第5話 午後の紅茶 午後の授業

 メイスは、にこっと微笑むと、

「ここらでひと息入れましょうか? お茶の準備をさせましょう」

 と、提案し、机の上の呼び鈴を鳴らした。

 既に用意されていたのか、茶はすぐに運ばれ良二たちに配られた。

 目の前でふんわりと立ち上るお茶の香りに、良二は何故だか、胸の中の不安が和らいで来る感じに包まれた。

「いい香り……」

「何か安らぐ」

 容子も美月も気に入っているようでなにより。

「何かホッとしますね。我らの世界にあるハーブティ、セントジョーンズワートによく似た香りだ……」

「そちらにもそう言った効用のお茶があるのですか? 僭越ながら昨日今日の皆さまのご心労、察するに余りありますので、気分の安らぐ効果があると言われている香草茶を、ご用意させていただきました」

「ご配慮痛み入ります。眠れない時とかは、パッションフラワーやカモミールなどを愛飲してましたが……こちらでも色々ある様ですね」

「ご所望の際はお気軽に、ご相談くださいませ」

 良二は安らかな味わいの茶をいただきながら、このおっさん何者なんだ? と、ふと疑問に思った。

 鉄工職人と言ってたが、自衛隊経験者でラノベの話題でも繋がるわ、ハーブティにも造詣が? この厳つい外観とハーブティはどうにも結びつかん。JKたちも意外そうな顔をしてるし。

「さて……」

 誠一がティーカップを置きながら切り出す。

「三界の歴史は概ね、ご説明いただきましたが、天界や魔界とは今も交流が続いてるわけですか?」

「その通りです。特に人口の多い魔界と人間界の交流は今も盛んです。先程の話の、6神6王が現れた門の場所には現在は神殿が築かれ、魔界・天界との行き来が可能です。天界は人口が少なく、”魔素異変”後は今までの天界のみの流れだけではなく、三界の流れをも司っていただいておりますので大変お忙しく、あまり行き来はありません。先日のオクロさまくらいの上級神方ともなれば国家規模の行事の時くらいしか」

「今朝がた、フィリアさまが宗派について質問されたけど、こちらでも神さまは崇拝されてるんですか?」

「そうですね、一概には言えませんが各国に門が開いた時に、そこに現れた神さまを崇拝する傾向にはありますね。わがエスエリアはホーラさまを、トラバントならウェンさまを崇拝する人が多いです。魔素異変以前にも様々な宗教、宗派がございましたが、それらは一掃……と言うより塗り替えられたと言いますか……詰まる所、各宗教の教典はそれ以前の過去に、神々や高位魔族が、何らかの理由で御降臨された時の言葉に尾鰭足鰭が付いていった、と言うことが判明しまして」

 良二も聞いてみた。

「こんな言い方していいのか、わからないんですが……格で言うと神さまが上で、人や魔族は下とか……そういうのあるんですか?」

「そうですねぇ……言えることは、能力的には我ら人族が一番下位であることは間違いありません。魔力に精通した神々や魔族の方々と我らでは比べ物になりません。魔法学の知識を授かっては居りますが、たかが500年程度。他の二界の方々に追いつくのはまだまだ……何より寿命が全然違いますし」

「やはり天界や魔界は長命な方が?」

「はい、我々ヒト族は長生きしてせいぜい百年、魔族の方は種族によって極端ですが、我らより短命な種族もあれば数千年、数万年の種族の方も」

 件の魔界8魔王がそれに相当するらしい。

「神々はやはり数千、数万年級の方々ばかりなうえ、基本的に死と言う概念がありません」

「不老不死ですか?」

「ん~、ちょっと違うかもしれませんが、ん~、死=誕生といいますか」

 良二たちも、ん~、であった。まあ、この世界の住人たるメイスがよくわからないと言うなら4人にわかるはずもないが……

「神々はその役割を終える、もしくは役割を果たし続けることが出来なくなると、準下級神として転生し、蘇ることになるわけです。その時、前世? の能力や記憶のいくらかを引き継いでいるそうです」

 そりゃ、実質不老不死と言えるかも……

「でも、魔族の方と神さまでは、その実力は結構拮抗しているとも言えるのでは?」

 と誠一。

「先程も申しましたが魔族の方々は能力差が広く、平均値を取れば神さまが突出します。しかしながら先の8魔王さまともなれば最上級神方とタメ、いえ、互角かと思われます」

 ん? 何か違和感が。

「寿命の違いが能力の違いかぁ。でも記憶や力が受け継がれるってなんかズルい感じぃ。ゲームでいうチートっての?」

 美月が誰ともなく呟くように言った。良二と誠一は思わず噴き出しそうになる。

「ちいと……、と言うのはよくわかりませんが……でも、ヒト族でも魔族との混血の方やエルフ族は比較的長命ですし、獣人の方々はヒトより若干短命な傾向にありますね」

 どどーん、異世界ワードキター!

