第3話 このタイミングでお祭りだと?!
「オウミー、こっちこっち、こっちのを先に運んで。その次はあっちね。お客さんが待ってるから早く!」
「わか、分かってるノだ、ミヨシ。そんなに一度にあちこちムリなノだ」
「ミノウはこれを4番のお客さんまで運んで、ちょっと多いけど」
「分かったヨ。うわぁお、これはいったい何人分乗っているヨ。重いぃぃヨ」
「一度にラーメン11人分はちょっとムリだったかしら?」
「大丈夫よミヨシ。魔王だから」
「ウエモンはイズナ以外には冷たいね」
「そりゃそうよ、ミヨシ。あいつら、イズナを苛めてたらしいからほんのちょっと仕返し」
「し、仕返しでこんな重労働をさせられては叶わんノだ、ひれはれほれ」
「我らも生き物だと、覚えて欲しいヨぜえぜぇ」
「いや、火を燃やし続けるワシもそうとうの重労働だゾヨ。ヒーヒー言ってるゾヨ」
火だけに、やかましいわ。
「イズナ、いま寸胴のスープを追加したから、火力上げて沸騰させて」
「ヒーヒー」
「「イズナ、ファイトなノだヨ」」
もちろん多忙なのは魔王たちだけではない。今日から3日は、シキ研を上げての大騒動である。エースもベータでさえも例外ではない。タケウチの人々も、留守番を数人残して全員がこちらに来てお手伝いである。
「おい、ユウ。いくらなんでも1杯4,800円は高くないか」
「別に食べたくなければ俺はかまわんぞ?」
「ぐっ。このやろう、足元を見やがって」
「なにを言ってる。全てを俺に任せると言ったのは誰だよ」
「いや、俺に任せろといったのはお前だ。俺たちはそれを承認したというか黙って見ていたらそうなっちゃったというか」
「ともかく俺に任せた以上は文句を言うな、オオクニ」
「うぅぅむ。なんか解せんのだよなぁ」
「ちょっと、あんた!! こんなとこで油売ってる場合じゃないでしょ! あちらで講演会やるんだから準備の手伝いをなさい!」
「わ、分かったよ、スセリ。朝から働きづめで腹が減ったわぁぁぁかったから、すぐ行くから。ユウ、これ残しておいてくれ、な」
「そんなことできるか! 麺がのびたらラーメンが台無しだ。これは捨て……おいっ!?」
「ずるずる?」
「お前には創造神としてのプライドはないのか! アマチャン」
「ワシ、これを1日に3杯は食べないと夢見が悪いのじゃよ、ずるずる」
「だったから金払って食えよ。人の食べ残しをよく食えるな」
「もう、今年のラーメン予算は使い切ったのじゃ。いつもの店に行ってもここと同じ値段となっておるし、ワシを殺す気か」
「知らねぇよ! この3日の間ぐらい我慢しやがれ」
「もう残しそうなやつはおらんかなぁ」
「だから漁るなってのに……あぁあ、行ってしまったか。あんなのがこの国のトップだからこんな騒乱が起きるんだろうなぁ。まあ、うちは儲かればなんでもいいが」
ここはイズモである。わけあって今日から3日は「お祭り」なのである。屋台もたくさん出ている。
最高級のダマク・ラカスの売り上げも好調でステンレス包丁に至っては絶好調である。じじいなんか抱腹絶倒状態であるらしい。間違っても病院に運び込まれたりするなよ、お手伝いがひとり減るじゃないか。
「ワシの身体の心配をしろ!」
エースはベータの護衛を務めながら麺を茹でている。ベータはダシやタレの調合を少しずつ代えながら客に提供し、その様子をつぶさに観察している。まだまだ改良するためだそうだ。真面目か。
ヤッサンには、部下に手伝わせて客の前でニホン刀を打って見せるデモンストレーションを行ってもらっている。もちろん、最大の企業秘密である銑鉄の作り方や配合などを見せるわけではない。見せるのは仕上げの数歩手前の「鍛錬」という工程だけである。
これはカナヅチで真っ赤に熱した刀を叩いて、鉄から不純物を出しながら形を作って行く工程である。ここにはそれほどたいしたノウハウはない。
ただ、火花が飛び散り、派手で見栄えがするのだ。見世物ととしては好都合なのである。
「こんなので入場料もらっていいのかなぁ?」
「気にするな」
ニホン刀を作るところを、見たことあるやつなどほとんどいない。珍しい見世物なのだから、金を取らないでどうするよ。ヤッサンだって疲れるし、終わったらボーナス出してあげるからね。
「できたニホン刀は売るんだろ?」
「もちろん! 高値で売ってやるよ」
今度はオークションではない。1本280万円という最高級の値段で、中級品質のニホン刀を売るのだ。
「詐欺じゃねぇか!!」
「エースが文句言うことじゃないだろ。お前には最高級品しか渡さないから心配すんな」
すでにエースには約束のニホン刀を納入済みである。それでエース(トヨタ家)との専売契約は終了したのだが、上級品に関してはまだ独占しておきたいようで、タケウチと新たな契約を結んだようだ。
タケウチのニホン刀は、工程だけでなく銑鉄の組み合わせでも値段が異なる。ここで販売するニホン刀はヤッサンさんの発見した接着鉄をほんの少ししか使っていない。その分だけ強度が弱いことが判明しているのだ。
