第19話

俺が王都へ着く前夜、現実世界でも非日常的なことが分かった。


夜の9時くらいにコンビニのバイトから帰ると藤堂に話しかけられた。


「おい!佐藤!」


俺はまたダルがらみされているのだと思い、無視して去ろうと思った。


「ちょっと持てよ!」


「なんだ? 俺になんのようだ?」


「お前、この前進藤茜に絡んでいた不良をぶっ飛ばしたか?」


「あ、ああ。それがどうかしたのか?」


どうやら今日は喧嘩を吹っ掛けに来たわけじゃなさそうだ。


「最近、俺らのグループは別のグループともめているのは知っているか?」


「知るかよ。そんなこと。俺に関係あるのかよ?」


「ある。お前がぶっ飛ばしたのに、俺らのチームの奴がやったと勘違いされて、もめているんだ」


確かに前はこいつらのグループに所属していたが……。


「俺にどうしろと?」


「俺らのグループに加わってほしい」


「はぁ?なんで俺がお前らのためにそんなことしなきゃならないんだ?」


「単に俺らがもめているわけじゃねえ。進藤茜が連れ去られたんだ!」


「なに?」


「いいかよく聞け!首謀者は向こうのリーダー、鬼柳豊正だ。奴は今二十歳だが、もはや盗みや麻薬の取引にまで関わっていると噂されている。警察すら鬼柳を警戒している。そんな奴に進藤茜は目をつけられたんだ」


鬼柳豊正。


良く知っている。


俺の姉を怪我させた張本人だ。今でもその名前は夢の中で出てくる。


俺の姉は不良グループのリーダーと付き合っていた。姉は不良でも彼氏はいいやつだと言っていた。しかし、その鬼柳豊正のグループとの抗争に巻き込まれたのだ。


俺は藤堂に連れられて、グループの幹部が集まっている神社に連れていかれた。


この後、グループを引き連れて、鬼柳のグループと殴りこみに行くらしい。




「総長、佐藤を連れてきました」


奥のリーダーらしき男が顔を上げ俺の顔を見た。弟子丸豊正だ。この男は昔、俺がグループに所属していた時の副総長だ。


明らかに他の奴より二回りくらい体が大きい。本当に高校生か?と思えるほどの雰囲気である。俺は喋ったこともなかったが、姉さんは優しい人だと、昔言っていた。


そしてリーダーは口を開いた。


「お前ら、少し席を外してくれるか?」


そして全員いなくなり、俺はグループのリーダーと二人きりになった。


雰囲気的にボコられるのかと思ったが、総長は意外な行動に出た。


「すまない」


腕を後ろに組み、頭を大きく下げた。


「え?」


「お前の姉さんを守れなかった」


「……」


俺は返す言葉が思いつかなかった。


この人が悪いわけではないのだ。


「なぜ姉はあんな目にあったんですか?」


俺は初めて姉さんがああなった原因を知ろうとした。


今まで怖くて知ろうと思わなかったのだ。


「あれは、2年前の4月。鬼柳豊正のグループとの抗争の前日だった。俺とその時の総長と奈々子と3人で神社に向かう途中、奈々子は後ろからやって来た原付の奴にバットで殴られた。鬼柳が前代の総長を失意の念に落とし、戦意を喪失させるためにすべてやったんだ」


姉さんは本当に彼氏だった総長に大事にされていたんだ。


その話を聞いて少しだけ救われた気がした。


「その後はどうなったんですか?」


「その後、俺も総長も抗争に参加した。しかし、総長は奈々子をやられたことで力を出せず、そこで鬼柳に殺された。鬼柳は総長を殺し、俺らのグループを消すことが目的だった。鬼柳が何を目指しているのかは俺にも分からないが…」


今鬼柳が警察に捕まっていないということは、鬼柳が自分では手を下さず、他の奴にやらせたということか。


そうだとしたら、厄介な相手だ。少なくとも頭が悪い奴ではないのだろう。


「今から一緒に来るか?お前が来なくても進藤茜は助けるつもりだが…」


「茜はなんで連れ去られたんですか?なぜ、茜を連れ去る必要があるのか分からないのですが…」


「さあ? ただ一つ言えるのは鬼柳はただ女で遊びたくてさらうような奴ではないってことだ。何か他の目的があるとみている」


鬼柳が女で遊びたくてさらう奴ではないと聞いて少し安心した。


「行きます。俺が助けます」


進藤茜は俺にとって必要な人間だ。


進藤茜だけが殻の中に閉じこもった俺に目を向けてくれた。


茜を助けるためなら喧嘩はしょうがないと心の中で言い聞かせた。


しかも、相手は姉さんを脳死に追いやったやつだ。そんな奴をボコボコにしても神様は許してくれるはずだ。

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