第6話話 ここがイズモ、なのか?!

「悪いなオヅヌ、俺の護衛などさせて」

「かまわんよ、イセ。アメノミナカヌシノミコト様の命令では仕方ないであろう?」

「確かにそうだが」


「お主の立場では命令には逆らえんであろう。オオクニならともかくアメノミナカヌシノミコト様ではな。それにワシも一度、首都と呼ばれるところに行ってみたかったのでちょうど良いのだ」


 ほんとは行きたくて仕方なかったんだろう、とは朴念仁ではないイセは言わない。


「俺は所用もあるので3日ほどで帰るが、お主はしばらく滞在してもかまわんぞ」

「そうはいかん。俺の役割はお主の護衛なのだろう? 役目を放棄するなど俺にはできん」


 だがオヅヌにそれは通じない。アマテラスに会えると思うからこそイセの護衛を承諾したのだが、それとこれは別なのである。朴念仁オヅヌはそのことに少しも矛盾を感じてはいない。バレてないと思っているからである。


(他人の親切が分からない男だ。だがまあ、それも含めてオヅヌということか)


 かつては戦争寸前になるほど仲違いをしていたイセとオヅヌであるが、ユウの仕組んだラーメン作戦によってすっかり毒気を抜かれてしまった。いまでは仲が良いとまではいかないが、それなりに尊敬しあう間柄となっている。


 オヅヌはイセラー祭(と命名された)のイセの仕切りの緻密さや行き届いたサービス精神に、イセはオヅヌの剣技の見事さや民衆への対応の柔らかさに。


 それぞれ自分にはない特質を目の当たりにして、ある意味尊敬と友情を感じたのであった。剣を交えなくても通じる才人の阿吽というものであろう。


 そんなふたりが徒歩でイズモに向かっている。ふたりとも初めての土地なので、転送が使えなかったのだ。


 ただ、ひたすら歩いた……いや、ふたりで競争するように走ったといったほうが良いであろう。

 オヅヌは言うに及ばず、イセとて魔王の中では筆頭クラスの体力自慢である。そんな彼らが競争するように駆け抜けた距離は約490km。それをわずか4時間ちょっとで踏破したのであった。


(どんだけ健脚だよ!)

(健脚ってレベルではないノだ。あきれ果てたノだ)


 と、いったいどこで聞いているのか分からない、いつものふたりのツッコみである。


「ここがイズモか。ずいぶんと寂れたところだな。人家がほとんど見当たらない」

「俺もここに来るのは初めてだが、イセの田舎でももう少し人がいる。旅人をもてなす施設もないし田んぼさえもまばらだ」

「イズモにはそもそも旅人が来ないのか?」

「人が来ない首都なんてあるのか?」

「「どうしてこんなとこが首都なんだろうなぁ?」」


 首をかしげるふたりだが、招待された場所に着くとまた違った感想を持つことになった。


 160話で、イズモに初めてきたユウが言ったセリフを、そのままコピペである。


「「ほんとに、ここが首都、なのか?」」


(コピペとか言っちゃってるノだ)


 と、どこで聞いているのか分からないオウミのいつものツッコみである。面倒なので以下は略すことにする。


「こ、これがイズモの宮殿なのか?!」

「そ、そのようだな、イセ。ワシはそれほど驚かんぞ。ワシの住み処に比べたらずっとましだ」

「お主は山小屋勤務であろうが。それは比べるほうがおかしい」

「勤務言うな。好きで住んでいるのだ。壊れても簡単に直せるし、いくらでも作れるしな。しかしこれはなんというか」


「でかいことはでかい。それはそれですごいのだが、まるでメインテナンスがされてない。壁なんか漆喰がボロボロで中の藁が露出しているではないか」

「柱なんか半分くらいしか残ってないぞ。それに屋根はどうしてあんな赤いんだ?」

「錆びたようだな。銅瓦を使ったのであろう。あれは耐久性は高いのだが、ここまで放置されれば錆びて穴が空く。おそらく中の湿気はたいへんなものだろうな」


「これでよく建っていられるものだ」

「これが首都イズモが誇る宮殿、なのか」


 そこに案内人の登場である。


「いらっしゃいませどこどこどこどこ」

「タケか。招待状をもらったのでまかり出た。世話になる」

「どこどこどこ」

「お主はすっかりそのキャラが定着したようだな」

「おかげさまでどこどこ。ささ、オヅヌ様はあちらの奥でアマテラス様がお待ちです。イセ様はオオクニ様にお目通りを」


「いや、俺はイセの護衛としてここに来ているのだから」

「まぁまぁ、イズモに着いたら固いこと言いっこなしで。ささ、ずずずいーーと。おい、お前たち。オヅヌ様をアマテラス様のところまでご案内しなさい」


 と、後ろに控えていた双子の女の子、タケミとカズチに命じた。いずれもアマテラスに使える小姓である。


 赤と白の巫女服をまとい、両手に神楽鈴を持つ彼女らは、腰まである長い髪の隙間から小さな角を生やし、年の頃なら10歳になるかどうかの、愛らしい少女たちである。


「「はーい。オヅヌ様、こちらにどうぞシャンシャン」」

「いや、ワシは護衛で」

「もうイズモに着いたのだ。お主の仕事は終わったのだよ。せっかく案内してくれるというのだ、まずは挨拶に行って来い」


「そ、そうか。お主がそう言うなら。挨拶だけしてくるか。小姓たち、案内を頼む」

「「はいシャンシャン」」

「パンダじゃないのだから、いちいちそれを鳴らさなくても良いぞ」


「でもこれを」

「なんだ?」

「鳴らさないとキャラが確立できないって」

「どうしてそんな必要があるのだ。誰が言った?」

「イズモ公です」


 ユウのやつめ、こんな子にまで魔の手を伸ばしおって。今度合ったら折檻してくれる。


 オヅヌとユウはもうじきここで会うことになるのだが、ユウにとっては青天の霹靂であろう。


 そのあと、オヅヌはアマテラスといちゃコラし、イセはタケの案内でイズモの視察をして回った。どちらも有意義な時間を持ったようである。


 そうこうしているうちに、あの神在祭が始まるのである。

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