第14話

俺が異世界で魔法の練習とモンスター狩りをしている間、現実世界に少し変化があった。


俺が藤堂をぶっ飛ばしてからというもの、学校でもバイト帰りにも俺にちょっかいを出してくる奴がいなくなったのである。


やはり、藤堂をぶっ飛ばしたことで俺は怖がられているのだろうか?


昼休みにお昼ご飯を買いに購買に行くと人が大勢おり、かなり並ばなくてはならない。それにも関わらず、どういうわけか俺の近くには人が寄らず、道が勝手に開き並ばずにパンを買えた。


そんなに怖がらなくてもいいのに……と思いつつ、前に進みパンを買って教室に戻っていった。


教室に戻る途中、階段を上っていると上から藤堂が数人を連れて下りてきた。


「あ、こいつ佐藤じゃないすか?」

「あ、本当だ。藤堂さんどうします?」


藤堂の隣にいる二人はそんなことをしゃべっている。


こいつらは俺が藤堂をぶっ飛ばしたことを知らないか、信じていないようだ。


「こんにちは、藤堂さん」


俺は普通に挨拶をした。しかし、藤堂は俺と目が合った瞬間に、びくっと反応し、後ずさりし壁まで下がった。


どうやら相当俺にビビっているようだ。


「藤堂さん? どうしたんすか?」


藤堂の隣にいる男が藤堂に聞く。


「いや、今はいい」


そう言って藤堂は俺と目を合わせず、すれ違い階段を下りて行った。後も二人も藤堂について行った。


今日は喧嘩にならずに済んで俺はホッとした。



現実世界で変わったことと言えばもう一つある。


進藤茜が相変わらず朝俺の家に迎えに来るのだ。周りの人の目がすごいから嫌がると思っていたのだが……。


しかも、今日は学校が終わったら勉強を教えてほしいから、俺の家に来るという。


確かに試験が近いから、勉強を教えてほしいという気持ちは分かるが……。


進藤茜の頭の中は大丈夫だろうか。一人で男の家に来て怖いとは思わないのだろうか?



家に戻ると先に進藤茜の方が付いていた。


「遅いですよ!先輩!」


「ごめんごめん。ホームルームが長引いちゃって……」


そして俺は進藤茜を中に招き入れた。


「今日はこの問題を教えてもらいに来ました」


数学の一次関数の問題だ。


俺は数学が少し得意だったので難なく教えることができ、分からないことが解決すると進藤茜は自習し始めた。


見かけによらずというより、見たまんまだが進藤茜はかなり真面目で集中すると、他を寄せ付けない雰囲気があった。


俺もその雰囲気につられて勉強しだした。



1時間半くらいたった頃、進藤茜がしゃべり出した。


「あ―疲れた。先輩、何かゲームしませんか?」


「いいけど、トランプとか?」


「じゃあババ抜きで!」


俺は棚の上にあるトランプを取り、中を取り出しシャッフルした。


「負けた人は罰ゲームで! 勝った人の言うこと何でも一つだけを聞くこと!」


「いいのか? 俺けっこう強いけど?」


「またまた。私には勝てないですよ!」


盛り上がってきたところでババ抜きの真剣勝負が始まった。


勝負が始まり両者一歩も引かず、順々にカードを捨てていった。


そして、最終的に俺が1枚、進藤茜に2枚のカードが残り、俺がジョーカーを引かなければ勝ちという状況になった。


ここからは心理戦だ。


「メンタリズムを使わせてもらおう」


本当は使えないが、相手を動揺させるためにできる風に言ってみた。


「どうぞ」


しかし、進藤茜は全く動揺しない。


「これがジョーカーですか?」


俺は進藤茜の持っている左のカードを指さして聞き、彼女の表情を確認した。次に右のカードを指して同じことを聞いた。どちらも答えは『はい』だった。


しかし……、全く分からない。テレビによく出ているメンタリストとかならこれで分かるのかもしれないが……。


俺はなんとなく左のカードを恐る恐る引き、確認してみると……、ジョーカーだった。


「あ~くそっ!」


「ふっふっふ。残念でした、先輩。本当のメンタリズムというものを見せてあげますよ」


進藤茜を俺がしたのとまったく同じように、左から順に指をさしてこれがジョーカーか聞いてきた。俺はどちらも『いいえ』と答えた。


「こっちですね」


そう言って、進藤茜は右側にあった数字のカードを引き抜いて行った。俺が答えてからあまりに素早く取っていったので、本当にメンタリストかと疑うレベルだ。


「なんでわかったんだ?」


「人間は言葉では嘘が付けても、体は嘘が付けないんですよ。さっき先輩はジョーカーの方で『いいえ』と言いつつ首を縦に小さく振っていましたから」


「ぐっ」


なんといい洞察力だ。確かに、俺と初めて会った時も、俺の心の中を見透かされた感じがしたが、とんでもない能力だ。


「さあ、私の願いを一つ聞いてもらいますよ!」


俺は何をさせられるのだろうか? もしかして、今まで俺に近寄って来たのはこのためか? 俺に何かをさせるために近づいてきたのか?


俺は少し怖くなってきた。


「で、俺は何をすればいいんだ?」


進藤茜は少し考えてから口を開いた。


「今年の神社の夏祭り、何があっても絶対私と一緒に行ってください!」


へ?それだけ?


俺は少しの間、固まってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る