第26話
ギルドを出ると俺とシュリは市場へ向かった。
市場には魚や肉や野菜など様々なものが並んでいる。
「ずいぶんと栄えているんだな」
「この王都グランシスタは近くに南側に大きな川が流れておりますので、物流が盛んなのです」
シュリは楽しそうにいろんなものを見ている。
しかし、なんとなく人からジロジロ見られている気がした。
「あいつが、決闘でずるをしたっていう勇者か?」
「勇者のくせにひきょうな真似しやがって」
「一体何のために転生してきたんだ?」
そんな声が聞こえてくる。さすがにここまで人が多いと噂も広がるのが速いのか!?
にしても、俺は何も卑怯なことはしていないのに、とんでもない印象操作が行われたものだ。
俺とシュリは腹ごしらえのために食事ができるところを探した。俺が金品を没収されたのを見て少しだけだがバジルが俺にお金をくれた。シュリに渡さなかったのは、ああ見えてシュリは散在してしまうからだそうだ。
ちょうどよさそうなご飯屋さんがあったので入ってみた。すると、白いエプロンを付けたおばちゃんが出てきた。
「二人だが、空いているか?」
「ごめんね、今満席なの、他を当たって」
明らかにいくつか席が空いているところがある。
予約席か? いや予約席にしても空きすぎだ。
「いや、空いてるんじゃ……」
「他を当たってください!!」
そう怒ったように吐き捨てて帰っていった。
他にも何件か入ってみたが、同様に断られてしまった。
「困ったな。ここまで噂が広まるのが速いとは……」
俺とシュリはどこへ行こうとも決めずにただ歩いていた。
その時シュリが何かに反応した。
「何か欲しいものがあるのか?」
「え!? いやありませんよ!」
分かりやすい。何か欲しいものがあるようだ。
近くから言いに良いが漂っていることに気が付いた。
焼き芋か!?
「焼き芋が欲しいのか?」
「は、はい……」
シュリが顔を赤らめていった。
「でもいいですよ。私たち今こんなことにお金を使っている場合では……」
「いや、いいよ。腹が減っては戦はできぬと言うしな」
俺は自分とシュリの分の焼き芋を買ってきた。
シュリは目を光らせて食べている。
「おいしぃ~」
シュリの笑顔を見ているとこっちまで元気になるようだった。
ドラゴンの住む山へ向かう道中にはシュリの村を通るので、ついでに一度替えることにした。バジルたちは先に帰ってしまったので、歩きだがそれでも、来る途中ガジュラに襲われていた村を経由すれば、2日でつくだろう。
俺たちはガジュラに襲われていた村で宿を探し、泊まることにし、村へ向かうことにした。
カンカンカンカン!!!
鐘の音が鳴る。
「なんだ!?」
「また魔物が出たのでしょうか?」
とりあえず俺とシュリは騒ぎのする方向へと向かって行った。
ガルルルルルルルル!!
ガロウウルフだ。しかも、10匹ぐらいいる。
「下がっていろ!!」
俺は村人たちに行った。
もう俺のレベルではガロウウルフなど瞬殺できる。
中位の火魔法を放ち、一体ずつ倒していった。
くぅううん、くぅううん!
最後の一体を倒そうとしたとき、ガロウ・ウルフが頭を伏せて地面にひざまずいている。
俺は最後の一体にとどめを刺そうとした瞬間。
「待つのじゃ!」
声が響いた。
俺は発動しようとしていた魔法を消す。
声の下方向を見ると、そこには杖をついた老人が立っていた。
「村長……!」
「どうなされたのですか!?」
どうしたのだろうか?
「殺してはならぬ」
俺の元まで歩いてきた老人は、ガロウウルフと俺を交互に見ながら言った。
「なぜだ?」
「見るのじゃ。この魔物は貴様に屈服しておる」
「屈服?」
意味が分からず聞き返すと、村長が話し始めた。
「魔物は、自分より強いものに殺されそうになった時、稀にこのように平伏して忠誠を誓うときがあるのじゃ。しかし、忠誠を誓った魔物はテイムして、使い魔とすることができる。殺すのはもったいない」
「テイム?」
老人の言葉に俺が首をかしげていると。
「いいではありませんか。こうしてみると可愛いですよ」
シュリがガロウ・ウルフを撫で始めた。
くぅううん、くぅううん!
おぉ。完全に敵意を喪失しており、物欲しそうな目でをれを見つめている。
シュリの言う通り先ほどは牙をむいていて恐ろしかったが、こうして見つめられると、なんだかかわいく見えてくる。
「テイムした魔物が裏切ることはないのか?」
俺は老人に聞いた。
「ない。テイムした魔物は決して主人を攻撃しない。むしろ命の危機に陥れば、全力で助けてくれるじゃろう。また、どんな命令にも従うようになる。死ねと言えば、簡単にその命令にも従うじゃろう」
「なるほど。どうやってテイムするんだ?」
「その魔物の額に5秒間手を置けば完了じゃよ」
意外と簡単なんだな。
俺はガロウ・ウルフをテイムすることにした。
おそらくメリットの方が大きいだろう。
テイムが終わると、俺の足に向かって頭を擦り付けてきた。
「おぉ、可愛いな」
シュリが自分も触りたいと言わんばかりに頭をなでている。
「おぉぉぉぉぉ!!」
「すごい…ガロウウルフをテイムして今うなんて…」
「一体何者なんだ、彼は……?」
一部始終を見ていた村人からはそんな声が聞こえた。
「ありがとう。爺さん。教えてくれて」
魔物にとどめを刺そうとしていた俺に待ったをかけてくれた爺さんに、改めて礼を言う。
「なに、礼を言うのはこちらの方だ。村人の命を救ってくれてありがとう。今、戦えるものは王都に徴兵されておってな、危ないところだった」
そういってにっこり笑う老人。
「この村の村長なのか?」
「ああそうだ。名はガビルという。そなたの名は?」
「サトウだ」
「サトウ、か。覚えておこう」
「ところでこの村に宿はあるか?今日はここで止まりたいのだが……」
「ああ、あるよ。お主らは今日のことがあるから、ただでよいぞ」
「ありがとう、助かるよ」
そう言って村長は俺たちを快く泊めてくれた。
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