異世界でカイゼンⅡ ~騒乱編

北風荘右衛

第1話 ルーシ国編のまとめから始めます

「うぅぅぅん」

「イリヒメ、便秘か?」

「ち、違うわよっ!! 便秘でうぅぅぅぅんとは言わないでしょ!」

「ちょっとしたツッコみボケだ。それでダイヤモンドの調子はどうだ?」


「それが全然ダメ、はぁぁあ」

「タメイキがでかいな。ダメなのか」

「ダメ、どうしてもこんな真っ黒な結晶になってしまうのよ」

「黒のダイヤモンドならそれなり価値が……なんだこりゃ」


「明らかに炭素の塊。炭に近いと思うわ」

「砂粒に比べればサイズはずいぶん大きくなったな。直径10cmはあるんじゃないか。指で押さえるとなんともいえな弾力があるようなないような」

「どっちよ」

「いや、炭としては硬いがダイヤモンドほどじゃないという微妙な手応えだ。ただ表面の手触りがなんとなく柔らかい。あと、手に黒いススが付くのがなんか嫌だ。これなら字が書けそうだ」


「そうなの。どうしてもこうなっちゃうのよ。ダイヤモンドを作るのは難しいかも知れない」

「まあそんなすぐに諦めずに、テストを継続してくれ」


「まだやってて良い?」

「ん? どうしてダメだと思ったんだ?」

「この原油を全部使ってもいいのかなって」

「ダイヤモンドができるなら……わぁお! もう池の半分が炭になってる!?」


「炭化したのは池の表面だけだと思うけどね。あの魔法はあまり深くまでは干渉しないのよ」

「だけどイズナはかなり下まで潜ったようだったが?」


「その理由が分からないのよ。魔鉄があれば事象改変は確かにできるんだけど、黒い塊になるだけなの。魔王様の刀を2本使ってもそれは変わらなかった。あの金めっきが邪魔しているのかなぁ」


「それなら金めっき、剥がしちゃうか?」

「「だ、だ、だめ、ダメなノだヨ!!!」」

「って言うしね」


「あの魔鉄は特殊だったのかな?」

「でも原料は同じでしょ?」

「同じっていうか、あれはイズナ製の魔鉄だ。こいつらの持っている魔鉄とはちょっと違う……ってそれかな?」


「そういえば私。魔鉄の作り方聞いたことがないけど?」

「あれは教えられない」

「どうしてよ!?」

「情報漏洩不許可御法度事項だからだ」

「なによそれ?」


 良く覚えてたな、俺。


「そうだ、ふいんきのしっぱを使ったらどうだ? あれはもともと魔鉄だろ」

「それもやってみたけど、ちょっと黒さが増すだけで同じなの。これがそうよ」


「ふむふむ。これがそれか。確かに黒さは増した。それに硬くなった感じだ。これなら触っても手が汚れないのが不思議だ。どう違うのかなぁ。ミノウ、分かるか?」


「ふむ。ふいんきのしっぱのほうが不純物が少ないヨ。だけど、どちらも結晶化はしてないヨ」

「そうか。純度が高い分だけ黒さも増したということか」

「だけど、それがどうしたって話よ。欲しいのはダイヤモンドなのに。魔鉄に原因があるのなら、私にその作り方を教えてよ」


「それはダメだっての。魔鉄が原因だとして、あのふいんきのしっぽになった魔鉄はイズナ製作で、それをゼンシンがドリルに加工したもの……あれ?」

「どうしたの?」

「まさかとは思うが。ドリルすんのかい?」


「なんの話?」

「あ、いや、こっちの話。形状がドリルじゃないといけないとか?」

「ああ、形状か。それは思い付かなかった。一度やってみましょう。ドリルをちょうだい」


「あ、いや、もう原料がなくて作れないんだ。あれが最後の1本だった」

「あぁん。それじゃあもう試験はできないわねぇ」


 厳密にはウエモンが使っているものや、ゼンシンの仏像作り用のドリルは存在するが、生産に支障をきたすので試験には使えない。


 結局、ダイヤモンド化の真相解明はお蔵入りとなった。だが、おかげでひとつ有意な商品が生まれた。ふいんきのしっぽを使った新しい炭である。


 一方、ハルミの魔法とゼンシンのドリルとの合作でできたダイヤモンドは、魔王たちが砂に潜り回収し(させられ)た。


 その砂の中から拾ってきたダイヤモンドは、なんと1辺が1cmほどの美しい正8面体をしていた。5カラットに相当する大物ダイヤモンドである。あちらの世界なら1個で数百万はすると思われる。


