第326話 飛翔②

「間もなく高度十キロメートル、成層圏に入ります」


「ここまであっという間だったわね。エーテルフェザー及びエーテル障壁広域展開!」


「了解。両舷エーテルフェザー発生翼稼働開始、エーテルフェザー展開しますわ。エーテル障壁広域展開、第二加速に入ります」


 無事に『シャングリラ』のマスドライバーから打ち上げられた<ニーズヘッグ>は成層圏に到達、順調に高度を上げていた。

 その後方に<ホルス>が追随し<ニーズヘッグ>が展開したエーテルフェザーとエーテル障壁の広域展開によって空気抵抗が緩和され飛行速度が上昇していく。


 <ニーズヘッグ>のブリッジでは大気圏離脱とオービタルリング突入に向けて準備が進められていく。

 アメリは船内環境をチェックしシェリンドンに報告した。


「船内は現在エーテル力場により『テラガイア』と同じ一Gの環境を維持、各セクションより問題発生の報告は入っていません」


「シミュレーション通りね。このまま速度上げつつ高度を取り大気圏を離脱します」




 格納庫ではティリアリア達が船外モニターの映像を見ていた。

 そこに移っているのは遙か眼下に広がっている『テラガイア』の大地と大海であり、今まで見たことの無い光景に感嘆していた。


「凄い……これが私たちが生活している惑星の姿なのね」


「宇宙に出れば『テラガイア』全体を視界に収める事が出来ますわ。惑星は丸い形をしていると言う話でしたわね」


 映像を食い入るように見つめるティリアリアとクリスティーナ。

 シオンとパメラは別の映像を神妙な面持ちで見ていた。それはティリアリア達が見ている方向とは逆側に設置されているモニター映像だった。


「地上から見た時には延々と続く棒のように見えていたが、近づけば近づくほどこいつの存在が尋常ではないと言う事が伝わってくるな」


「そうだね。これから私らはあそこに突入するんだよね」


 シオン達が見つめるのは上空に位置するオービタルリングだった。接近するにつれてその外観やサイズが明確になっていき、規格外の建造物を前に彼らは息を呑む。


「何十万年も前に人類がこんな物を造っていたなんて信じられないよ。しかもこれって惑星一つを一周してるんだよね。スケールが違いすぎるよ」


 パメラが不安そうに呟くと、話を聞いていたマドックがオービタルリングをしげしげと眺めて口を開いた。


「現在の技術ではとても造れる代物ではないのう。これだけの技術力を持っていても人類は自らを律する事が出来ず惑星を滅ぼしかけたんじゃ。人は昔も今もそれほど成長していないのかもしれん」


「そう思ったからシステムTGは惑星もろとも人類を滅ぼそうと考えているんだろ。――少なくとも建前上は、な」


「その通りじゃ。だからこそシステムTGの真意を確かめる為にハルトが向かっておる。そろそろ先発部隊もオービタルリングに到着する頃じゃな」


 その時、船内に警報音が鳴り響く。続けてアメリの船内アナウンスが聞こえてきた。


『総員第一種戦闘配置! 繰り返す、総員第一種戦闘配置! 本船前方オービタルリング付近にて戦闘と思しき閃光及び多数のエーテルエネルギー反応を確認。敵大部隊の待ち伏せが予想されます。各クルーは持ち場にて戦闘準備をお願いします』


 ティリアリア達は急いで自分たちの機体に乗り込みブリッジに通信を繋げ状況を確認する。


「ブリッジ、詳しい状況を!」


『現在オービタルリング付近にて戦闘が行われています。エーテルレーダーで確認したところ<ハヌマーン>二機が敵の大部隊と交戦中の模様。竜機兵チームはいつでも出撃出来るようにお願いします』


「分かったわ。あそこに<サイフィードゼファー>は……ハルトは居ないの?」


『少なくとも<サイフィードゼファー>の反応はありませんでした。詳細は不明です』


「了解」


 通信が切れるとティリアリアに不安が押し寄せる。予知能力を使って状況を確認しようとするがイメージが入って来ず唇を噛む。


「肝心な時に限って使えないんだから! ハルト、ヤマダさん、ヒシマさん……大丈夫よね?」


 


 ブリッジでは大気圏離脱と戦闘確認により各クルーはせわしない状況に陥っていた。


「間もなく大気圏離脱エリアを通過しますわ。船体各部に異常は見られません」


「オービタルリング周囲で爆発と思われる光を多数確認。戦闘が拡大していると考えられます」


「……大気圏離脱の方は問題なさそうね。戦場まであとどれぐらいで到着出来そう?」


「まだ距離がありますので少なくとも十分以上は掛かると思います」


 遠くで戦っている味方の救援にすぐに駆けつける事が敵わずシェリンドンは拳を強く握る。


「あと十分……何とか持って……」


 祈る思いで呟くと戦場で大規模な爆発が発生した。ある一点を中心として広がっていった閃光が消えるとそれから爆発は起きなくなった。

 状況を探っていたアメリはエーテルレーダー等の各種装置で戦場の状況を確認し一つの結論に至った。


「前方エリアにおける戦闘……終了しました。エーテルレーダーに反応……ありません」


「そんな……間に合わなかった……? こんな事って……」


 シェリンドンを始めとするブリッジクルーは愕然とした。その時、エーテル通信が何かを受信しアメリが確認すると目を見開く。


「……主任、ヤマダさんからのメッセージです」


「……アメリ……読んでもらえる?」


 アメリが身体を震わせながらメッセージを読み始める。

 

 ――時間はこれより少し前に戻り先発部隊側からこの出来事が語られる。

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