最終章 竜たちの凱歌

第333話 言っただろう、一瞬で終わらせるって

 <シヴァ>との戦いが始まった。ミカエルは意外にも真っ正面から突っ込んできてルドラソードによる斬撃を繰り出し、俺はエーテルカリバーンで受け止めた。

 二本の刀身が衝突しエーテルエネルギーの干渉による火花が激しく散る。


「パワーは互角……やるっ!!」


『この<シヴァ>に匹敵する性能か。ウリエルの手心があったとは言え、新人類の技術がこの短期間でここまで発展するとはな……驚嘆に値する』


「そうかい。後でマドック爺さんやシェリー達に伝えておくよ」


『既に私に勝った気でいるとはな。舐められたものだ』


「最初から負けるつもりで戦うバカがいるか!!」


 切り払ってすかさず刺突攻撃に切り替えると切っ先が<シヴァ>に届く前に風の障壁に阻まれる。

 咄嗟に後方に下がって距離を取ると<シヴァ>を覆っていた突風がルドラソードに集まり刀身を巨大な風の刃が包み込んだ。


『<シヴァ>が炎と風のエーテルエネルギーを扱えるのは知っているな? まずはこの風の一撃を受けてもらおう。――クレセントエア!!』


「術式兵装には術式兵装を! 術式解凍、コールブランド!!」


 <シヴァ>の三日月状を描く風の斬撃に対し<カイゼルサイフィードゼファー>の閃光の斬撃を放ち衝突させると膨大なエーテルエネルギー同士が干渉して爆発を発生させる。

 二機は爆風でそれぞれ後方に吹っ飛び人工の大地に着地する。


「――っ! 互角か」


『そんな初手の術式兵装でクレセントエアが相殺されるとはな。だが、<シヴァ>は炎のエーテルエネルギーの方が得意でね』


 <シヴァ>の周囲に無数の魔法陣が出現し、その一つ一つに高密度の炎の玉が生成される。ざっと見たところ最低でも二十以上はある。


『燃えろ――プロミネンスボール!』


 無数の炎の玉が一斉にこっちに向かって発射された。距離を取って最大速度で逃げ回るが、それでもしつこく追ってくる。

 地上すれすれを飛行すると幾つものプロミネンスボールが地面に直撃してうっそうと茂る森と地面を次々に灼き、瞬く間にこの一帯は炎の海と化した。


「何て奴だ! ここをぶっ壊すつもりなのか!?」


『オービタルリングの外壁はお前が思っている以上に頑丈に出来ている。それに破損してもすぐに修復システムが作動する。――そして何よりも私はここを破壊することに躊躇は無い』


 俺が逃げ回る間もミカエルはプロミネンスボールを次々に生成して放ってくる。

 このままだと逃げ場を失い炎の玉が一斉に着弾する。そんなことになったらさすがの<カイゼルサイフィードゼファー>のエーテル障壁も装甲も持たない。


「こっちにも遠距離用の武装はある! ブレードテイルパージ……スターダストスラッシャーーーーー!!」


 尾部のブレードテイルを分割して射出すると、その一つ一つが強力なエーテルエネルギーを纏った刃となってプロミネンスボールを破壊して回る。

 空中では一斉に爆発が起こり、その隙を突いて<シヴァ>に接近する。


『正面から来るか、面白い!』


からなんて必要ない。このまま叩き潰す!!」


 エーテルフェザーの出力を上げて機体を加速させると一瞬で間合いを詰める。


『なっ……!?』


「これは……俺の距離だ!!」


 エーテルカリバーンで袈裟斬りにし<シヴァ>の装甲に傷が付く。しかし浅い。


『この程度で落ちるものか!』


「誰が一撃で終わらせると言った? 俺を甘く見てると一瞬でスクラップになるぞ!!」


 <シヴァ>の周囲を動き回りながら斬撃を浴びせていく。ミカエルは機体を高速移動させるがピッタリ張り付いてダメージを与え続ける。

 ルドラソードで斬りつけてくる瞬間にエーテルカリバーンをぶつけて切り払い、バランスを崩したところに左腕を打ち込んだ。


「術式解凍……バハムートォォォォォォォ!!」


 左手掌に集中させた高密度のエーテルエネルギーをゼロ距離で<シヴァ>に放ち吹き飛ばすと勢いよく落下し人工の大地を抉るようにして転がっていった。

 ヤツの損傷した部位ではセルスレイブが活性化し瞬く間に修復が行われていく。  

 俺はその様子を焦ること無く眺め、完全に修復が終わると<シヴァ>の目の前に着地した。

 

『何故修復している間に追撃をしてこなかった? 余裕のつもりか?』


「ああ、そうだよ。さっき斬り結んでみて良く分かった。ミカエル……お前じゃ俺には勝てない。さっきと同じダメージならこれから幾らでも与えられる。言っておくが俺に慢心は無い。ただ、やれると確信したから言っている。――それをこれから証明してやる!」


