第18話

こうして俺はシュリと何人かの男たちと馬車に乗り、王都まで向かった。


馬車を使っても丸一日かかるらしい。


村は昼に出発したので明日の昼くらいに着く計算だ。


そして今は日が落ちてしまい、馬車を止め馬車の中で休もうとしていた。


透かし、俺たちは月明かりに照らされ、とんでもないものを見てしまった。


「あれは、ガジュラか?」


俺は恐る恐る口に出した。


「ええ、間違いなく。しかも2体おります」


シュリは冷静に答えた。


「な!なんでこんなところに? 朝、俺たちの村を襲った奴といい、何かが起こっているのか?」


使者として来てくれた村人のバジルが言う。


この人はちょび髭をはやして坊主だが背も高くて面白い。普段明るい人が深刻そうに言うので、事態はまずい方向へ向かっているのだろう。


「どうしましょう…」


バジル以外の村人であるケントとマグマもどうしたらいいか分からない様子だった。


「あの村に戦える人はいるのか?」


俺は村人たちに聞いた。


「いや、あの村は俺たちの村よりも小さい。戦力になる者も王都に徴兵されているはずだ」


状況は最悪だ。


ほっとけばあの村は壊滅するだろうし、俺たちが助けに向かっても5人でガジュラ2体を倒せる確率は高くない。


少しの間沈黙が流れた。


その沈黙を打ち破るようにシュリが声を発した。


「ガジュラを倒しましょう!我らがやらなければ、あの村は壊滅してしまうのです!」


「でも倒すったって、どうやって?」


バジルは冷静に返した。


「私に策がございます。まず、この先に断崖絶壁の崖があるのでそこまで誘導します。そしてガジュラたちを崖までひきつけ、サトウ様の風魔法で崖に落とすのです」


確かにこれなら俺が強力な魔法を使えばいいだけだ。シュリは周りの状況を判断するのに長けているようだ。


「もう、迷っている時間はなさそうだな…」


バジルがそういった時、村の方から建物が破壊される音と、悲鳴が聞こえてきた。


「よし、やるぞ!!」


バジルが大きな声で言った。


そして馬車を下り、5人でガジュラの方へ向かって行った。


「私が光魔法で明かりを放ちます。お三方はガジュラの後ろ足を切りつけて崖の方に走ってください!サトウ様はその後ろを追って来てください」


「分かった!!」


全員シュリの指示に同時に答えた。


もう村の間近まで来ていたので、俺はその辺の岩陰に隠れた。


そして3人の村人がガジュラに切りかかると同時にシュリが詠唱を始める。


「天より生まれし光の聖霊よ、その安らかなお心の光を我に分けたまへ、ホーリーライト」


シュリは両手を上げ光の玉を作り、それを崖の方角の空へ向かって投げた。


すると光の玉が空中で弾け、まるで目の前に月があるかのような光を発し、明かりを明るく照らしている。


「きれいだ…」


俺は思わず口に出してしまうほどきれいで、一瞬見とれてしまったが、すぐに正気に戻った。


作戦は今のところ成功している。村人はガジュラを切りつけるのに成功し、崖に向かって走っている。また、シュリも光魔法を放ち、辺りを明るくするのと同時に、ガジュラを光の方に呼び寄せている。


どうやらガジュラは光に寄って行く習性があるようだ。


崖まではおよそ100メートルほどだ。


俺はガジュラの後ろを適度な距離を取りながらついて行った。


そして走りながら両手に風魔法の準備をする。


今回はガジュラを吹き飛ばすだけなので、組み合わせがない分簡単だ。


そしてガジュラが崖のそばまでたどり着いた。


「サトウ様!今です!!」


そうシュリが言った瞬間、俺は風属性の魔法を2つ両手からそれぞれのガジュラに放った。

「エアリアルバースト!!!」


2つの風魔法がガジュラに向かって突き進んでいく。


一体のガジュラには命中し作戦通り、崖に落ちていったが、一体には避けられ、しかも俺とシュリたちの間に入ってしまった。


「くそっ、これじゃあ巻き込むからもう一度打てない」


「サトウ様!!もう一度私たちに構わず打って下さい!!」


「でも…」


一瞬俺はみんなを巻き込んでしまうと思い躊躇した。


しかし、そうか、シュリは光魔法を持っているんだったな。


「早く!!」


俺はとっさに風魔法をガジュラの顔面に打ち込んだ。


風魔法が弾けガジュラは吹っ飛び、見事崖の下に落ちていった。


ガジュラが吹っ飛んだあとには錐型の光の壁だけがあった。シュリの光魔法だ。


そして、光の壁が消え、中からシュリたちが出てくる。


「大丈夫か?」


俺は急いで駆け寄った。


「はい。全然問題ありません」


「お前も良くやってくれたよ。あんな大型モンスター2体も吹っ飛ばしちまうなんてな」


バジルがそういう。


「いや、みんながガジュラたちを引き付けてくれたおかげだ。ありがとう」


こうして俺たちは2体のガジュラを討伐することに成功し、次の日の朝、再び王都へ向かって動き始めた。

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