「エ、エルフっているんですか!? マジで?」

「混血って、異種族で結婚出来るんですか!」

「獣人っていわゆるケモですか!?」

「か、神さまとは? 神さまともそうなんですか!?」

 いきなりの質問攻撃。さすがにメイスも、思わずたじろいでしまう勢いであった。



 順を追って説明いただいたが、人間界にはざっくりヒト族とまとめられてはいるものの、よくあるファンタジーのように、ヒト、エルフ、ドワーフ、獣人等々、様々な種族が存在しており、以前は差別や偏見、一部では奴隷としての売買行為もあったらしいが、魔素異変以降それぞれの関係は急激に好転し、今では好みの問題等は多少あるが、差別自体は無くなっていると言っていいそうだ。

 とくに魔素異変に関して魔族は負い目を持つ者が多く、能力差があってもひけらかすとか威張るようなことは皆無で結果、ヒト族と良好な関係を築くことができ、商取引や文化交流、果ては恋愛・婚姻等も当たり前に行われているとのこと。

 もちろん、これは天界や魔界上層部の加護や導きがあってのことである。特に種族の多さや多様性では抜きん出ている魔界からの啓蒙・啓発が功を奏していた。

 魔界も古の昔は人間界同様に種族間の軋轢や紛争の歴史を持つが、とある大騒乱を最後に共存の道を切り開き、魔素異変の頃には現在の、大魔王を頂点とした8魔王による統治が確立していたという。

「とは言え、魔王さまの間でもソリが合う・合わないと言うのはございまして、国体を脅かすほどではありませんが、ちょっとした紛争や抗争、諍いの類はまあ、人間界と同じ位はあるそうです。ただ、どの勢力、魔王さまも大魔王陛下の御意に逆らおうとする方はいらっしゃいませんし」

「いろんな意味で、人間界との親和性が高かったのが良い結果につながった、という感じでしょうか?」

「はい、クロダ様。その、ご推察通りかと」

 だが神々との交流は魔界ほど深くは無いそうだ。と言うのも、神々には婚姻とか家庭とかを持つ慣習は無いと言って良いらしい。

 とは言え気に入った相手、神の寵を受けた人間や魔族が生活を共に過ごす事例は、あるにはあるとの事。

 が、それも神々の癒しの一つに過ぎないのだ。

 高位魔族にも言えるが長久の命を持つ彼らは、その間、ずーっと同じ家族といるなど拷問に近いのだ。

 しかも三界に何か異常があったら、すぐさま駆けつけねばならない責任を追っている。普段も三界の流れに変わりは無いか、ずっと監視し続ける義務がある。

 何も異常がなければ、どうのんびり過ごそうが構わないが、一朝事あらばすぐさま対応しなければならない、ブラックとホワイト表裏一体、それが今の天界である。

 だから天界においてすぐ、気軽にできる癒し・娯楽と言えば……そう、


飲む・打つ・買うである。


 買う、と言うのはヒトにおいての揶揄であり要するにアレである。

 神族同士のひと時の恋もあるが、比べると事例としては魔族や人間たち相手の方が多い傾向にある。口性くちさが無い者はそれをペットと同様だと語る者も居るが、お互いが慈しみ合っているのは人間・魔族と何ら変わりはないそうな。

