第24話

王宮を去ろうとしたとき女がしゃべりかけてきた。


確か、槍の勇者だ。少し小柄だが運動神経はよさそうな感じがする。


「手ぶらの勇者!」


手ぶらの勇者!?


一瞬誰の事を言っているのか分からなかったが、おそらく宝具を持っていない俺のことを言っているのだろう。


そう言いながら近づいてきた。


「あんた運ないね~。あんなにいろんな人に嫌われちゃうなんて」


「何の用だ?」


「これからどうするの?」


「まずは金稼ぎだな。モンスターを狩りに行こうかと思っている」


「そうなんだ。じゃあ、ギルドに登録してクエストやった方がいいよ!」


「ギルド?」


この世界にもゲームの様なシステムがあるのだろうか?


「そう! あのちょっと階段を上がったところにあるよ!」


槍の勇者は王の間で見たときは声を発さなかったので静かな奴かと思ったが、意外と明るくなれなれしい。


まあ、そのおかげで情報を得ることができて助かったが……。


「でもあんたこの世界に来たばっかなんでしょ?」


「そうだが?」


「それだったら、まず研究所に行った方がいいよ!」


「研究所?」


「うん、そこでまずこの世界のことを知った方がいいよ!」


「でもなんで俺にそんなこと教えてくれるんだ?金目当てか?」


「アハハ!ちがうちがう。これから‘’最悪‘’が来るなら戦力は少しでも多い方がいいじゃん? それにあんたさっきのいかさまなんてしてなかったでしょ? 私、雷魔法の使いだから分かったよ」


槍の勇者はまともそうで少し安心した。


「そうか。ところでお前、名前は?」


「私はヒカル。槍の勇者で雷魔法の使い手だよ!あんたは?」


「俺はサトウだ。使い手?」


「そう、普通の勇者は宝具と得意な魔法属性を持って転生するの」


なんだ? それは? なぜ俺だけ何も持たずに転生したんだ?


俺は自分だけ何も持たずに転生した不平等さに不満を感じた。



王宮を出てからは、バジルたち村人は王宮に用が済んだので別れた。


シュリも帰るかと思ったが一緒についてきたいという。


「シュリ様、本当にお帰りにならないのですか? お爺様が心配なさりますよ」


バジルや他の村人二人が心配そうに言う。


「はい、私もお金を稼いで、体の弱い妹に薬やおいしいものを食べさせてやりたいのです」


「分かりました、そういうことでしたら村長には私から伝えておきます」


シュリの妹想いの理由に村人たちはダメとは言えなかったようだ。



ヒカルによると研究所は王宮のすぐ近くにあるドーム状の建物だそうだ。


研究所を見つけてそこに行くまでそこまで時間はかからなかった。


俺は研究所の門を超え建物の中に入っていった。


研究所の施設は周りの建物に比べてずいぶんと近代的だった。周りは昔のヨーロッパ風なのにこの建物だけ異質だ。


「やあ、来たね」


中に入ると白髪の天然パーマの男がいた。顔は若そうだが白髪なので、歳はちょっとわからない。


そして俺とシュリはクドウ博士の研究室まで案内された。


「改めまして、私はここの研究所長のクドウだ。早速だが、君は魔物についてどこまで知っているのかい?」


「いえ、何も…」


「では、この世界の歴史と魔物の出現について話そう。まず数百年ほど前……」


長い……。一体いつまでしゃべるんだ!?


話し始めて一時間ほど話続けて、ようやく終わった。


クドウ博士は魔物オタクのようだ。


聞いた話をまとめると、数百年前戦争で人類の大半を失い、地球上はほとんど平らになった。

また、その戦争のきっかけになったのが魔石と呼ばれる石で、その石は人間の意思を反映するらしい。つまり魔法が使えるようになったのだ。そんな画期的なものを人類は開発したが、それがきっかけで各国は戦争に発展。それに加えて魔石により魔物も数百年前突如として現れた。つまり魔物は元々人間の作り出した化け物なのだ。


もう一つ大事なことを言われた。俺たち転生者たちは左手に魔石が生みこまれているが、俺たちもその魔石からできている。つまり、俺たちは本質的には魔物と変わらないのだ。


「これから俺はどうすれば?」


「まずは来るべき‘’最悪‘’を乗り切ることだ。諜報員によると1か月後と予想されているからそれまでにレベルや装備を整えておくことだね。」


装備か……。確かに剣や防具などは持っておいた方がいいかもしれない。


装備を整えるためにもお金が必要なので、ギルドでクエストを攻略して、お金を稼ぐのは間違っていないだろう。


「申し訳ありません、サトウ様。私も装備を買うお金は持っておりません」


「いや、まだ一か月ある。今からクエストでお金を稼げば間に合うだろう」



「最後に……、この国は四眷刃と呼ばれる方々がいて、普段はこの国を守ってくれている。しかし、魔物たちの動きが活性化している今、彼らは戦略上重要な場所に派遣され、いない。そういうわけで君たち転生者が呼び出されたというわけだ。次の‘’最悪‘’を乗り切れるかはすべて君たちにかかっていると言ってもいい。頑張ってくれたまえよ」


博士からの激励をもらい俺とシュリは研究所を後にし、次にギルドへと向かった。

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