第27話

現実世界。


「先輩!おはようございます!」


相変わらず茜は朝に俺の家に来る。今日はまた一段と明るい。


「おはよう」


おそらく今日が以前トランプで決めた、夏祭りに一緒に行く日だからだろう。


俺も楽しいにしていた。


「先輩、今日何時に集まります?」


「ん~、7時くらいでいいんじゃない?」


「じゃあ、7時に神社集合で!」


こうして俺と茜は夜に神社に集まることにした。



今日は夏祭りのせいで一日が過ぎるのが長く感じた。


学校の授業も上の空で全然頭に入ってこない。


何しろ、初めて女の子と夏祭りなど行くのだ。


行く途中、神社の前で不良たちが集まっているのが見えた。


確か鬼柳の不良グループの奴らだ。


「今日、弟子丸やるってマジ?」

「ああ、俺がやってやる、やってやるよ」

「マジすか?」


そんな声が聞こえてきた。


俺はせっかくのデートなのに不良と絡まれたくなかったので、目を合わせずに通り過ぎようとした。


しかし、ついついチラ見した時にとんでもないものが目に入って来た。


小刀を持っている奴がいる。


おもちゃか? とも思ったが、ちらっと金属の光が反射するのが見えたので、おそらく本物だろう。


あいつら本気で弟子丸を殺すつもりか!?


俺はそんな不安を抱えながら茜との待ち合わせ場所へ向かった。


「先輩!!こんばんは!」


「やあ、ごめん。少し遅れたか?」


「いえ、私も今来たばかりですよ。それよりどうしたんですか? 何かあったんですか?」


「いや、なにも。今日返って来たテストが悪かっただけだ」


「ふーん」


さすがの洞察力だ。一瞬でばれてしまった。さすがに、弟子丸が殺されるかもしれるかもしれないことは言えなかったので適当にはぐらかした。


「先輩!上に行きましょう!その方が花火がきれいに見えますよ!」


せっかく茜の二人で夏祭りに来れたんだ。もしかしたらのことで今日のデートを台無してしまうのは避けたい。


俺はそう自分に言い聞かせて、弟子丸のことを忘れようとした。


「ああ、たしかい。じゃあ上に行こうか」



俺と茜は神社の中にある高台に上った。


行く途中にたくさん屋台が並んでいたので、適当に食べ歩きしながら登って行った。


花火があがる時間になると、周りには大勢の人がいた。


ヒュ―――――ドーーン!!


きれいだ。


まさかこんなにきれいな花火を女の子と見に来られるとは思わなかった。


様々な色の花火が上がっている。


俺がそれに見とれていると、茜が手を繋いできた。


初めて女の子と手をつないだ。


こういうのははじめは緊張するかと思っていたが、意外と落ち着いていられた。


俺も茜の手を握り、しばらく花火をただただ見ていた。



花火も終盤に差し掛かった時、高台から下の駐車場を見下ろすと、何やら人の集まりが見えた。


そこでは、何人かの男が10人ほどの男に囲まれている。


弟子丸たちだ。


目立たない上にみんな花火に夢中で駐車場で喧嘩が起きていることに気が付いていない。


やっぱりさっきの話は本当なのか!?


俺は急いで駐車場に下りようとする。


「ごめん、茜!俺行かなくちゃ」


「行くってどこに?」


俺は急いで階段の方へ向かった。


茜も俺の後ろを送れまいとついてくる。


ちょっと待てよ……。


俺はデジャブに襲われた。


この展開前にもどこかで……。どこだ!?


いま狙われているのは弟子丸と俺は思い込んでいるが本当にそうか?


前は茜が狙われていると思っていたら狙いは俺だった。鬼柳はターゲットをつぶそうとするとき、他の人を巻き込んでいる。


俺の姉さんの時もそうだ。今回も弟子丸を狙うと見せかけて、俺を狙っているのだとしたら……。


俺は今いる階段を見渡したが、俺に近づく人はいない。


思い違いか……、と思った瞬間。


茜に近づく人影が見えた。


「茜!!!」


「え?」


茜の後ろにいるフードをかぶった男は手にナイフを持っている。


俺は一気に階段を駆け上がり、茜をかばった。


グサッ


背中に金属のナイフの感触がした。


刺した男はそのまま階段を下りていき逃げていった。


油断した。


茜は狙われないとばかり思っていたが。鬼柳は相当頭が切れるようだ。


背中を刺された俺は、失血性ショックで力が抜けてき、自分でバランスを取ることができず、茜にもたれかかった。


「先輩!? 大丈夫ですか!?」


俺はもう意識が薄れ始めている。


地面に目をやると一面が赤い。


これだけの出血、複数の内臓の損傷、俺はおそらく助からないだろう。


「先輩!なんで私なんかをかばって……」


茜は涙ぐんで声を発している。


「あかね……、俺はもう助からない。最後の……言葉だ……。俺は……、俺のことは……もう忘れろ」


俺はもうこの世界からは消えるのに対し、茜の人生はこれから何十年も続く。茜には死んだ人間にとらわれず純粋に幸せになってほしかった。


「できないよ……」


「いいか……、茜の人生は……まだ先が長い……。どうか……幸せに……生きてくれ……」


「私……先輩のことが好きで……もっとずっと一緒にいたかったのに……」


ほんの少しの間だが、自分の殻の外に出て、幸せに生きることができた。すべて茜のおかげだ。


この世界に未練がないと言えばウソになるが、俺は自分の人生に満足できた。


「俺も……だ……」


そういえば、この世界で死ぬと、異世界の俺はどうなるのだろうか……?


鬼柳はこっちの世界で死んでも、異世界で死ぬかは分からないと言っていたような気がするが。


まあ、いい。どうせすぐに分かることだ。


俺は意識を失い、意識は暗闇の中へと消えていった。

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