 それが27個あり、不思議なことにすべて同じサイズと形状であった。それ以外は砂粒だけであったとイズナが報告した。その中間のサイズや別の種類のものは見つからなかったそうである。


「欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい……」


 とわめいた女性陣(スクナ、ユウコ、ハタ坊、イリヒメ、ウエモン、ミヨシ、それじゃ私もと言ったハルミ)に、公平にとひとり1個ずつ渡してその場を納めた。


「3つずつくれても良いのよ?」


 という苦情は突っぱねた。どうしてできたのかが分かるまでは、大切な研究試料である。二度とできない可能性も考えておくべきだろう。


 そんなこんながあったが、商売としてはうまくいったのだ。


 ダイヤモンドの砂粒は、すべて手作業で回収し(魔王たちの仕事である)た。相当の量であったし、当然ながら原油でベトベトになっての作業であった。ご苦労様である。


「それだけなノか?」

「なんかご褒美とか欲しいヨ」

「すごく働き損な気がするゾヨ」


 ハルミの識の回復魔法をかけてやるから、それで我慢しろ。


 粉末は篩(ふる)いにかけて粒を揃え、粘土に練り込んで焼成し、砥石として活用することにした。ダイヤモンド砥石の完成である(アチラとゼンシンの仕事)。


 これは刀や刃物を研ぐ(ヤッサンの仕事)のに絶大な力を発揮したばかりでなく、切り子製作に使用するはんどぐされだぁ(ハンドグラインダー)用の砥石にすると(カメジロウの仕事)、1ランク上の精密加工が可能になったのである。サツマ切り子はもはや押しも押される芸術品となった。


 おかげでシキ研の儲けは増え増え、うはうはである。問題は砂の供給が止まってしまったことであるが、すでに大量にあるので数年は供給に問題はないだろう。その間に研究成果(イリヒメの仕事)を待つことになる。


 代わりにできてしまった黒いダイヤモンド――俺の見立てでは骸炭(がいたん・コークス)に近い――は、カイのルーシ国に降ろすことが決まった。


 火は着きにくいものの、一度燃え始めると赤くなっていつまでも燃え続けるという特性は、暖房用としては最上級であった。しかも不純物が少ないために、臭いも有毒ガスもでないというおまけ付である。