 ことにヒト族の中では、それは文字通り神の寵愛であり、その相手が独身であろうが、例え所帯持ちであろうがお構いなし、らしい。

「そんな……独身の人ならともかく、既婚者相手なんて不倫じゃないですか!」

「NTRされた方が可哀想なんじゃ……」

 JK2人がもっともな疑問を呈す。しかし、うら若き乙女共がNTRなんて言葉、どこで覚えますか? ネットですか、そうですか。

 が、メイスの答えはその上を言っていた。

 神の寵愛を受けた者の相手・配偶者はもれなく、自分は神々と〇兄弟になれる、●姉妹になれると捉えており、むしろ喜んで同意するとのことだ。

 〇●部分でJK2人の顔が、ボンっと赤ピーマンのようになったことにメイスは気が付いていただろうか? 言葉を濁さずにサオだのアナだの、モロに言いきったが……



 お茶で一服しながら……で、あったはずがそのまま時間は過ぎ、昼食をはさんだ後、しばし休憩の時間となった。

 食後のコーヒー(のようなもの)を飲みながら、良二と誠一はバルコニーに置かれたテーブルで穏やかな日差しを浴びながら暫し寛いでいた。

 午後からは、引き続いてメイスさんの講義を受ける予定。それまでのひと時。てか、二人とも若干、呆けた雰囲気の表情を浮かべている。

「エルフってホントにいるんですね」

 ボソッと良二

「猫耳も……いたな……」

 ボソッと誠一。

 昨日は気付かなかったが、昼食の給仕をしてくれたメイドさんの中に、エルフと思しき耳の、そしてあからさまに猫耳のメイドさん迄いらっしゃったのである。

 容子や美月も目を丸くしていたがホント、異世界である。

 それらは昨日の体験ほどでは無いにしろ、半日で処理しきれるほど軽い情報量では無い訳で、その疲れが顔に出てしまうのは止むを得ないところだろう。

「黒田さん、ケモナーっすか?」

「……限定してるわけじゃない」

「真っ先に質問してましたよね?」

「君はエルフに反応してたな?」

「さっきの猫耳メイドさん、萌えですか?」

 意地悪く聞く。

「俺は狐っ子派だ」

「はぁ……」

「僅差で猫、ついで犬・狼だ」

 ――しっかりケモナーじゃねぇかよ! 何者だよおっさん!

「しかし……」

 残ったコーヒーを飲み干した誠一は、

「種族間の関係が良好なのは結構なことだな。もし俺たちがその中に入っても、謂われのない差別や偏見を受ける可能性は低そうだ」

と誰ともなく話した。とは言っても周りには良二しか居ないのだが。

「外に出られますかね?」

「お姫様が今やってる協議次第だが……ずっとここで軟禁てのは勘弁してほしいもんだ。どうせならこの世界をしっかり見てみたい、が……」

「?」

「この世界にとっては俺たちはあくまでイレギュラーだ。俺らを生かしておくには、それ相応の理由が必要だろう。フィリアさんは俺らのために努力すると言ってくれてはいるが、申し訳ないが昨日今日、会ったばかりで100%信じるわけにはいかんでな。表と裏の顔を持つのは生きてくために当然だし、位の高い連中はなおさらだ」

「……そうですね」

 肩を竦める良二。

「今日一日の協議だけで結論が出るとも限りませんしね」

 良二の頭の中で協議の状況の様子が、ふと浮かんだ。

 本来の目的や、それに便乗した私利私欲の思惑やら、自分の職務の使命感、倫理感やらが交錯して激論が交わされる状況。

 人生経験の少ない良二が想像できるのは、所詮は映画・ドラマ等、創作物内での会議の一場面くらいではあった。自分が参加した会議や協議などは、せいぜい学校の委員会程度だ。殊に、例の事故以降は人とは距離を置きがちになっていたし。

「とにかくキーは勇者様だな。沢田君はなぜ、呼び出されたのか」

「……まだ詳しく話せないみたいな感じでしたね。魔界からの秘密の要請とか言ってましたし」

「メイスさんの説明では三界の状況は良好だと言う事なんだが、じゃあ、なぜ軍事作戦とやらが必要なのか? 魔界での内戦か何かか? 神に匹敵する魔力を持つ魔族が人間を必要として、それを天界とつるんで異世界から召喚せねばならない理由……そも、戦争と言わず何故、軍事作戦と称したのか? 状況や情勢の情報を得る分、疑問も同じだけ湧いてきて、いつまでもスッキリせんな」