稀少な接着鉄を節約するB級品という位置づけである。
完全になくしてしまうと、焼き入れ工程で折れるという事故がたまに起きるのだが、ほんの少しでも使えばそれを防げるということが発見された。発見したのはヤッサンの例の弟子もどきふたり組である。名前はまだない。
「「ここでもそのネタ使うんっすか?!」」
「どうして俺がこの担当だったんだ、ユウ」
「アチラとコウセイさんは出番が少なか……多才だからこのぐらいできるだろうと思ってな」
「なんか言いかけて止めたな?」
「ポテチと爆裂コーン、ユウご飯はいずれシキ研の主力商品となる。タケウチに直接関係ないから、別途ボーナスを出すからさ」
「そう聞いたからやることにしたんだが、アチラも俺も、畑違い過ぎてな」
(商品と人員を、うまいこと当てはめるのは意外と難しいのです)
「なんでこんなものが売れるのか、ワイにはさっぱり分からんやん。だけど作る端から売れて行くやん」
「それは良かった。そのふわっふわの感触が珍しいんだろな」
「原料は砂糖だけなのになぁ。不思議やん。でも、その砂糖もユウが提供してくれたおかげやん。ありがとな」
シキ研のろくろ技術とホッカイ国の甜菜砂糖を使った綿菓子を売っているのはマイドである。手伝いにミチルとその姉妹もかり出されているらしい。
カンサイでは1匙150円というとんでもない値段が付いていた砂糖だが、ホッカイ国の甜菜を使えば1匙など1円にもならない。
原価5円ぐらいの綿菓子を100円で売らせているのだ。儲からないわけがない。それでも生産が追いつかないほど売れているのだから、マイドにはいくらお礼をもらっても良いぐらいだ。
「これでショバ代さえもっと安ければ良かったやん」
「うるさいよ!」
お礼を言った同じ口で苦情も言いやがった。カンサイのやつはこれだから油断がならない。
綿菓子がこれほど売れるのは、甘さに飢えているこちらの世界ならではであろう。
「ユ、ユウ。なんで俺までこんな仕事をしないといけないんだ?」
「俺に言うな、オオクニ。その仕事はスセリの指示だろ」
「この商品を紹介したのはお前だと聞いたぞ?」
「それはそうだ。お祭りには欠かせないメインディッシュなんだよ。がんばって焼けよ」
オオクニが作っているのはたこ焼きである。丸い凹みを付た鉄板(ゼンシン作)だけあればできる便利な食べ物だ。
「俺はあちこち回って講演会もやらないといけないのだがなぁ」
「俺に愚痴を言ってどうなる。それはそれでがんばれよ」
「うぐぅ。それはそうだが。どうしてお前はいつもそんなお気楽なポジションにいられるんだ?」
「お気楽言うな。俺は俺でいろいろ大変なのだ……才能かな?」
「お前からその言葉を聞くと殺意が涌くんだが」
「おっ、やるか? 俺はお前の進退を握ってるんだが」
「うがががっ、そうだった。いや、なんでもない。それより、あのショバ代ってのはもうちょっとまからんか」
「マイドみたいなこと言いだしやがった!? お前らには身内扱いで割安にしてやっただろうが。マイドなんかその倍は払ってるぞ」
「そうなのか、あれでも割り引きされているのか……」
「ショバ代は私の店も同じようですよ、オオクニ様どこどこどこどこ」
「まだドラムロールやってんのか。タケはなにを売ってたんだっけ?」
「私の店はドラム焼きです。どこどこどこ」
「ドラム焼き?」
「私のドラムの形と似ているのでそう名付けました。叩いても音が出ないのは不満ですが」
それで音が出たら食べ物じゃなくなるだろ。
「大判焼きだと俺は言ってるのだが」
「オオクニ様はセンスがないのです」
「なんだとぉっ!!」
「こらこら止めろ! 主従でケンカしたら、またニホンが割れるぞ」
「今川焼きが正式名称ですよ」 とマツマエ
「こちらではおやき、って言うわよ」 シャイニー
「回転焼きやん」 マイド
「たぬきなのん!」 レンゲ
「御座候なの」 キタカゼ
たっぷりあんこを入れて小麦粉で包み焼いただけのお菓子だが、ニホン全国で愛されている食べ物であることは分か……いや、なんかジャンルの違うのが混ざってたぞ? 御座候もおかしいが、なんでたぬきが出てくるんだ?
「ケンカになりそうだから、名前はタケのドラム焼きでいい。どんどん売ってくれ」
「どこどこどこどこどこ」
ドラムロールだけに。やかましいわ。
さて、一通りツッコみも終わったな。まだまだ紹介すべき人は大勢いるが、そろそろ面倒くさ……文字数も増えてきたしこの辺にしておこう。
俺は会場を一通り回ってお腹はいっぱいである。それにすることもない。お茶を飲んでポテチでもつまんで、ゆったりしよう。みんな働けよ。あ、オウミ、お茶のお代わり持ってこい。
「「「「「「「「お前も働け!!!!!!!」」」」」」」
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