第10話 発足!魔導特別遊撃隊!!

 断食明けの夕食は料理長が気を利かせたのか、えらくボリュームのある内容だった。

 たっぷり胃袋を満足させた一行は入浴を済ませ、またしても誠一の部屋に集まった。

 夕食時にも、フィリアにしこたま説教くらったので昨晩やっていた魔法講義は当然中止、魔法の練習も禁止となり、容子らもがっくりである。

「怒られちゃったねぇ……」

「調子こいたのは確かだしなぁ……」

「でもさ、外出が10日に1回はひどいよ! あたしたち、好きで来たわけじゃないんだしぃ」

 反省の弁とブー垂れが交錯する4人である。

「黒さん、特にお目玉貰ってたよねえ」

「ははは、面目ない」

「だけど気持ちわかるなあ。城下町、すっごく素敵だったよね! 見たいところ一杯あったよ」

「あたし、あの装飾品のお店、行きたかったわ~」

 今日は日常に使用する必要物資購入が中心だったので、あまり余分なところへは行かせてはもらえなかったのはJKらも同様だったらしい。

「フィリアさんの話によると、やっぱ俺たちって結構ヤバい存在なんだな……」

 ため息交じりに良二が言った。

「あたしたちのせいじゃないよぉ」

 容子がブー。

「でも、あれだけ魔法使えるようになるのってすごいらしいね。普通は何年も勉強や訓練して一人前になれるんだって」

「あたしも驚いちゃった! 火の玉よ、火の玉!」

「美月の火球、すごかったねぇ! 藁人形、一瞬で火だるまだったもんね!」

「それを弾くんだから、容子の風魔法も凄かったじゃん!」

「ここまでの威力を出せる使い手になるには、軍や専門の訓練所で、かなり厳しい修業するらしいけど」

「それが一日二日でこれもんだからな。権力者にしちゃ痛し痒し……むしろ、目の上のたん瘤かもな」

「確かに、今じゃそんじょそこらの奴に負ける気はせんからなぁ、ハハハのハー!」

「黒さぁん。昨日、更衣室であんなザマ見せといて、えらい余裕だなあ?」

 良二が誠一をジト目で見る。誠一はソファに深々と座り、脚を高だ~かと上げて、余裕綽々でふんぞり返っていた。

「聞いたわよぉ~。さすが亀の甲より年の功って感動してたのに、あたしの尊敬返してくださいよぉ~」

 今度は美月がブー、容子もブー。やっぱそう思うよなあと良二。しかし誠一。

「ハハハー! ああいうハッタリも年の功ってもんよ! へっへらへ~!」

 おっさ~ん……

「とまあ、そんな自信過剰はフラグになるから冗談として捨て置くとして、だ」

 誠一は、いきなり神妙な面持ちになると、姿勢を正して椅子に座り直した。

「「「?」」」

「当面、俺たちは行動の自由は制限されるものの、とりあえず生活に関する問題は無いし、魔法や人並外れた身体能力のおかげである程度自信もついたし、以前ほどの不安はない。が、相変わらず状況は何も進展していない」

 いきなりのマジモードに少々戸惑ったが、一同、同意して頷き、こちらも姿勢を正す。

「極秘で進行してると言う、魔界からの要請に関しては新情報は何も無い。もしも我々がその計画から完全に外されたとしたら更に締め付けが厳しくなるかもしれない。ロゼさんの言ってたっていう『草』ってのがホントなら、昼前俺たちがやらかしたことは王宮には筒抜けだ」

