第329話 宇宙の大聖①


『ったく、ハルトの奴やっと行ったか』


『さあて、これで気兼ねなくやれるな。――ヒシマ、鬼畜弾幕ステージの成功率はどれぐらいだったっけ?』


『一番やり込んでいた時期で三割ってとこだな。ヤマダは?』


『俺も同じぐらいだ。ゲームは一人プレイだったが今は二人だからな、楽勝よ』


 <ハヌマーン>二機は中継地点の待機所から外に出ると<メテオシューター>の大部隊を追ってキントウンで宇宙を飛行し始める。

 

『宇宙戦は初めてだが事前にやったシミュレーターと感覚は変わらない。――<メテオシューター>の攻撃パターンは覚えてるよな?』


『ちゃんと覚えてるよ。五機でチームを編成して同時に大型杭を撃ってくる。それから次の杭をセットするまで二秒。まず一射目は回避に専念して二射目を撃たれる前に叩く。後はその繰り返しだ』


『その通りだ。<メテオシューター>が二射目を装填する二秒の間に接近して撃破しないといけない。一射目を回避するポイントを見誤れば接近する間に次を撃たれる。その場合、近距離で超速の杭を撃ち込まれるから回避は難しい。弾切れを狙っていると他の編成部隊が次々に撃ってきてミンチにされる。一部隊ずつ確実に潰して行くぞ!』


『あいよ! 俺たちが失敗すれば<ニーズヘッグ>と<ホルス>が落とされちまう。死んでも奴等を全滅させてやるさ!』


 気合いを入れて敵部隊の後を追う最中、ヤマダはヒシマに問う。


『なあ、ヒシマ。一応訊いておくが覚悟は出来てるか?』


 ヒシマは微笑むと相棒であるヤマダに振り向き機体の拳を向ける。


『そんなもん、この世界にやって来てお前と一緒に戦うと決めた時に出来てるよ。――お前も同じだろ、相棒!』


『おうよ!』


 二機の<ハヌマーン>は拳を合わせるとスピードを上げて戦闘領域に到達した。<メテオシューター>の大部隊は一斉に二機に振り向き攻撃態勢に入る。


『来るぞ!!』


『わあってるよ!!』


 ヤマダ機とヒシマ機は一番近い五機編成に接近し、両肩からコックピットを守る様にエーテルバンデージを展開する。

 五機の<メテオシューター>が左腕の大型弓を向け発射態勢に入った。ヤマダとヒシマは呼吸する事すら忘れて回避のタイミングを逃すまいと集中する。


『――っ!!』


 <ハヌマーン>二機が同時に飛行軌道をずらし横に急速移動した瞬間、五機の<メテオシューター>から発射された大型杭が目にも留まらぬ速さで通り過ぎていく。

 その瞬間を待っていたと言わんばかりに<ハヌマーン>は最大速度で急接近しフリーダムロッドとエーテルバンデージによって大型弓もろとも<メテオシューター>五機を瞬殺した。


『よしっ!! 攻撃のタイミングはゲームと同じだ。いけるぞ!!』


『油断すんな! 第二陣が来る!!』


 最初と同じやり方で最小限の動きで初撃を躱し二撃目の前に敵五機を確実に破壊する<ハヌマーン>ヤマダ機とヒシマ機。

 一発でも当たれば撃墜必至の超速攻撃を紙一重で躱さなければならない緊張と失敗すれば味方が全滅すると言う恐怖がないまぜになる中、二人は神業を駆使して敵機の数を減らしていく。

 そして――。


『こいつらでっ!!』


『ラストォォォォォォォ!!』


 最後の<メテオシューター>部隊の攻撃を回避しロングモードのフリーダムロッドで一網打尽にすると二人は勝利の咆哮を上げる。


『よっしゃああああ!! ははっ、やったぜ! 俺たち二人なら、あの程度の敵どうってこと――』


 <メテオシューター>を全滅させた安堵と緊張からの開放でヤマダ機が動きを止めた瞬間、ヒシマ機が急接近し突き飛ばす。

 突然の味方の意味不明な行動に驚いていると、モニター越しに映っているヒシマ機に何かが当たり破片を飛び散らせながら吹っ飛んでいった。


『ヒシ――』


 視界から消えたヒシマ機の方に向かおうとするもヤマダは反射的にその逆方向を見る。

 そこには左腕の大型弓をヤマダ機に向け二射目を装填している<メテオシューター>がいた。

 

『な……全滅させたハズだ!! それがどうして……!?』


 次の瞬間、コックピットにアラートが鳴り響きエーテルレーダーに次々と敵反応が表示されていく。

 すると全身を覆うマント状の装備を脱ぎ捨てた数十機の<メテオシューター>が姿を現した。


『光学迷彩にステルス装備……? こいつら最初から隠れて……クソッタレェェェェェェ!!!』


 目の前に現れた<メテオシューター>の大部隊が一斉にヤマダ機に向けて大型弓を向け、セットされた大型杭が金属特有の鈍い光を見せながら発射のタイミングを窺っていた。

 ヤマダは自分に向けられた数十の凶器を前に臆すること無く親友を襲った<メテオシューター>に向かって突撃した。


『お前がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 真っ直ぐに向かってくる<ハヌマーン>に数十の大型杭が発射されると俊敏な動きで直撃を避ける。

 回避と同時にエーテルバンデージを全身に巻き付け防御力を限界まで引き上げて生存力を高める。

 数本の杭が左足と左腕をかすめて半壊させる中、フリーダムロッドを伸ばして敵機を一斉に横薙ぎにし撃墜した。

 それでも破壊出来たのは全体の一部であり、間もなく次の大型杭が発射され回避行動に移る<ハヌマーン>の装甲を削っていく。

 ダメージを負いながらも怯む事無くヤマダは次の部隊を破壊しながら突き進んでいった。


『まだだっ!! まだ、落ちる訳にはいかねえ!! 一機でも逃したら後から来る連中がやられちまう。――持ってくれよ、<ハヌマーン>!!』


 <メテオシューター>の一斉射が行われるごとに徐々に傷ついていく<ハヌマーン>。

 敵の残りがあと僅かとなった所で機体の脇に損傷を受けダメージがコックピット内にまで及ぶ。

 破損したモニターの破片が身体に刺さり吐血しながらもヤマダは必死に敵に食らいつく。


『よ……しっ……! 敵残りあと……五機!!』


 最後の<メテオシューター>五機の一斉射によってヤマダ機の左半身は持って行かれ、満身創痍の状態で気力を振り絞り三機を沈めた。

 推進系をやられ移動不能の絶体絶命に陥る中、生き残った二機がヤマダ機の前で大型杭の装填を終え狙いを定める。

 その時、後方から伸びてきたフリーダムロッドによって発射寸前の<メテオシューター>二機は破壊された。

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