第2話 問題はイズモで
俺は忘れていた。普段見ている魔王ども……たとえばオウミなどは、小さくてちょろちょろと動く愛らしいペットのようなものだ。
「ぴくっノだ」
「愛らしいって言葉に反応してんじゃねぇよ」
それに比べるとミノウは、俺の元いた世界にアクセスできるせいもあるだろう、物知りで分析能力もある。かなり知性は高いと言って良い。
「ぴくっヨ」
「お前も知性が高いに引っかかってんじゃねぇよ!」
そしてイズナは。
「ゾヨゾヨ?」
「次は自分の番だと思って、聞き耳を立ててんじゃねぇ!」
「ワシの褒め言葉はないのかゾヨ?」
「ウエモンに言ってもらえ!」
なんでこんなのが魔王になれたんだろうなぁ。だからつい忘れてしまうのだ。こいつらが、ニホンの創造神・アメノミナカヌシノミコトから1国の統治を任された魔王であることを。
「そいつらの領地ミノ国、ニオノウミ国、エチ国、それに俺のホッカイ国まで加えたら、このニホンを征服することだって不可能ではないぞ?」
「カンキチも、まっぷたつに割れてるニホンを、みっつに割ろうとすんな」
あ、そういえば俺はイズモの太守だったな。イズモって動員できる人員はどのくらいいるんだろ? 人口は多くはないが、戦力になる人間ならそこそこいるだろう。ニオノウミよりは多いよな。
「「「お主が一番好戦的なノだヨゾヨだ!!」」」
くっそ、いっぺんに仕返しされた。
「それだけじゃないぞ、ユウ」
「まだ、なんかあったか? 金ならないぞ?」
「いや、あると思うんだが、それよりもだ」
「ないっての。それより?」
「なんといってもあのオヅヌも一目置くほどの聖騎士・ハルミがお前の配下だ」
「あ、ああ。そうか。あれはちょっと、表には出したくないけどなぁ」
「盗られるのが怖いノだわはははきゅぅぅ」
「恥ずかしいからだよ! 黙ってないと、全身に原油を塗りたくってやるぞ」
「ひょぇぇぇぇ」
「さらに言えば、お主の作った魔刀だ。ところで俺の分はまだか?」
「どさくさに紛れに催促すんな! もう作らないって言ってるだろ」
「お前の眷属魔王のうち、俺だけが持ってないのに……だが、その魔刀を持った魔王が3人もいるのだ。オヅヌ以外に勝てるやつはおるまい」
「あの魔刀があって、それでもオヅヌに勝てないお前らって……」
「「「(´・ω・`)ノだヨゾヨ)」」」
自分の情けなさを顔文字で表現するな。あと、ハルミも魔刀を持っているけどな。ミヨシの魔包丁やウエモンの魔ドリル、ゼンシンの魔ノミの数々もある。戦いには関係ないか。
「さらにだ」
「まだあるんか!?」
「ある。ニホン刀だ。いまどれだけあるのかは知らんが、あれだって剣士の能力を大幅に引き上げるアイテムだぞ」
「ああ、そういえばいまも増産をかけてたはずだ。シキ研の商品の中では一番攻撃力を上げる装備だな」
「それからいざとなれば、アイヅとサツマもお前に付くともっぱらの評判だぞ」
「アイヅはハルミで、サツマはハタ坊だけどな」
「どちらもお前の身内だろ」
「それもそうか」
あれ、俺は平和主義者だ。だから誰とも戦闘などしたことはない。
「弱いやつが必ず言うノだ平和主義者わらい」
わらい、じゃねぇよ。せめて漢字で言え。
「ちょくちょく国を滅ぼすとか言ってたようだヨ」
あれはただの口癖な。
「ワシの国の戦車をぼろぼろにしたくせに、戦闘したことがないとはどういうことゾヨ」
俺はしてねぇよ!
俺はカイゼンがしたかっただけだ。どれもこれも、その過程で生まれたものだ。それなのに、なんで俺にこんな戦力がくっついちゃったんだ?
「それにあのラーメンな」
「いや、ラーメンは違うだろ?」
「ポテチもあるノだ」
「爆裂コーンも捨てがたいヨ」
「ユウご飯には世話になっている」
「サツマ切子は高値で売れてますよ?」
「エチ国は小麦の産地として生まれ変わったゾヨ」
俺が開発した商品を並べてんじゃねぇよ! 紹介ありがとよ……あれ? なんか違うのが混じってなかったか?
「ユウさん、あれほど言っているのに、またやらかしましたね?」
「げげげっ!? レンチョン! なんでここに?」
「たったいま到着しました。ネコウサ、ありがとうね」
「このぐらいお安い御用だモん」
「スクナを放っておいて、ネコウサはなにやってんだ!」
「スクナが迎えに行ってこいと言ったモん。お前になんか関係ないモん」
「あれを作った、これも作った、これからあれもやる、という報告が来るたびに、シキ研中が大騒ぎして対応に当たっています。これ以上やらかされたら、全員が過労死です。だから止めに来ました」
「そ、そうか。それはまあ、人を増やしてくれれば解決」
「そんな急に人だけ増やしても、役には立ちませんよ! 単純作業じゃないんだから」
「サ、サツマ切子が売れてて良かったね?」
「良かったね、でもありません。私もいくつか買いましたが。さあ、ここを引き払って一旦ミノ国に帰りましょう。そこでじっくり話を説教します聞きます」
「混ざってる混ざってる。会話と説教が混ざってる。帰ることに異存はないのだが、実はそのやっかいなことになっていて。なぁ?」
とカンキチを見る。
「あ、俺は原油の溜まり具合を確認しに行く。じゃあな」
逃げ足の速いやつ!?