「良さんの言うように、面倒くさい存在になるのね」

 と若干の渋面を見せる容子。ずば抜けた基礎体力や魔法を喜んでばかりもいられないのは彼女らも良く分かっている。

「ああ。俺たちの能力が普通のアデス人の範疇でしか無ければそれほど警戒する必要も無く、客として緩い扱いだったかもしれないが現実はこうだ」

 続いて良二も意見。

「つまり『草』には今、この瞬間も監視されてるかもだな」

「まさかおフロとかも……」

「有り得るね」

「いや~! えっち、えっちー!」

 美月が天井やら壁やらに向かって叫ぶ。

「ストーカーじゃ無ぇんだから逆に守ってもらってると考えりゃいいんだよ。あとはくノ一よろしく、女性の草であることを祈るくらいか?」

「黒さんなら捕まえられるんじゃないの? 元自衛官だし、今日の組手すごかったよ?」

「無理だな、気配が全然感じられない。仮に出来たとしても更に監視が強化されるだけでメリットはないな」

 ハァ~っと、がっくり来る三人。

「『強すぎる火は何も生み出さない』なんてどっかの映画のセリフにあったけど、まさかあたしたちが、その火になるなんてねえ」

「体力だけならともかく、プラス魔法だもんねぇ」

 JK2人がぼやく。が、

「いや、あの身体強化も魔法だな」

と、誠一が言い切り、全員注目した。

「何でわかるの?」

「最初は体力検査で出た値は、もしかして引力の強弱が関係してるのかとも思った。だとしたら体力を維持するために常に運動する必要があったところだ」

「なんで?」

「あ、聞いたことがある。宇宙船とか、無重量状態で運動なしで長く居ると筋力が衰えて、地上に戻ると立てなくなるって」

 容子の疑問に良二が答えた。

「正解。一年も弱い引力下で過ごしたら元に戻った瞬間、立っていられずにアスファルトにへばりつくことになる」

「うっわ!」

 驚く容子と美月。

「でも、何で引力は関係ないってわかったんだい?」

「今日の外出の時、馬車修理の店……て言うか工房で、馬車の車輪に巻き付ける平鉄を見つけたんだ。その端材の中に目分量だが厚さ5ミリ、幅50ミリ長さ1000ミリくらいの平鉄があってそれを持ってみた。地球なら大体2㎏位になるはずだが、仕事で持ってた鉄材料と同じ重量感があった」

 ――あ、あの、はぐれた時に。

「へ~さすが職人だね。持っただけでわかるんだ」

 美月が感嘆の声を上げる。

「だから魔法のせいって言う事かぁ。でも検査の時、あたしたち魔法なんて意識してなかったよ?」

「あてずっぽうな思い付きだが……アデスの人々は有史以来、魔素を体に取り込んでいる。呼吸からも食べ物からもだ。大量流入は魔素異変の時だろうが、それ以前から魔素に馴染んだ体になって行ったのかもな。だから身体の内外に魔素があって当たり前、と言うか、魔素込みで地球人と同じ体格・体力なのだが、俺たちの体内には魔素なんてない」

「魔素の空白地帯……」

「そんな感じかな? 一気に俺たちの中に流れ込んだ魔素は、体力をブーストする添加剤になったかもしれんな。だとしても、その効果や制限時間が有るのか無いのかとかは皆目わからん。いずれにしても基礎鍛錬は続けた方が無難かな?」

「他にやることないしね~」

「しばらく脳筋にでもなりますか」

 美月の言葉に皆が笑った。

 時計を見ると既に10時を過ぎていた。

 『草』の監視も考えると、魔法の練習も憚れる事から今夜はこれで解散となった。

 就寝の挨拶ついでに美月は天井に向かって「おやすみー」と、居るかどうか分からない『草』に、当て付けるように叫んでから自室へ戻って行った。

 初日の夜、不安にすすり泣いていた事を思えば、美月もすっかり立ち直れたようで、良二は微笑ましく思った。



 数日が過ぎた。

 良二たち四人はエスエリアでの生活にも大分と慣れてきて、最近のリズムとしては午前中に体力錬成、午後から邸内の書庫で文献漁りや、メイスらに話を聞いたり指導されたりだ。

 最悪、一生アデスに住むことになるかもしれないわけだし、情報はどれだけあっても多すぎることはあるまい。

 魔法の錬成としては、アデスではまだ普及していない科学知識等を導入して、どんな魔法効果があるかなど試してみたかったが、『草』から情報を得た王宮や魔導省が警戒するかもしれないので実践は控えている。