 そこからの戦いは一方的だった。俺はミカエルの攻撃のことごとくをさばいてカウンターを叩き込みダメージを与える。

 クレセントエアを躱し、ティヴァシマティが放たれる前に接近し斬撃を叩き込む。その度に<シヴァ>の装甲修復が行われるが次第にそのスピードが鈍くなっていく。


『くっ、まさかここまで一方的な状況になるとはな。システムTGの言っていた事は間違っていなかったと言うことか』


「……あいつがあんたに何て言ったんだ?」


『ハルト・シュガーバインの実力はまさに最強。しかし、その力はまだ完全には発揮されていない。――故にその真の力を引き出す仕込みをしてきた。そう言っていた』


「仕込み……か」


 <ヴィシュヌ>戦を想定したシミュレーターを通して俺は一段階強くなった感覚を覚えていた。いや、違うな。ようやくこの魂と身体が完全に馴染んだ感じがする。

 それからシミュレーターでの結果は一変した。それまでが嘘だったみたいに<ヴィシュヌ>の動きに対応できるようになり負けることは無くなった。

 システムTGはもしかしたらその事を言っていたのかも知れない。だとしたら奴の狙いはやはり――。


『このままではこちらに勝ち目は無いな。ならば――』


 ミカエルが何かを決意した瞬間、<シヴァ>から発せられるエーテルエネルギーが格段に上昇した。

 頭上に展開されているエーテルハイロゥが巨大化し機体周囲のエーテル障壁の層が厚くなる。全てにおいて明らかなパワーアップを遂げている。


「それが<シヴァ>の最大パワーか」


『その通りだ。先程と同じようにいくと思ったら大間違いだぞ、ハルト・シュガーバイン。この状態はマナの消費が激しい分、機体性能が段違いに上がる。プロトタイプの熾天セラフィム機兵シリーズ三機にのみ組み込まれた強化形態だ』


「そうか……なら、こっちも本気でやらせて貰う。そして一瞬で終わらせる!」


『大した自信だ。それが単なる自惚れなのか、それとも冷静な判断によるものなのか見せて貰う!』


 右腕のエーテルカリバーンを収納し、機体各部に搭載されているアークエナジスタルにエーテルエネルギーを集中……前面に展開した魔法陣から一振りの大剣を取り出し構える。


「ドラゴニックウェポン……エーテルエクスカリバーーーーーーーー!! そして――」


 体内を循環するマナを練り上げスキル『灰身けしん滅智めっち』を発動、集中力を極限まで高めた。


『このプレッシャー……例の反応速度を爆発的に高めるスキルを発動したか! 面白い。お前の真価を見せてみろ、ハルト・シュガーバイン!!』


 フルパワーによって機動性が格段に上がった<シヴァ>は機体をバレルロールさせながら突っ込んでくる。しかも周囲には防御力が上昇したエーテル障壁を展開している。

 言うなれば今の<シヴァ>は巨大な弾丸みたいなものだ。接触すればそれだけで弾かれバラバラにされる。――そう、普通ならそうなるだろう。


 俺もまた<カイゼルサイフィードゼファー>を<シヴァ>目がけて飛翔させ、エーテルエクスカリバーにエネルギーを集中する。

 

『正面から来るだと!? 舐められたものだ。その慢心、<シヴァ>最大の術式兵装サシパンジャラで粉々に撃ち砕いて見せよう!!』


 ルドラソードに超高密度の風と炎のエーテルエネルギーが同時に集中し赤金色の刃が形成される。そのエネルギーがエーテル障壁に伝播し<シヴァ>は赤金色のオーラを纏って突っ込んでくる。


「これで決着を付ける! エーテルエネルギー最大出力、術式解凍! リンドブルムッ!!」


 俺もまた機体の前面にエーテル障壁を最大展開し切っ先を<シヴァ>に向けたまま最大スピードで突撃する。

 金色の装甲に変化した<カイゼルサイフィードゼファー>と赤金色の<シヴァ>はお互いスピードを緩める事無く衝突した。


『その程度の術式兵装でサシパンジャラに打ち勝てる訳が――!?』


 勝利を確信していたミカエルの表情がモニター越しにこわばるのが見えた。

 衝突後、金色竜の刺突攻撃によって赤金色の斬撃を砕き、そのまま<シヴァ>の右腕を貫き破壊すると吹き飛ばされた本体は地面に勢いよく叩きつけられた。

 あの損傷ではもう右腕は使えないし、操者のマナが消耗した現状では修復機能自体まともに作動しないだろう。


「だから言っただろう。一瞬で終わらせるって」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る