第325話 飛翔①

 『シャングリラ』では<ニーズヘッグ>と<ホルス>の発進に向けて最終調整に入っていた。


「『シャングリラ』上空の雲海は完全に消滅。マスドライバーより射出後の本船及び<ホルス>の進路上に問題なし」


「マスドライバーの電力供給状況に異常ありませんわ。基地側からはいつでも発進しても大丈夫との連絡が来ています」


 アメリとステラから発進に問題はないと言う報告が入り、シェリンドンはエーテル通信により繋がっている<ホルス>と連絡を取る。


「カーメル王、それでは十分後に発進しようと思いますが、そちらもそれでよろしいでしょうか?」


『ああ、構わないよ。いつでも出られるように既に準備は終わっているからね。早く出発することに越した事はない。いつ敵の襲撃が来るか分からないからね』


「了解しました。それでは十分後に発進します」


 通信を切るとシェリンドンは船内放送を入れた。


「船長のシェリンドン・エメラルドです。本船はこれより十分後に発進します。クルー各員は持ち場にて準備をお願いします。――恐らくこれが最後の戦いになります。皆で生きて故郷に帰りましょう。以上です」


 船内放送が終了し発進シークエンスが開始される。その時ブリッジに警報が鳴り響いた。


「『シャングリラ』の防衛システムに反応あり。上空からこちらに向かって大型カプセルが降下してきます。その数約二十。サイズから一カプセル辺り四機ほどの装機兵が搭載可能と推測されます」


「……やはりこのタイミングで攻めてきたわね」


 ブリッジのメインモニターにカーメル三世とゼクスが表示される。双方ともシェリンドンと同じく動揺は見られず落ち着いていた。


『ハルトが話していた通りのタイミングで仕掛けてきたね。雲海が無くなれば大気圏外から奇襲部隊を送り込んでくる。以前、王都アルヴィスを落とした時と同じ戦法だ』


「雲海が無くなって地上が見えやすくなった分、高い精度で部隊を降下させられるとも言っていました。これほどのカプセルを『シャングリラ』にピンポイントで降下させた事からもハルト君の読みが当たっていた事が証明されましたね」


『大した慧眼だ。さすがは聖騎士殿と言ったところか。このような前代未聞の敵の戦術をこうも看破するとは恐れ入ったよ』


 ゼクスが感心しているとシェリンドンはやや上機嫌でハルトが話していた戦術を思い返していた。


「ハルト君が言うには何でも『お約束』だからだそうです。「戦艦が宇宙に出る時には必ず敵が襲ってくる」と話していました。『シャングリラ』に敵が待ち伏せしていなかった時点で確実にこのタイミングで仕掛けてくると断言していましたから……」


『なるほど……そのような読みをする相手を敵に回していたとは今さらながら身震いするよ。――さて、それでは<ナグルファル>は防衛行動に入る。<ニーズヘッグ>と<ホルス>は発進シークエンスを継続してくれ。健闘を祈る』




 通信が終了するとマスドライバー基地の上空で待機していた<ナグルファル>が高度を取り始める。

 カタパルトデッキには搭載機である三機の滅竜機兵――<ゲオルギス>、<カドモス>、<シグルズ>が待機していた。

 <ナグルファル>のブリッジは戦闘準備に移行し船体に多数搭載されているエレメンタルキャノン用の砲門が開放される。


「エレメンタルキャノン各砲門展開完了。続いて『シャングリラ』防衛システム起動します」


 人工島である『シャングリラ』の地下や海中からおびただしい数の砲台が出現し、上空から迫るカプセルに向けて砲口が向けられる。

 一方、降下してきた二十機以上もの卵型カプセルは一斉にバラバラに分解し、中からクロスオーバーの量産機<サーヴァント>と<量産型ナーガ>で構成された部隊が姿を現した。


「ゼクス隊長、降下カプセルから敵装機兵の出現を確認しました。その数六十機を超えています。エーテルエネルギー出力パターンから機種を特定……<サーヴァント>と<量産型ナーガ>の混成部隊です!」


「六十機か……中々の大部隊だな。『第七ドグマ』の装機兵部隊はどうなっている?」


「既に装機兵全機が出撃し各エリアで待機しています」


「さすが動きが早いな。――ツヴァイは空中で敵を迎撃、ドライとフィーアは地上に降下しマスドライバー基地に近づく敵を迎え撃て! ドラゴンキラー部隊の底力を見せるぞ!!」


『『『了解!!』』』

  

 敵部隊が射程に入り迎撃が開始された。

 『シャングリラ』の砲台から電力をエネルギー源としたビーム弾が発射され広範囲に渡って弾幕を敷くと降下中の<サーヴァント>に命中していく。

 更に<ナグルファル>や各装機兵のエレメンタルキャノンで追い打ちをかけ撃墜していった。

 無数の弾幕がばら撒かれる中、破壊された仲間のむくろを盾代わりにして生き残りの機体が降下してくる。


 ツヴァイは空戦を得意とする<ゲオルギス>で出撃し槍型の武器エーテルアスカロンで<サーヴァント>を瞬殺していく。


『この程度の雑魚にやられる<ゲオルギス>ではない!』


 次の獲物に向かおうとすると<量産型ナーガ>の群れが槍を携え<ゲオルギス>に刺突攻撃を仕掛けてくる。

 ツヴァイは機体を巧みに操って攻撃を回避すると高度を取り上空から降下しながら勢いを付けて<量産型ナーガ>を突き刺した。


『空中戦はこうやるんだよ。<フレスベルグ>譲りの空戦能力、嫌と言うほど見せてやる!!』


 弾幕をかいくぐって地上に降り立った敵機はマスドライバー基地に向かって移動を開始した。その眼前には二機の滅竜機兵が待ち受ける。

 ドライが搭乗する<カドモス>は<エイブラム>譲りのパワーと装甲で敵機をなぎ倒していく。

 フィーアが搭乗する<シグルズ>は<ヴァジュラ>をベースとした機体で、術式兵装のブラッディスケイルで装甲を強化するとエーテルグラムによる水の刃を振るって敵機を斬り刻んでいった。


『<ニーズヘッグ>と<ホルス>が飛び立つまで何としてもここを死守する!』


『これぐらいの露払いはこなさないと……ね!!』


 <ナグルファル>と三機の滅竜機兵を中心にして降下してきた何十機もの機体が撃破されていった。

 激戦の最中さなか、遂に約束の十分が経過し<ニーズヘッグ>がマスドライバー基地から発進、一気に加速してレール上を突き進んでいく。

 マスドライバーのレールに近づく敵機を三機の滅竜機兵が傷つきながらも撃破する中、<ニーズヘッグ>が通り過ぎ無事に空に向かって射出された。


 それから間髪入れず<ホルス>がレール上を凄まじいスピードで滑走し<ニーズヘッグ>と同様に空に向かって加速射出され飛び去った。

 あっという間に視界から消えていく二隻の飛空艇を見送りながら、ツヴァイ、ドライ、フィーアが祈るように声を出した。


『翔べ……!』


『翔べ……アイン……!』


『翔べ……アグニ……!』


 <ナグルファル>ブリッジではモニターしていた二隻が空の彼方へと消えていく様子が映りゼクスが叫ぶ。


「翔べ、<ニーズヘッグ>……<ホルス>……蒼穹そうきゅうを越えて翔べぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 戦火に包まれる『シャングリラ』から脱出した<ニーズヘッグ>と<ホルス>は宇宙に向かって飛び立っていった。

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