第335話 聖竜部隊最後の出撃
オービタルリング内でハルトとミカエルが戦っていた頃、<ニーズヘッグ>と<ホルス>はオービタルリング宇宙港付近へと到着していた。
「主任、オービタルリングの宇宙港エリアに到着しました。現在周囲に敵機の反応は無し」
「……妙ね。ここは私たちがオービタルリングに侵入可能な最短ルートの港のハズ。そこに防衛部隊を配置せずにいるなんて……」
「まるで「入ってこい」と言わんばかりの状況ですわね。であれば港内に待ち伏せがいると考える方が自然ですわね」
<ニーズヘッグ>のブリッジでは、アメリ、シェリンドン、ステラがこの奇妙な状況に対して思索を巡らしていた。
エーテル通信用モニターは<ホルス>のブリッジと繋がっており、そこに映るカーメル三世もこの状況を訝しみ警戒態勢を最大にするように部下に命令していた。
『ヤマダとヒシマが戦った<メテオシューター>が唯一の防衛戦力だったとは考えにくい。これほどの大規模施設であれば必ず何層にもわたる防衛ラインを敷いているハズだ。タンザナイト女史の言うように内部で待ち伏せをし、我々が侵入してきた瞬間を狙ってくる可能性が高い。であれば、港に入る前に装機兵各機を発進させ迎撃態勢を整えておいた方が良いだろう』
歴戦の猛者でもあるカーメル三世の指示のもと聖竜部隊に所属する装機兵全機の発進が開始された。
<ニーズヘッグ>では竜機兵チームの機体が随時発進シークエンスに入る。
『カタパルトデッキ内にエーテルエネルギー伝導開始、射出準備完了。竜機兵チーム各機発進どうぞ』
アメリの指示に従い<グランディーネ>がカタパルトデッキに移動するとデッキ内では風のエーテルによる浮力で機体が浮き上がり発進態勢に入る。
コックピット内ではパメラが前方に見える真空の
『まずは私が出るよ。これが最終決戦……ここに来られなかった皆の分まで戦い抜いてやる! パメラ・ミューズ、<グランディーネ>行くよ!』
カタパルトデッキから勢いよく射出された<グランディーネ>は宇宙を飛行し<ニーズヘッグ>を守るように船の前方に移動する。続いて<シルフィード>が発進準備に入った。
『ここでまごついていたら先行しているハルトが集中攻撃を受ける。僕たちも速やかに内部に侵入するぞ! シオン・エメラルド、<シルフィード>発進する!』
<シルフィード>は宇宙に出ると<ニーズヘッグ>のブリッジ近くに陣取る。それからも竜機兵チームの機体が随時発進する。
『遂にここまで来ましたわ。今まで何十何百と繰り返されてきた時間を前に進める為にも……犠牲になった方々の為にも……クリスティーナ・エイル・アルヴィス、<アクアヴェイル>参ります!』
『オービタルリング……これ程巨大な物が私たちの頭上にずっと存在していたとはな。これがクロスオーバーの本拠地であるならば思い切り暴れてやるだけだ。フレイア・ベルジュ、<ヴァンフレア>出る!』
『この状況でクロスオーバーの連中が何もしかけて来ないハズが無い。攻撃するチャンスを窺ってるに違いねぇ。だとしたら……フレイ・ベルジュ、<ドラパンツァー>出るぞ!』
竜機兵各機と<ドラパンツァー>が出撃すると次にカタパルトデッキに姿を現わしたのは<ベオウルフメギド>だった。そのコックピットではアグニが自らの不思議な境遇に苦笑していた。
『まさか僕がこの船から出撃する事になるなんて数ヶ月前には夢にも思わなかったよ。それはさておきクロスオーバーの連中には色々と世話になったからね、この礼は百倍にして返してやるよ! アグニ・スルード、<ベオウルフメギド>出るよ!』
<ベオウルフメギド>が射出されたのを見送るとアインは<ベルゼルファー>をカタパルトデッキに進ませ発進態勢を整える。奇しくも竜機兵最後の出撃はその試作機に当たる<ベルゼルファー>が務める形となった。
『<サイフィードゼファー>が不在の今、兄弟機である<ベルゼルファー>がその穴を埋める。ハルトがシステムTGを相手にするのなら俺がガブリエルを討ち取ってやるさ。アイン……<ベルゼルファー>行くぞ!』
<ニーズヘッグ>の前方カタパルトから部隊が発進すると、後部デッキから一際巨大な機体――<パーフェクトオーベロン>が発進シークエンスに入った。
ティリアリアはそのコックピットから眼下に広がる惑星テラガイアを見つめていた。
『何百回も悲惨な終わりを繰り返して私たちはやっとここまで辿り着いた。未来への一歩を踏み出すためにも絶対に負けられない。ハルトも必死に戦ってる。これ以上遅れを取るわけにはいかないわ! ティリアリア・グランバッハ、<パーフェクトオーベロン>行きます!』
<ニーズヘッグ>から竜機兵チームが発進するのと並行して<ホルス>からもヤマダとヒシマの敵討ちに燃えるノイシュ、ロキ、ジンが発進した。
『ヤマダ……ヒシマ……あんた達の分まで頑張るからね! ノイシュ・ローズ、<ドゥルガー>出ます!』
『ヤマダとヒシマが私たちを最後の戦いの舞台に導いてくれた。絶対に二人の死を無駄にはしないわ! ロキ・エルム、<フェンリル>舞い乱れます!』
『もはや言葉はいらん。後はただ行くのみ! ジン・スパイク、<スサノオ>いざ参る!!』
<ドゥルガー>、<フェンリル>、<スサノオ>が発進すると<ホルス>のカタパルトデッキに姿を現わしたのは黄金の太陽機兵<クラウ・ラー>であった。
金色の豪華な外見とは裏腹にコックピット内のカーメル三世の心は決意と怒りに燃えていた。
『ヤマダ、ヒシマ……お前達が命がけで繋いでくれたこの道、ありがたく進ませて貰うぞ。そして永きにわたり繰り返されてきた星の
暗闇が果てしなく広がる宇宙に黄金の装機兵が出陣し、眼下に存在する『テラガイア』の星の光が装甲に反射しその存在を周囲に知らしめる。
聖竜部隊各機は<クラウ・ラー>を中心に陣形を組み母船を守りながら最終決戦の地オービタルリングへの扉を開こうとしていた。
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