「昼からメイスさんに聞いても……おそらく話して貰えないでしょうね」

「俺たちに、よりも世間に知られたくないのか、あるいは……いや、今は考えても仕方ないか」

 そうだ、肝心の情報……召喚された理由などは、まだ全く与えられていない。

 確かにこの世界の情勢については強く興味をひかれる情報なども教えられて、気を紛らわせる一助にはなってくれたが……そちらの情報はフィリアが帰ってきてからの話か。

「キジマさま、クロダさま」

 不意に後ろから声を掛けられた。パッと振り向く2人。

 そこには、先ほど話題に上がった猫耳メイドが立っていた。

「侍女長が、お話を再開したいとのことです。お部屋にお戻り頂けますでしょうか?」

「あ、わかりました」

 良二が返事して2人は立ち上がった。メイドの後について応接間に向かう。

「メイドさん、お名前をうかがっても?」

 誠一が訪ねた。

「……メア・キャーロルと申します」

「メアさんですか。今日、フィリアさんは……」

 ピクッ! メアの耳が、主を気安く付けで呼ばれた事へ反応したのか、彼女の耳が鋭く動いた。我が主は王族ですわよ? とでも言いたげに。

「失礼、フィリア殿下のお帰りはいつ頃になりますかな?」

 仕切り直して改めて問う誠一。しかし、

「申し訳ありませんが私は存じ上げません。また、既知であっても皆様方にお話しする権限、若しくは許可を与えられてはりませんので」

と、メアは淡々と抑揚のない口調で返して来た。 

 う~ん、堅っ苦しいなぁ、と思う良二。誠一をチラ見すると、彼は、お手上げポーズで肩をすくめて見せた。

 声には出さなかったが、口の動きで「お・み・ご・と」と言っているのがわかった。さすが王族に仕える一級の侍女だと。

 確かに、と同意する良二であった。


 部屋に戻ると容子と美月は既に来ており、良二らとほぼ同時にメイスも入ってきた。午後の授業が始まる。


 最初は魔界情勢の話だった。魔界は人間界が6大国で治められているように、8魔王によって統治されているのは午前でも少し触れた。

 魔界の運営については各魔王が自分の領地の意向を吸い上げ、8人による円卓会議で協議され、最高統治者である大魔王が裁可を降すのだそうな。

 良二は意外と民主主義的な方法に少々驚いた。

 ゲームとかではないが、どうも魔界と言えば陽の射さぬ、どんよりした黒い空の下で魔王の暗黒独裁政権による統治が繰り広げられている……的なイメージが強く、こちらでもそうなのでは? とは思っていた。

 ところが話を聞くと、魔界もお日様が輝き、農耕や牧畜が行われ、工業商業も人間界と変わらないらしい。

 決定的な差は、かつては魔獣の存在と魔法技術であったが、魔素異変以降は魔獣・魔法の流入により、その差はどんどん縮まってきているとのこと。

 翻って天界は些か変わっている。

 天界は一番下に下級神、次いで中級神、上級神、そして最高幹部会ともいえる最上級神へと繋がり、頂点に全能神と呼ばれる全知全能の大神帝が存在する。

 更に下級中級上級には、それぞれ1種2種3種という階位があり、下位の神は上位の神の指示には絶対服従であるらしい。まるで軍隊の階級である。

 魔素異変時の門から現れた6神は、飲んだくれ上司のかわりにきたガルバ以外はすべて最上級神だ。

 軍であれば将官、若しくは、その中でも元帥級の称号持ちであろうか? 総員12柱で構成され、魔界同様に天界の運営をこの12柱が行っている。

 12柱の権限等は、ほぼ対等らしいが、その中で、愛の最上級神であるディーテが、宰相として纏め役となっているそうな。

 補足すると下級神の下に準下級神と言うものも存在し、転生神・新生神は、ここからスタートすることになるとのこと。

「この準下級神の中には、稀に適正不足や転生前の心的外傷等で、天界から人間界や魔界に行き場を求める、俗に堕天と呼ばれる方々もいらっしゃいます」

 どこでもドロップアウトとかいるのか~、と良二はちょっと気落ちした。

 良二は別段、落ちこぼれでも無ければヒキニートでも無いのだが、人と距離を置くあまり、自分はその予備軍ではないか? と言う思いが頭を過ぎる時がある。

「大半は目立たずに、ひっそりと生きておられますが、思わぬ適正合致により、ぐんぐん頭角を現す方もいらっしゃいます。魔界の夜王ラーさまが有名ですね」

「人や魔族が神さまになれるのですか?」

 美月が聞いてみた。

「そう言った事例は聞いたことはありませんね。神さまの寵を受け、天界で暮らす人や魔族の例はあるにはありますが、そのままで生を全うし、神々に転生や転移したという話は、とんと……」

「じゃあ人が魔族になったりは?」

「そちらの話はいくらか聞かれることはありますが、噂程度で確定的とも言えません」


 その後は良二たちが質問し、メイスが答えると言う形で話が続き、いつしか陽も傾いてきた。

 午後のお茶で寛ぎながら話を続けていると、フィリアが帰城したとの知らせが部屋に伝えられた。

 メイスは、場所を変えましょう、と片付けを始めたが、間を置かずフィリアが部屋に入ってきたのでメイスが姿勢を正し、主を迎えた。釣られて良二たちも、気を付け! とばかりに立ち上がって不動の姿勢を取る。