 そして値段はなんとキロ200円である。キタカゼが内地から運んでくる炭がキロ5,000円であることを思えば、破格の安さである(キタカゼは泣いていたが)。


「泣いていたが、ではないの。我がどうして郎党引き連れてここまでやって来たたと思ってるの」

「知らねぇよ。そんなのお前の都合だろうが」

「ユウの戦力が必要だからと思って」

「嘘付きやがれ! カイと結託してたじゃねぇか」


「かつてそういうこともあったかも知れないの」

「ついさっきだよ! それよりキタカゼには話がある」

「なんなの?」

「俺が作った備長炭をニホン全国に運んでもらいたい」


「びんちょうたんとは、確か炭のことなの。でも、炭は現在でもあるし、多少品質が良くなったぐらいで」

「なにをいうか。この黒い粒に匹敵する火力が」

「雰囲気なの」

「あって、長く燃える……なに?」


「この黒い石は雰囲気と名付けたの」

「だ、だれ、だれがそんなことを?」

「「「さぁ? なんとなく」」」


「もう俺の知らないとことで、ヘンテコな名前を付けるなよ!」

「お主が名付けたダマク・ラカスはどうなのヨ」

「俺は付けてねぇよ!」


「そんなわけで、びんちょうたんというのは、この雰囲気と同じくらいの品質があるの?」

「ま、まあ、そういうことだ。ここでできた黒……ふ、雰囲気はちくしょう!、それほど多くは生産できない」

「あの原油が涌く分だけなのは理解できているの」


「だからあれはルーシ国を優先販売先とする。だがそれだけですべてにはならないから、あまった分はカンキチのホッカイ国で流通させる」

「ユウ、それは助かる。雰囲気は安い安全だし扱いも楽だ。ホッカイ国だって寒いからな。特に俺の居住地はこことさほど変わらない」

「うむ。雰囲気をどう分配するかはカンキチに任せる」

「ユウにはお世話になりっぱなしだ。俺のほうが眷属なのにな」


「ここの気候の厳しさは良く分かってるし、シキ研が損をしているわけじゃないから気にするな」

「我がニホン全国に運んで、もっと高い値で売ってもいいの」


「それは断る。あれはもともとホッカイ国産原油を使ったものだ。エゾ家とのいきさつを考慮してルーシ国用を優先とするが、ホッカイ国で使用するのが筋だろう。生産が安定すれば半分はホッカイ国に回せるようになると思うが、それ以上はムリだ」


「うぅむ。それで、びんちょうたんというのを我に運べというの?」

「お前が以前に言ってたよな、ハリマにいるカミカクシの助言でタンカーを造ったと」

「ああ、そうなの。石油というものを運ぶための専門の船だったの。だけど、石油がとれない以上は、あれは無駄な投資に……ちょっとことを急ぎ過ぎたの……」


「落ち込むなって。だから備長炭を運べといってるだろ」

「結局、それは炭なの。それならいままで通りの船で……あっ!?」

「やっと気がついたか。いままでの船では海水をかぶってダメになるリスクが高かっただろ? それも炭をここまで運ぶコストになっていたはずだ」

「おおっ、それをタンカーで運べば」


「お前の言うタンカーがどういうものか分からんが、液体を運搬する構造にはなってるはずだ。それなら濡らさずに固体の炭を運ぶことぐらい簡単だろう」

「そうだった。そうか、そうなの。タンカーにも意味があったの。さすが我なの」


「たったいま、無駄な投資とか言ってなかったか?」

「そんなことはどうでもいいの。それでびんたんちょうは、どこで作るの?」

「備長炭な。それはイセの領地だ。木材はクマノに多くある木だが、あそこは人口が少ない。材木をイセに集めてそこで炭を焼く。それを備長炭にするのは、俺に任せろ」


「備長炭作りだけで1章ぐらいまるまる稼げるノにゃぁぁぁ」

「お前は黙ってろ! そこまで書くと確定したわけじゃないんだ」


(アクセス次第では書きますがチラッ)


「作者の勝手な要望は放っておいて。分かったの、ここでの儲けはほとんどなかったけど、炭の需要はニホン的に多いの。ましてやこの雰囲気ほどの品質があるなら、天井知らずの需要があるの。ぜひ、それを我に扱わせて欲しいの」


「ああ、運ぶだけじゃなく買い入れから販売までキタカゼ家にすべて任せる。ただ、炭のカイゼンはこれからだ。時間がかかるからそれまでは待ってくれ」

「分かったの。進捗を毎日チェックするの」

「そんな頻繁にすんな! 月に1回ぐらいにしてくれ」

「分かったの。サボってはダメなの」

「サボらねぇよ!」


 俺はな。


 これによって、キロ1,000円で売る予定の備長炭は、積み込みか輸送・販売までがキタカゼの仕事となった。俺が製法を確立したら、生産はイセの仕事である。


 一般の炭は、ミノ市場ではキロ700円程度である。それに付加価値を付けた備長炭なら1,000円でも充分売れるはずである。特に金持ちへの需要は莫大なものがあると、俺は見ている。



