迷子と知らないお兄さん
ペーンネームはまだ無い
第01話:迷子と知らないお兄さん
「俺が言うのも何だけど、知らないおじさんについて行っちゃダメだよ」
「いま僕がついて行っているのは、知らないお兄さんだから大丈夫」
お兄さんが「そういうことじゃないんだけどな」と言って少し困った顔をした。
今日、僕は友達の家から帰る途中で迷子になってしまった。可愛い野良猫を見つけて追いかけているうちに、気づいたら見たことのない場所へと迷い込んでいたんだ。
残念ながらスマホもお金も持っていなくて、助けを呼ぶことができない。それを理解したところで、すごく寂しくなって、すごく怖くなった。そして少しだけ泣いてしまった。
「どうしたんだい?」
そんな時に声をかけてくれたのが、このお兄さんだった。
迷子になってしまったことを涙交じりに伝えると、お兄さんは「大丈夫だよ、安心して」と言って微笑みかけた。
それから、僕はお兄さんに連れられて交番までたどり着くことができた。でも、交番の戸には巡回中の札がかけられていて、中には誰もいないようだった。僕とお兄さんは、しばらくそこで待つことにした。
だんだんと暗くなってくる空を見ていると、不安が胸をよぎった。本当に僕は帰れるのかな? 家族に心配をかけていないかな? また涙がこぼれそうになったから、ぎゅっと目をつぶって耐える。
一向に戻ってこない警察官を待ちかねた僕の頭に、お兄さんが手をのせる。
「警察の人は忙しいみたいだから、俺が家まで送るよ」
僕はお兄さんに住所を伝えると、スマホを操作して帰り道を調べてくれた。
「それじゃ、帰ろうか」
そう言ったお兄さんの後を、僕はついていく。すると、しばらくして馴染みのある風景や建物を見つけて、僕は安堵の息をついた。
僕はお兄さんの隣に並んで話しかける。
「お兄さん、助けてくれてありがとう」僕はポケットに手を突っ込むと、おもちゃのピストルを取り出した。僕の宝物。「これ、お礼。お金は持ってないから」
アハハとお兄さんは声をあげて笑った。お礼なんていらないよ。
「きみは、情けは人のためならず、って知っているかい?」
首を横に振った。
「情けは人のためならず、っていうのはね、人に優しくするのは相手のためじゃなくて自分のためなんだよ、って意味なんだ」
「じゃあ、僕に優しくしてくれたのは、お兄さんのためなの?」
お兄さんはうなずいた。
「実は俺もね、きみくらいの年頃に迷子になったことがあるんだよ」
そう言ってお兄さんは、自分が子供の時の話をしてくれた。迷子になってしまったお兄さんも、僕と同じように親切なお兄さんに助けてもらったのだそうだ。
「そのお兄さんが俺に言ったんだよ。『きみも誰か困っている人を見かけたら親切にしてあげてほしい。親切にされた人が、また他の人を親切にして、まるでリレーのバトンみたいに親切を渡していくんだ。そうやって、いつかきみが誰かにした親切が、また僕のところに戻ってきたら、それが一番のお礼だよ』。そう言ったんだよ」
それ以来、お兄さんは困っている人を見かけたら親切にするように心掛けているのだという。
「もし、きみが俺に感謝をしているなら、俺を手伝ってくれないかな? きみも親切のバトンを誰かに渡すようにしてほしいんだ。あの日、俺が会ったお兄さんに、その親切のバトンが届くようにね」
「うん、僕も困っている人がいたら親切にするよ」
そうして、僕は家まで送り届けてもらった。
夕食のとき、家族にお兄さんのことを話した。すると、お父さんが驚いた顔をした後、満足そうに優しく微笑んだ。
「あの日、迷子になって泣いていた子は、もう迷子の子に親切にしてあげられるくらい成長したんだね」
お父さんは僕の方を見る。
「いつか、おまえが受け取った親切のバトンも、あのお兄さんの所に届くといいな」
僕が力強くうなずくと、お父さんが嬉しそうにしながらクシャクシャと僕の頭を撫でてくれた。
迷子と知らないお兄さん ペーンネームはまだ無い @rice-steamer
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