 フィリアは良二らに一礼すると「どうぞお楽に」と言いつつそのまま椅子に座り、メイドに急かすように茶を所望した。あまり、ご機嫌麗しく、と言う感じでは無さそうだ。

 入れられた熱い茶を啜り、一息入れたフィリアは良二たちに話し始めた。まずは、

「皆さま、残念ながら本日の協議では、議題全ての解決には至りませんでした」

と、詫びを込めたと感じる口調で始まった。

 フィリアの言う残念ながらが何を意味するかは分からないので、4人は軽く心臓と肺を締め上げられる感覚になった。しかも、

「と、言いますのも、今回の召喚儀式の不具合については全く想定外の結果を出してしまいましたので、各方面とも混乱をきたしておりまして。天界、魔界とも調整が必要だと引き続き臨席を賜ってるオクロさまにもご尽力いただいて……」

などと、しばし状況説明が続いてしまったので誠一が、

「ご説明いただいているところ恐縮ですが、我々の去就について端的にお話しいただけると有り難いのですが……」

と、促した。無礼とは思いつつも、心臓を締められたままでは入る言葉も入り辛くなる。

 先程の猫耳メイドの耳が再び反応しそうな誠一の物言いではあるが、フィリアは即座にそれを受け入れた。

「あ、申し訳ありません、至極当然でございました。私いささか混乱しておりまして。え~、とりあえず皆さまには明日、王宮魔導省と国防省において、身体検査を受けて頂くことになりました。目的は皆さまの身体、体力的な測定と、魔法適正等の確認や検査を行い、異常の有無を確かめることにあります」

「え? 身体測定はともかく、魔法って? 僕は魔法なんて使えませんよ?」

と、良二が突っ込む。他の三人も如何にも同意です、と言う眼を向けた。勇者適正者は沢田くんだけでしょう? とばかりに。

「サワダ様につきましては、あの後すぐ、段取り通りに検査・測定等を行わせていただきまして、期待通りの魔素制御能力をお持ちであることが確認されました。身体能力については期待以上に素晴らしい結果が出たそうですが、まだ伸びしろがあると言う事でこちらの錬成も行うとのこと……」

 フィリアはひと息つくと、茶で唇を湿らせてから更に続けた。

「問題は皆さまの、特に適正を含む魔素制御能力値の方でして、これがもしサワダ様より高い数値が出るとなりますと、この世界の魔素制御バランスに影響があるのではないか? と魔法学者から危惧する意見が出されまして。あ、いえ、その様な事があるなら、もうとっくに影響が出ているのでは無いか? と言う意見もあったのですが、今回儀式を行った王立第二魔導殿を中心に、オクロさまが制御バランスを安定させる結界を、王宮及び城下町辺りまで展開して頂いておりますので、そのせいではないか? とか、結界を解いた途端、暴走するのではとか……」

「しかし、確か昨日はオクロさまが、沢田君に適正ありと判断されてたようですが……我々に彼以上の特性があるならば、その時に気が付かれたんじゃ?」

 と誠一。

「あ、ああ、ちょっとこれは申し上げにくいんですが……オクロさまは今現在、第2種上級神位で在らせられまして、今回の召喚に成功すれば第1種上級神に昇格できたそうなんですが……あ、あの状況に至り、焦っておられたようで……」

 はい?

「幸いにも、サワダ様の適性を看破されましたので大事は無いのですが……外れていたら昇格どころか降格だったかも、と、気のせいかもしれませんが涙目で話されておられたみたいで……」

 はい? はい?

「で、もしかしたら皆さまの適性を見間違えているかもしれない、と正式検査の必要性を訴えられまして」

 なんじゃ、そら? 良二は、駄女神と一緒に転生して、道中、足を引っ張りまくられるストーリーのラノベを連想して、

――自分らも、そんな展開が待ってんじゃ無いだろな……

などと言う思いが脳裏をよぎった。オクロさま、絶対こっち来んなよと。

 だが、まあそれは横に置いておくとして、とにもかくにも良二らの明日の予定は定まったようだ。

 検査のために赴く魔導省は王宮敷地内にあるとの事。欧州風の王宮・宮殿を、直に見たことがあるのは欧州旅行を経験している誠一だけで、JKたちは初めて見る中世風のお城に好奇心を湧きたてられて来ている様子が見て取れた。

 今の状況で観光的な好奇心が湧くとか、良二たちも変に慣れてきているのであろうか?

 自分の事ながら、ちょっと笑ってしまう良二であった。

 まあ、今抱えている不安が少しでも紛れるのなら、そんな観光気分も悪い事でもあるまい。

 良二はこの状況を好意的に捉えることにした。

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