「えっと、じゃあミノウ?」
「我は知らないヨ」
「オウミ?」
「我も知らないノだ」
「イズナ……」
「ワシなんか全然知らないゾヨ」
「えぇと、ハルミ?」
「たぁぁぁぁぁぁあ、とぉっいえぇぇぇぇ」
「分かった、お前は戦ってろ」
カイ……はもう帰った? キタカゼも一緒に? あの小うるさい神々も、みんな帰った? 俺をスカウトに来て揉めてたくせに、なんでいきなり消えたんだ?
「どぉぉやぁぁぁ」
残ってるのはオヅヌ、お前だけのようだぞ。
「ユウさん、私がここだって教えたんですよ」
「レンチョンを呼んだのはスクナだったな。さっきの連中はどうして消えたんだ?」
「ちょっと脅したらすぐ帰っていかれましたよ」
神を脅したのかよ怖い子!? あいつらがスカウトすべきはスクナのほうじゃないのか。
「それでいったいなにがあったんですか。なんです、連中って?」
「それが。どうやら、えっと、なんて言えばいいのかな、スクナ?」
「それはユウさんの口からはっきりと」
そこは助けてくれないのね。
「ニホンをふたつに割ったから、俺に付けとかなんとか」
「なんの話ですか、それ? また仕事を増やす気じゃありませんよね? もうシキ研とて限界ですよ」
「いや、それはそうなんだが。そのなんていうか、ほらいま、神無月じゃん?」
「神無月……10月ですね、確かに」
「そ、そ、そんな設定、いつの間にしたノだ?」
「382話が始まったときから、そんな話一切出ていないヨ?」
「まさか、いまになって急に決めたわけではあるまいゾヨ」
そのまさか、です(笑)
「まるまる半年かかってやっと季節が出てくるという、この話ではよくあることだ。それで神無月と言えば、イズモでは神在月だろ?」
「よくあって良いのですか、それ。えぇと。イズモだけは神様が集まるので、神在月というのでしたね。それがなにか?」
「そこで、オオクニとアマテラスが大ゲンカをしたらしい」
「やれやれ、またですか。その仲裁でも頼まれんですか?」
「それが、時と場所がまずかった」
「時と場所?」
「神々がわんさか集まっていた時に、その面前でやらかしたんだ」
「ふむ」
「それで、ニホンをふたつに割った大騒動となっているらしい」
「ぐっ。そ、それは大変なことですね。でもそれとユウさんとなんの関係が?」
「俺に味方に付け、と双方が言ってきた」
「なるほど、そういうことでしたか。確かにこのところ、ニホン刀の増産要請がトヨタ家から所長に届いていたり、アズマでダマク・ラカスがやたら売れていたり」
「ダマク・ラカスは関係なくね? それより驚かないんだな」
「国が揺れているというのは感じてましたし、それに騒乱というのはトヨタ家の商売では稼ぎどきでもあるのですよ。馬車の需要が跳ね上がるのです。ということは、武器や防具の生産を増やして、ニホン刀も増産をかけるか……タケウチの人に過労死する人が出なきゃいいけど、そしてあとは食糧の買い入れを増やして備蓄場所の確保、それに……」
「おいおい、物騒な話をシレッと混ぜながら自分の世界に入ってしまったぞ、この人」
「根っからの商売人ね、うふ」
「うふ、じゃないだろ。それで俺はどうすればいいのだ?」
「いま必要なのは情報です。どちらの陣営がどのくらいの仲間を集めているのか。動員できる武人と武器、魔力、そしてお金。その辺をしっかり調べてから、どちらに付くのか決めましょう。負けそうな方についてもメリットありませんからね」
「レンチョンらしいな」
「調査はレクサスさんにお任せしましょう。私たちはまず騒乱の元となった人たちに話を聞いてきましょう。ユウさん、イズモに行きますよ」
「俺は何も考えてないのに、どうして行き先が勝手に決まるんだよ」
「何も考えてないからこそ、でしょ。こちらの後始末はエゾ家に任せて。行きますよ。それとミノウ、イズナをもうイジメじゃだめよ、ぽかんっ!!」
「痛いヨ。悪かったヨ。もうしないヨ」
良くこのタイミングで思い出せるな、おい!?
「ミノウとネコウサは私が連れて行くから、ユウさんはオウミだけ連れてイズモに飛びましょう」
「ワシも行きたいゾヨ」
「ウエモンが仕事が溜まって困ってるのよ。助けてあげて」
「ああ、そうか。それなら戻るゾヨ。ふいんきを連れ行っても良いゾヨ?」
「ふいんきはハルミさんに任せましょう」
「とぉぉぉ。分かった,ふいんきは私が面倒みる。とぉぉやぁぁ!」
それでも戦いは止めないのかよ。どんだけ楽しいんだ。
この場はもう完全にスクナが仕切ってる。主人公は俺なのに。この章では脇役になっちゃうのか。
「最下層ナ」
「それはもう忘れろ!! さっさとミノに帰れ!!」
「帰るのはユウコナ。我はついて行くだけナ」
「くっそ、口の減らないだっこちゃんコアラめ」
「あとの人は、レクサスさんと一緒にシキ研に帰って、そこで情報収集のお手伝いをしてください」
「生産のお手伝いもお願いします」
「「「分かった」」」
いよいよ騒乱編の始まりである。
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