聞こえたぞ。生意気だな、絞めちゃおうか?


「コホン。あの、みなさん。この方がイズモ公であり、4人の魔王を眷属に従えるユウ・シキミ様ですよ」


「「「「「ふぁぁっ!?」」」」


(正確には魔王の眷属はふたりですけどね。まあ、ユウさんに従うという意味では間違ってはいないからOKよ)


「ワシが最初か、良いとも。なんでも答えようぞ」

「それじゃ、宮殿まで来てもらおうか」

「いや、宮殿はユウさんのものじゃないから。ユウさんは招待されるほうだから」


「込み入った話になるから、ワシのとっておきの場所に招待しよう。宮殿よりもずっといごごちの良い場所があるぞ」

「いごこちは別にどうでもいいが、話がしやすいところならいい。では、連れて行ってくれ。スクナも一緒に来い」

「もちろん、ついて行きます」


「じゃ、ふたりじゃな。イズモの唯一のラーメン店までご足労願おう」

「「ここでもラーメン屋かよ!!」」

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