 美月には近衛団のシルヴィが、あまり詳しくはないが史郎の近況を伝えてきた。

 最初は戸惑ったものの、こちらと同じく環境には徐々に慣れ、魔力・体力の錬成を続けているらしい。

 心配は無用、体に気を付けてとの伝言をもらい、美月は安どしていた。

 だが、これからの動向に関しては、相変わらず全く分からない。


 そんな日常を過ごしながら、待望の外出日を明後日に控えて良二はチラチラと、ライラとの出会いを思い起こすことが多くなった。

 あまりにも突然のことであったし、空腹、串焼きの味、残念な間接キスとか様々なファクターが重なり合って相当なインパクトであったわけだが、ライラのイメージがどうも薄らいでいる。

 しかし彼女の、あの真っ赤な髪と真っ赤な瞳は忘れようがない。

 特に瞳は吸い込まれそうに深い、文字通り正に深紅の瞳だった。

 瞳の印象強さゆえ、他の印象が霞んでしまってるのかもしれないが。


 ――縁が出来たことだし、またきっと会えるよ


 この言葉も、とても謎掛けっぽくて印象的だ。

 袖振り合うも多生の縁とは言うが、こんな異世界ではどれほど前世をまさぐっても、縁がくっつきそうにはないが……

 そう言えばもう一つ気になることがある。

 良二はあの時、無理やりにとは言うものの戒めを破って串焼きを食べているのに、その情報がフィードバックされていない。

 本来なら夕食もお預けになるはずだったのが何も言われなかった。

 偶さか『草』がいなかったのか?

 報告の要無しと判断されたか?

 いや、フィリアがああ言って念を押したのだから、それは無かろう。

 誠一に相談しようにも、それを『草』に聞かれては藪蛇と言うものなので今のところは黙っている。

 とにかく『草』の存在が鬱陶しい。

 外出も控えているのにいちいち気を使わねばならない。

 マジ鬱陶しい。

 だがその日、『草』懸念を払拭する王宮からの通知が届いた事は、良二たちには全く想定外であった。


「皆さん、吉報です! 皆さんに関する行動制限や監視等は、本日この書状が届いた時点より、条件付きながら解除されることになりました。皆さんはこれより自由に行動して頂けます!」

 いつも通り書庫で魔法の勉強に勤しんでいたところ、いきなりフィリアに召集され、何事か? と応接室に集まった異世界人4人衆。そこで説明されたフィリアの朗報に全員が、おおお! やったぁ! と歓喜の言葉を上げた。

「やったね~」

「でもどういう風の吹き回しだ? すげぇ突然なんだけど?」

「自由になるのは嬉しいけど、条件てのが気になるところよね?」


 で、果たして条件とは?


一、全員がフィリア・フローレン第2王女居城に定住すること。

二、王都を離れる場合、前もって行動計画書を添えて申告すること。またその

  時は王宮もしくはフィリア第2王女隷下の人員が同行する事が望ましい。

三、身分は王国魔道戦闘団隷下の新設「特別遊撃隊」所属とし、魔導戦闘団に限ら

  ず、エスエリア王国各軍の要請があれば可能な限り受託すること。   


                              以上である。


「一に関しては今と同じだから却って嬉しいですけど。あ、でも殿下にご負担が……」

 誠一がフィリアに気を遣うが、

「全く問題ありません。当家一同、皆様を心より歓迎します」

フィリアが笑顔で答えてくれた。

「よかったあ、あたし皆さんと離れたくなかったし」

 と容子。フィリアと同じく満面の笑顔で答えた。

「二も問題ないよね、要するに査証の申請みたいなもんだし」

「はい、極めて形式的な手続きかと」

「知らないところとか旅行したいね~」

 美月が能天気に胸を膨らます。でもまあ、その辺は良二も同意。

「三に関しては魔導団所属となる事により、その地位を確保し、自由に行動して頂くために必要でした。これで皆さんは王国の臣民権を得たことになります」

 と、今度はメイスが説明した。

「よくはわからないけど、これで自由に街へ行けるんだね!」

「更に付け加えますと、皆さんは魔導戦闘団員の一員になられますので毎月、魔導団から俸給が支払われます。みなさんがご自由に使っていただけるお金です。先程の軍の要請で出仕・出動する事があれば、その分は別途支払われます」

