第2話 王太子殿下の所業

 いけない。いけない。

 何の為の淑女教育、何の為の王妃教育。

 冷静に冷静に。


「さようでございますか。わたくしとの婚約はイヤでは無いから破棄をしないと、そうおっしゃるのですね。サイラス殿下は」

 ダメだ。怒り心頭で、声まで震えている。だいたい私はちゃんと笑えているのだろうか。


「そうだよ。よく分かっているじゃないか、クリスティーヌ」

「では、なぜ。そちらの令嬢とお茶をしていらっしゃるのでしょうか」

 私がそう問いかけると、サイラス殿下はきょとんとした顔をして見せた。

「なぜって……。誘われたから?」

 今度はキャロライン様が、え? って顔をしている。

「殿下? わたくしとお茶を……と誘って下さったのは、殿下ではないですか」

 焦ったように、キャロライン様がサイラス殿下に確認をしている。

 キャロライン様の言い分ももっともだと思う。伯爵令嬢が王太子殿下を誘って、自分の屋敷ならまだしも、王宮でお茶会を主催なんて出来るはずが無い。

 準王族の公爵令嬢じゃあるまいし。


「あれ? この前の夜会で、私にすり寄って来て、いつまでも私のそばにいたいって言わなかったっけ?」

 あの時にそう言ったのは君だよねって顔してるよ、サイラス殿下。

 サロン付きの侍女たちは、蔑んだような目でキャロライン様を見ているし。

 当のキャロライン様は、あまりの事に口をパクパクさせていた。


 本当にね。こういう奴なのよ、こいつは。

 あら。わたくしとしたことが、口が悪い事。

 って、口には出して無いけど……。


「サイラス殿下は、お忘れかもしれませんが。我が国では、国王であっても複数の妃を持つことは許されておりませんのよ」

 今のやり取りで少し冷静になれた。

「知っているよ。帝王学の授業に、我が国の法律も入っているからね」

 ちゃんと勉強しているからねとばかりに、胸を張るのはやめて欲しい。

 子どもか、お前は。


 キャロラインの方を見ると、開いた口がまだふさがってない。

 なんだか、気の毒だからもう一つ情報を渡そうかな?


「そういえば、先日。サイラス殿下の寝室から、ジョネフ子爵令嬢の……何でしたっけ、お名前」

「ああ。レティ?」

「そう。その方が、出てきたようでしたが」

「積極的だよね。なんだかんだで、気が付いたら寝室まで連れて行かれちゃって」


 連れて行かれちゃって……、じゃ無いだろう。

 何ヘラヘラ笑っているんだ。このクズ


 もう、淑女教育どこに行ったって感じなんですけどね。私の脳内。 

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