第330話 宇宙の大聖②
『へへ……ギリギリだったな……』
ザザ……と雑音混じりにヒシマ機からの通信がヤマダ機のコックピットに入る。
ヒシマ機のコックピット内の状態はノイズが酷く確認不可能で音声のみが何とか繋がっていた。
『ヒシマ……生きてたか。良かった……』
『勝手に……殺すな……ガフッ、ゴフッ……!!』
『お前……その咳……普通じゃないぞ……』
『なぁに……ゲフッ、ゲフッ!! ちょっと、タバコを吸いすぎただけ……だ。気に……すんな……』
『タバコって……そんなの随分前に……吸うの……止めただろ……』
推進系が破損し動けなくなったヤマダ機にヒシマ機が接近してくる。
モニターに映るヒシマ機のコックピット付近には大型杭が突き刺さったままであり、その内部が無事であるハズがない事は火を見るよりも明らかだった。
一方のヤマダ機も機体の左半身を破壊され、推進系はもはや機能せず操者のヤマダ自身も重傷を負っていた。
『はぁ……はぁ……んぐっ! こりゃ突き刺さった破片が肺にまでいってるな……もう……長くねえかな……?』
『……ヤマダ……何か言ったか……?』
『ただの独り言だよ……』
再びコックピット内にアラートが鳴り響く。大型弓を破壊されたものの稼働可能な<メテオシューター>が息を吹き返した。
『くそ……攻撃が浅かった……か。済まねぇ……ヒシマ……俺が油断したせいで……』
『気にすんな……って……言ったろ。お前の方を見たら……その後ろに……たまたま敵が……いただけだ……』
二機の<ハヌマーン>を取り囲む様に再起動した<メテオシューター>が集まってくる。
既にヤマダとヒシマにはまともな戦闘を継続する力は残っておらず、その場から動く事すらままならない状態であった。
『ちっ、ぞろぞろと……集まって……きやがって……嬉しくない……つーの……ゴホッ、ゴホッ!!』
『ヒシマ……あと一回……撃てるか……?』
『……ああ、一回だけ……なら……やれる……ぜ……』
『よし……エーテルエネルギーチャージ……開始……』
ヤマダとヒシマは余力を全て次の攻撃に込めるべく機体の出力を限界にまで上げていく。その途中でヒシマは笑った。
『なあ、優子ちゃん……覚えてるか……?』
『……それって中学一年の時に……俺とお前が告白して……振られた子……だろ? 何でまたこんな時に……そんなの思い出す……だよ』
『振られた……あと……二人で泣きながら……ゲームしたの……思い出した。……それからも……お前とは……ずっと一緒で……ガフッ、ゲフッ!!』
『本当にお前とは……腐れ縁だよ。ガキの頃から一緒に遊んで……学校も一緒で……就職先も同じだった。まさか一緒に……転生なんて……経験するとは……思わなかったな……ガフッ……ゴフッ……!』
『何だよ……お前も……タバコか……?』
『まだ吸い慣れなくて……な……ゴホッ、ゴポッ!!』
大型弓を失った<メテオシューター>の生き残りは接近戦用のナイフを装備して二機の<ハヌマーン>ににじり寄っていく。
その包囲網には逃走するスペースすらなかった。そんな敵の動きに気を配りつつ、ヤマダとヒシマは咳き込みながらも会話を続けていた。
『そう言えば、ヒシマよ。……お前……俺んちの子供が生まれた時……俺より先に子供を抱っこ……したよな……』
『あれは悪かったって……何度も謝った……だろ……。病院に着いたら……父親と間違われて……抱っこしてあげて……言われたら……しちゃうだろ……』
『あれな……俺は怒ってねえよ。あの時のお前……鼻水垂らして……大泣きして……喜んでくれて……俺……凄く……嬉しかったよ……』
『そんな話……初めて……聞いたぞ……』
『そりゃそうだ……初めて……話した……から……。思い返せば……俺の生涯は……お前に……振り回され……ぱなし……ゴフッ、ゴフッ、ゴフッ!!』
『それに関しては……悪く……ガハッ、グフッ! ……思ってるよ……』
『……ヒシマ……お前のお陰で……ずっと……楽しかった……』
『そうかぁ……ヤマダ……俺も……悪くなかった……ぜ……』
薄れていく意識の中、ヤマダはコックピットモニターに新しい反応が映るのを確認し目を見開いた。
そこには青い惑星から宇宙に上がってくる二隻の飛空艇の姿が映っていた。
『おい……ヒシマ……<ホルス>と<ニーズヘッグ>だ。見える……か……?』
『ああ……無事に上がってこれた……みたいだな。……良かったぁ……。それじゃあ、敵も良い感じで……集まって来たし……そろそろ……やろう……ぜ。実は……さっきから……意識が何度か……飛びそうになってた……からよ……』
『そう……だな……。俺も……もう……ヤバそうだ。船にはメッセージを飛ばした。……いくぞ……!!』
大破寸前の二機の<ハヌマーン>はエーテルエネルギーを臨界にまで引き上げて術式兵装を発動する。
フリーダムロッドを勢いよく回転させると自らを中心とした竜巻を発生させ、包囲網を張っていた<メテオシューター>を次々に呑み込み金属の体躯をねじ切っていく。
『これが俺たち……最後の……
『――
宇宙に巻き起こった竜巻は広がっていき、この宙域にいる<メテオシューター>を呑み込んでは破壊していく。
竜巻の中心部にいるヤマダ機とヒシマ機は斉天大聖が巻き起こす暴風の中で徐々に機体がバラバラになっていき、コックピットのモニター越しに二人は笑い合った。
『『後は任せたぜ!! じゃあな、戦友ーーーーーーーーーーー!!!』』
次の瞬間、二機の<ハヌマーン>は動力を暴走させながら大破し、その爆発は斉天大聖の竜巻に合わさり範囲内にいた全ての<メテオシューター>を粉々に吹き飛ばした。
竜巻が止むと、この宙域には一機たりとも原型を留めた機体は存在せず、おびただしい数の残骸だけが広がっていた。
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