第332話 決戦の地オービタルリング
◇
ヤマダさんとヒシマさんと別れオービタルリングに直結しているシャフトを通り始めてから時間が経過したがまだ出口は見えない。
かなり近くまで来ていたと思ったのにこれだけ距離があるのはオービタルリングが俺の予想より遙かに大きいという証拠だ。
「ヤマダさん、ヒシマさん、皆……無事だよな?」
最小限の照明だけが灯っている薄暗い空洞の中にずっと居るせいか悪い事ばかり考えてしまう。せめて皆の状況が分かれば――。
(皆は大丈夫だ、安心しろ)
(わりぃな、俺とヤマダは合流できなくなっちまった。――後は頼んだぞ、ハルト)
「……えっ? ヤマダさん、ヒシマさ――」
不意に頭の中にヤマダさんとヒシマさんの声が聞こえ、両肩に手を置かれた感覚がしたので振り返ると誰も居なかった。でもそこには確かに二人の気配が残っている。そう、二人はついさっきまでそこに居た。
「……同じだ。初めて<サイフィードゼファー>で出撃した時と同じ……俺に後を託して……皆は無事だと伝えるために来てくれたんだ。……ヤマダさん……ヒシマさん……あ……あああ……うあああああああああああああああ!!!」
二人は逝ってしまった。この状況がそんな耐えがたい事実を俺に突きつける。あの時残って一緒に戦っていればという後悔が俺をさいなむ。
目から涙が溢れて視界がぼやける中、コックピットにアラートが響き渡る。袖で涙を拭いエーテルレーダーを確認すると前方にシャフト内を埋め尽くすように敵機の反応が幾つも表示される。
「――ッ!!」
戦闘を回避する事は不可能……いや、最初から戦わない選択肢は無かった。俺は怒りの矛先を目の前に出現した敵機に向ける。
「お前等……邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁ!! そこをどけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
球体型の操縦桿を握りしめ<カイゼルサイフィードゼファー>を敵の群れに突撃させる。
クロスオーバーの量産型装機兵<サーヴァント>と<量産型ナーガ>の混成部隊がエレメンタルキャノンを一斉に放ってくる。
それに対し回避行動を一切せずにエーテル障壁を全開にして弾き返しながら最大速度で突っ込みなぎ倒し進んでいく。
「そんな気の抜けた攻撃が効くかよ!!」
コックピットモニターを通して敵機が目の前に現れては一瞬でスクラップになっていく様子が見える。
それが何度も繰り返されていると遙か前方に光が見え、シャフト内の隔壁がゆっくり閉じていくのが確認出来る。
「出口が見えた! 隔壁が完全に閉じる前に通過しないと……!」
急がなければと思った矢先、一機の<量産型ナーガ>が壁の如く立ち塞がる。
俺は構わずそのまま突撃し、そいつの顔面をシャフトの内壁に押しつけながら最大スピードで飛行する。
「邪魔だっつってんだろうが!!!」
<量産型ナーガ>の頭部は激しく火花を散らしながら削られていき間もなく完全に壊れる。最後は力任せにぶん殴って吹き飛ばすと閉じゆく隔壁にぶつかって爆散した。
隔壁が閉じる前にギリギリ通り抜けた俺は光の向こう側に到達した。
コックピットモニターに映し出されたのはまるで地上のような広大な大地だった。上を見上げると人工物を思わせる金属製の内壁が遙か向こうに見える。
SF作品に出てくる宇宙に出た人類が生活する巨大な人口の大地『スペースコロニー』。まさにそんな環境が実物として俺の目の前に広がっている。
人工の空の果てが見えなければ『テラガイア』の風景とほとんど変わらない。
「ここがオービタルリングの内部。こんなに巨大な空間が『テラガイア』を一周するように広がっているって言うのか。スケールが違いすぎる……」
