第3話 あれだけ令嬢を侍らせていたのに
分かっているわよ。
物語の王子様のように、「真実の愛に芽生えたから婚約破棄してくれ」なんて言ってくれない事なんて。
いや、そんな理由で婚約破棄をする物語の王子もどうかと思うけど。
そもそも、『真実の愛』って何なのよ。そんな事言われた日には、「王太子の立場で求めて良いものじゃない」って言い返してやるわよ。
サイラス殿下は言わないけど。
いや、真実の愛どころか、自分に好意を持つ女性を足切り無しで受け入れてない?
「いや~、いいねぇ。フェアフィールド公爵邸の居間は。古巣に帰ってきた感じがするよ」
ソファーの真向かいに座っているサイラス殿下は、我が家の侍女にお茶を入れてもらってくつろいでいる。
「やっぱり。クリスティーヌとこうしている時が、一番落ち着くよ」
サイラス殿下は、わたしに向かってもにっこりと笑う。
他の令嬢といる時と同じように……。
本当に、腹が立ちすぎて神経が切れてしまいそう。
「それで、父の話とは何だったのですか?」
今日、彼は私の父親に呼び出されて我が家に来たはずだ。
「うん。それなんだけど。クリスティーヌは、私との婚約に不満があるの?」
…………は?
あるけど……。それは、もう。ものすごくあるけど。
私は下を向き、膝に置いた手を握りしめてしまっていた。
その私の様子をしばらく見ていたのだろう、サイラス殿下はパチンと指を鳴らし我が家の侍女と控えていた使用人を下がらせた。
「さて。これで正真正銘、2人っきりだ。言いたい事を言って良いよ。婚約者に対して、不敬だなんて言い出す程、私は狭量ではないつもりだからね」
サイラス殿下は穏やかに、そう言って私を促す。
だけど……明らかに、この部屋には緊張感が漂っていた。
「サイラス殿下が、他の女の子と一緒にいるところを見るたびに、私はなんなのだろう、と思ってしまって」
「うん」
「だって、そうでしょう? お茶会だけならまだしも、夜会でも……あまつさえ、他の令嬢を寝室にまで入れて。そりゃ、男性側は結婚するまでは、自由を謳歌出来るかもしれませんが……」
「不公平だって? でもなぁ。さすがに私の血を引いていない子を跡継ぎにするのは、色々問題があると」
「誰がそんな話しているんですか?」
思わずテーブルを叩き怒鳴ってしまった。なんで私がビッチ扱いされないといけないの。
「どんな話なんだっけ?」
「イライラするって事です」
「イライラ……ねぇ。なんだ、嫉妬してるんだ」
「だ~れ~が~嫉妬して、イライラしてるんですって~?」
王太子じゃ無かったら、胸倉掴んでいるところだわ。
「…………怖いよ、顔が。今にも人を殺しそうな……」
「誰の所為ですかね。誰の」
「私の所為だね。なるほど、分かった」
やっとわかってくれたか。
「これからは、彼女たちの誘いには乗らない事にするよ」
……今なんて?
「やっぱり、寝室まで連れ込まれるなんてやりすぎだものねぇ」
いや、何で?
話についていけてないのですが……。
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