「お給料~!」

「やりィ!」

 喜ぶJK。昨日まで置かれていた立場とは大逆転である。

「でも特別遊撃隊とか……どんなことやるんだろ?」

 良二が疑問に思った。

 若く、軍隊経験も無く、ミリタリーの知識はそれこそ映画など創作物で聞きかじる程度しか無い良二にはピンと来ない。

「ああそれは……」

「う~ん、要するに体のいい、軍のなんでも屋じゃないか?」

「「「へ?」」」

「相変わらずクロダ様はカンが鋭いですねぇ。まあ、そう言われますと身も蓋もありませんが概ね……」

 ロゼが困り眉毛で返答を鈍らせた。

「どゆこと?」

「まあ本職の部隊を動かすほどのことでもないが、放っても置けない案件の始末を頼まれるとか、まあ雑役みたいな仕事じゃね? 魔導団に限らず各軍の要請に応じろってぇ辺りが、そんな臭いがプンプンだねぇ」

「「「え~~~」」」

 3人そろってブー。

「そう言うなよ、俺たちは恒久的に常設させるわけではないイレギュラーな存在だし、かといって役所的には看板が必要なのさ。んで、魔導団だけ特別扱いだと他の組織がブー垂れてくるから何かあったら他でも手伝わせるから眼ェ瞑って……まあ、そんなところか?」

「ご理解いただいて恐縮です。でもこれで『草』の監視も解かれますし、今まで以上には快適に過ごしていただけるかと」

「やった! もうお風呂覗かれずに済む!」

 美月の言葉に一同が笑う。

「そうだ、給料が出るならフィリアさんに家賃とか食費とか払わなくちゃ」

「そうよね、これからもお世話になるんだし」

 良二が言うと容子が続いた。だがそれも、無用の心配であった。

「それは大丈夫です、それらは魔導省から直接当家に支給されます。また生活や軍事活動に必要とされる経費に関しても支払われますので、ご安心を」

「至れり尽くせりですね!」

「その分、しっかり働かされるんじゃね?」

「「「いいぃ~~~!」」」

 働かざるもの食うべからず。


「しかし、ずいぶん急な方針転換ですね。何かあったんですか?」

 誠一がフィリアに聞いた。

「はい、私も大変驚いているのですが、今回の件は天界に加え、要請元である魔界大魔王府からの意見、要望であったと聞いてます」

「なんか大事だな……」

 良二が呟いた。

「今回の案件は秘密裏に、と言う事でだったのですが、実際には人の口に戸板は立てられず、情報が漏れだしております。魔界としては、今はまだ真相が知られるのは好ましくないとのことで、勇者様の存在を隠ぺいするために、皆様が所属する遊撃隊設立の情報を流して、隠密による緩やかな対諜工作を行うことになりまして……」

「た、たいちょう……?」

「誤情報を含めた諜報工作だよ。沢田君の存在と目的を隠すために、俺たちをそれとなーく秘密部隊みたいに臭わせ、目をこちらに逸らせようってわけだ」

「なんか難しいけど……ちょっと危なさそうな……」

「そうビビることはないんじゃないかな、容子ちゃん。結局は、何か知りたい連中が俺たちを狙っても、何のためにとか背景とか黒幕とか探ってると時間が掛かるだろうし、しかも俺たちを調べる以上、掴むのはハズレだ」

「良くんの言う通り、俺たちが真相を知らない限り、そういった連中が真実にたどり着くには余計な時間が掛かり過ぎるってわけだ。むしろ多少暴れて、そういう連中の目を引き付けた方が、ってところか」

「う~ん、まだちょっとわかんないし危なさそうだけど……まあ黒さんや良さん居るからいっか!」

「心配すんな、そのための魔法だぜ?」

「そうねフフ」

「ね、うふふ」

「アレ、試せるな」

「え? やるの、あれ? 雷撃? フフ……」

「そりゃあさあ、ふふふ」

「「「「うふふふふふふふふふ……」」」」」

「あの、みなさん……何か悪い顔になってます、よ?」

 色々疑問や紆余曲折はあるが、良二たちは条件付きながら大幅な自由を手にした。

 そして王国魔導戦闘団特別遊撃隊なる足場も出来上がり、フラフラと不安定だった昨日までに比べると、かなり脚が地についたようにも感じる。

 だがしかし、相変わらず周りに流されてる感も払拭できないと思う良二であった。

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