改めて旧人類の技術力の高さを思い知らされる。これだけ高度な文明を持っていたにも関わらず人類は戦争をして母星を死の淵にまで追いやってしまったのか。
人間の業の深さもまた計り知れない。人間はどんなに文明を発展させても戦いの呪縛から逃れられない。――そんな事を考えさせられる。
オービタルリングの内部を見て色々と考えて居ると再びコックピット内にアラートが響く。同時に俺自身も周囲におびただしい数の敵意を感じ臨戦態勢に入る。
直後、眼下に広がる森の中から何十機もの<量産型ナーガ>が姿を現わし浮上して来た。
「……待ち伏せか。ここにシャフトの出入り口があるんだから当然の戦略だな。――丁度良い、お前等で<ヴィシュヌ>と戦う前のウォーミングアップをさせて貰う」
『……その程度の雑魚共ではウォーミングアップにもなるまい』
「なっ……!?」
エーテル通信で男の声が聞こえると<量産型ナーガ>の向こう側に強大なエーテルエネルギーの反応があった。
太陽の様な光と炎が広がっていき一瞬で全ての<量産型ナーガ>を飲み込み燃やし尽くしていく。俺は高度を取ってその場から離れ炎の攻撃範囲から逃れた。
「今の攻撃は見覚えがある。あれは確か術式兵装ティヴァシマティ。その使用者は――」
ティヴァシマティが放たれた中心部には紫色の装甲に身を包んだ機体が居た。
オレンジ色のデュアルアイが睨むように俺に向けられている。そこには確実に敵意が感じられる。
『遅かったな、ハルト・シュガーバイン』
「ミカエル……意外だな。あんたはシステムTGかラファエルと行動を共にしていると思っていたんだけどな」
「雑魚掃除をしてくれた事については礼を言う。それはそれとして俺にはあんたと戦う理由は無いんだが、どうやらあんたは違うみたいだな」
『私と戦う理由が無いだと? そんな事はあるまい。私はお前の恩師ランド・ミューズを殺したのだ、十分に戦う理由はあるだろう。恩師の敵討ちを果たすチャンスが目の前に転がってきたのだぞ。喜ぶべき状況ではないのかな?』
「それに関しては前回戦った時に区切りを付けたハズだ。俺はもうお前に対してわだかまりは無い」
『本当にそうか? そう自分に言い聞かせているだけではないのか? 私がお前の立場であったのなら、自分と親しかった人物を手に掛けた者に対してわだかまりを消すことなど出来ない。しかもその相手が自ら戦いを挑んでくるのなら、仇を討つチャンスだと思うがな』
「俺を挑発する気か? 意外だな、あんたがそんなくだらない事をする奴だとは思わなかったよ。――悪いが俺の相手は既に決まってる。あんたがここにいるって事はシステムTGも既にここに到着してるんだろ? 俺はあいつのもとに行かせて貰う!」
『私を野放しにすると後悔するぞ。お前が私と戦わないと言うのならば、その代わりにお前の仲間と戦うまでだ。ガブリエル達を相手にするだけでも苦戦は必至だというのに、そこに私も加わったらどうなるかな?』
「そうまでして俺と戦いたいのか。……いいだろう、その挑発に乗ってやるよ。雑魚共で準備運動をし損ねたから代わりにあんたでウォーミングアップをさせてもらう。――覚悟は出来てるんだろうな、ミカエル!!」
『覚悟をしたからこそ、私は今ここにいる。ハルト・シュガーバイン、お前がシステムTGと戦うに値する男かどうか私が見定める。――いくぞっ!!』
<シヴァ>は斧と剣の特性を併せ持ったルドラソードを装備すると正面から突っ込んでくる。俺は<カイゼルサイフィードゼファー>の右腕部にエーテルカリバーンを装備し迎え撃つ。
互いの剣の刀身が勢いよく衝突し周囲に金属音が木霊すると同時に刃の接触部から火花が散る。
こうして最終決戦の地オービタルリングを舞台に俺たちの最後の戦いが始まった。
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