「スクナどの。この雰囲気をほんとに拙者の国にそんな値段で売ってもらえるでござるか」

「はい、カイ様。そのためにカイゼンしたのです(私じゃないけど)。ぜひ使ってください。これでこの国ではもう凍死者なんかほとんど出なくなりますよ」

「その通りにござる。感謝しかないでござる」


 なんかスクナがうまいこと立ち回っているなぁ。カイも月100万円の収入がなくなることを憂いていたが、それをはるかに上回る利益(冬期の死亡者0が可能になる)を得て、狂喜乱舞状態である。


 ちなみに、骸炭……雰囲気のDC(ダイレクトコスト)はスクナの簡易計算では7円でしかないので、こちらはボロ儲けなのだが、そうとは知らないルーシ国の人には大変喜ばれた。比較が従来のキロ5,000円だからそりゃ当然である。


 シキ研は月に1度、溜まった原油を処理するだけである(ハルミとふいんきの仕事)。


 ハルミがふいんきを連れてこの地に訪れ、溜まった原油に識の回復魔法を20発ほどかける。

 それだけである。あとはできた骸……雰囲気は袋詰めをしてルーシ国まで船で運ぶのである(これは現地のエゾ家の仕事)。


 原油の産出場が海岸に近いのは幸いであった。港まで距離が近く荷物もさほど重くない(原油を運ぶことに比べれば)ので、運賃は高くない。液体よりは固体のほうが扱いも楽である。

 その結果がDC7円である(計算と値段交渉はスクナの仕事)。


 しかしカイなどはあまりの安さに感動し、スクナにルーシ国の名誉国民の称号を贈った。おかげでスクナはルーシ国にいつでも入国でき、どの施設にも自由に無料でアクセスできる権利を得たのである。


 俺にはないのかよ?!


「「「「お前はなにもしてないノだヨゾヨだろうがぞぞぞぞ!!」」」」


 うん、いままでタメにタメた分の一斉ツッコみ乙である。



「だからユウ、ホッカイ編のまとめをやっている場合じゃなくてな」

「なんだカンキチ?」


「みんなユウを自分の陣営に引き込みたいんだよ」

「まっぷたつに割ったというのは、オオクニVSイセということのようだが、まっぷたつの要素があまり感じられん。それはイセの反乱というべきじゃないか」


「正確にはオオクニとアマテラスとの諍い、ということのようだ」

「アマテラスはオオクニの世話になっていただろ?」

「そう、それが原因で諍いが起きたんだ」


 オオクニとアマテラスはもともと兄妹である(という設定である)。それが仲違いして、イセに逃げていたアマテラスだが、イセに追われてイズモに戻っていたのである。


 それがなんでまた仲違いをしてイセに行ったのか。たいがいにしろよ。


「仲違いでたいがいとか、うまく言ったつもりなノか」

「言ってからしまったなと思ったよ!」


「仲たがたいがいの原因は、どうやらオヅヌがそそのかしたことにあるようだヨ」

「俺の恥を上塗りすんな!」


 言うまでもないが、オヅヌはアマテラスにゾッコンである。アマテラスも悪くは思っていないらしい。


「アマテラスとオオクニは神だろ。なんでそのケンカに魔王のイセが絡んじゃうのかねぇ」

「そこまでは分からんが、ともかく両陣営は味方を増やすのにやってきになっている」

「だからまっぷたつなのか」


「そういうことだ。カンサイは中立を保っているようだが、西側はごく一部を除いて概ねオオクニに友好的なようだ。だが、イセはクマノやオワリ以外に味方はいない。ただ」

「ただ?」

「オヅヌがいる」


「西側諸国全部とオヅヌひとりが釣り合うのか!?」

「先の対仏教戦争の結果だろうな」

「そういえば、たったひとりで仏教の軍勢を退けたって話を聞いたな」


「そこにお主が加われば、どちらも戦力としては圧倒できるんだよ」

「なんで俺だよ!? なにをどうカイゼンして欲しいんだ?!」

「そうじゃない。忘れたのか」

「なにを?」

「お前は4人の魔王を従えてるんだぞ?」


「あああっ?!」

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