第323話 雲海を作りし者
「こいつが<クラウドメーカー>……話に聞いていた通りかなりデカいな」
<クラウドメーカー>は巨大な体躯の上側を出現させると雲海を泳ぐようにして移動を開始した。
ヤマダさんとヒシマさんの<ハヌマーン>が接近する。
『まずは俺たちが仕掛ける! お前は離れてろ』
<ハヌマーン>二機が二手に分かれて<クラウドメーカー>の左右に回り込むと専用武器のフリーダムロッドを伸ばし始める。
一見無骨な棒状の武器フリーダムロッドだが、あれには唯一無二の特殊な能力がある。それはエーテルエネルギーを込める事で伸縮自在になると言う性質だ。
『高さが確か千メートルはあるんだったな。それなら取りあえず同じぐらいに伸ばしてみっか!』
『応よっ!!』
フリーダムロッドはぐんぐん伸びていきあっという間に桁違いの長さになった。
二人は超ロングサイズのフリーダムロッドを大きく振り上げると勢いを付けて思い切り<クラウドメーカー>のボディに同時に叩きつけた。
その巨躯が雲海に押し込まれ雲の波しぶきが広範囲にわたって起こる。
「あのサイズの敵を一撃で押し込んだ。フリーダムロッドってあんなに伸ばす事が可能だったのか……」
一旦雲海に沈んだ<クラウドメーカー>は頭をもたげて頭部の一部を開くと中から砲口が出現する。狙いをヤマダ機に向けると砲口から巨大な白い弾を発射した。
ヤマダ機はキントウンの出力を上げて急上昇し回避に成功した。敵機が放った砲撃の威力を見て俺たちは唖然とする。
『おいおい、あんなの直撃したら一発で終わりだよ』
<クラウドメーカー>の放った砲撃は雲海の表面を大きく抉りながら遙か彼方まで飛んでいき大爆発すると広範囲に霧みたいなものを発生させた。
「『鑑定』で奴の能力を確認しました。今のはクラウドバスターっていう兵装みたいです。圧縮した雲海を発射したものらしいですけど、威力は見ての通り当たったら即終了です」
『それで爆発を起こした後は雲海の成分をばら撒くって感じか。あくまで雲海維持の為の兵器って訳だな。無駄が無いねぇ』
『奴を見た目から亀に例えるなら、クラウドバスターは口から吐いている。首を動かして色んな方向に撃てるから命中率はかなり高い。油断してると落とされるぞ!』
『おまけに俺たちの攻撃を受けてもビクともしねぇ。背中の甲羅部分の防御力はかなり高いな。別の部分から攻めた方が良さそうだ』
攻撃箇所を考えあぐねていると<クラウドメーカー>の内部から多数の砲台が出現し一斉に対空砲火を開始した。
無数のエーテル弾が雨みたいに四方八方に発射され俺たちの接近を阻んでくる。
「くっ、まるでハリネズミみたいに武装してるな! これじゃ近づけないっ!!」
『……ん? ハリネズミ……そうか! ヤマダ、ハルト、良い作戦が思いついたぞ』
ヒシマさんが作戦を考え即採用されると早速実行に移る。
『済まんな、ハルト。本来ならその役は作戦立案者の俺がやるべきなんだが……』
「いや、これはドラグエナジスタルを搭載している<サイフィードゼファー>が適任です。それじゃヤマダさんとヒシマさんは作戦通りにお願いします!」
『了解!』
『あいよ!!』
<クラウドメーカー>から一旦距離を取ると<カイザードラグーン>と分離して合体シークエンスに入る。
「行くぞぉぉぉぉぉ!! 聖竜合体!!!」
ストレージ領域を広げて合体フィールドを形成、その空間内を<カイザードラグーン>が踊る様に飛翔し各パーツが分離、<サイフィードゼファー>に装着されていく。
脚部パーツ、肩部パーツ、腕部パーツ、背部パーツが次々に装着されエーテルフェザー発生翼が展開、背部下方ではブレードテイルが形成される。
<カイザードラグーン>の機首が胸部アーマーとして装着され、同時に兜パーツが装着されるとフェイスガードが下り三本のブレードアンテナが展開する。
「聖竜機皇カイゼル! サイフィード!! ゼファーーーーーーーー!!!」
合体が完了すると雲海の中に突入し<クラウドメーカー>の真下を目指して移動する。
「思った通り腹の下側は守りが手薄だ。雲海の中は視界が悪いしエーテルレーダーも利かないが……」
ドラグエナジスタルの効果で機体周辺の雲海が消滅していき視界がクリアになっていく。機械仕掛けの巨大亀の腹が目の前に広がっている。
迎撃用の砲台から対空砲火が開始されるが上側に比べれば数が少なく余裕で回避可能だ。
「……よし! 視界良好、反撃も手薄……潰させて貰うぞ<クラウドメーカー>!!」
右腕にエーテルカリバーンを装備して巨大亀の腹に突き刺すとそのまま飛行し斬り裂いていく。
「ようし、結構切り込みが入ったな。それじゃあ、ここから調理開始だ。スッポン鍋にしてやる! 術式解凍――バハムート!!」
切り込みのど真ん中にバハムートを直撃させて大穴が開くとそこから内部に侵入して所構わずぶった切っていく。
更にスターダストスラッシャーでズタズタにし、内部爆発が次々と起きて周囲は火の海と化した。
「これだけ派手に壊せばお終いだ。そろそろ脱出するか」
上を目指して内部を破壊しながら移動していき、最後は甲羅部分を内側から突き破って外に脱出した。
外から見ると<クラウドメーカー>は身体中から火を噴いているが撃破にはまだ遠い様子。
『お疲れさん、さすがだな。あいつはもう終わりだ』
「でもあれじゃまだ落ちなさそうです。もっと暴れてくるんだった」
『それなら俺とヤマダで止めを刺す。ハルトは離れて休んでてくれ』
ヒシマさんとヤマダさんは半減した対空砲火をかいくぐり、さっき俺が開けた穴から<クラウドメーカー>内部に侵入した。
どうするのかと思いながら距離を取っていると、内部爆発が加速していき<クラウドメーカー>はバランスを崩して傾き始める。
「こんな短時間でここまでダメージが広がるなんて……やっぱりヤマダさんとヒシマさんの連携は凄い……!」
感嘆していると内部から竜巻が発生し<クラウドメーカー>の巨躯を食い破っていった。
強固な盾だった背中の甲羅部分は吹き飛び、飛行ユニットである四肢のヒレは爆発し墜落を始める。
最後は頭部が吹き飛んで体幹部分は四散。<クラウドメーカー>は派手な爆発を繰り返しながら粉々に砕け散って雲海に沈んでいった。
その場には大型の竜巻に包まれた二機の<ハヌマーン>だけが残り敵機が完全に沈むと暴風のバリアを解いた。
『戦闘終了だな。これで雲海が消滅するハズだが……』
『……おっ、雲海が段々消えていってるぞ。これなら短時間で上空を覆っているのが全部消えそうだ』
<クラウドメーカー>が沈んだ直後から急激に雲海が消え始めた。情報通りなら二時間程で完全消滅するハズだ。
「お疲れ様でした。これなら予定通り雲海は消えますね。それじゃ俺たちは軌道エレベータに戻ってオービタルリングを目指しましょう」
三機揃って軌道エレベータに戻る道すがら二人に気になっていた事を訊ねる。
「さっき<クラウドメーカー>に止めを刺したのは術式兵装の
『まあね。隠していたつもりじゃないんだけどな』
「フレイが言ってましたよ。以前ヤマダさん達と戦った時に二人は本気を出していなかったって。もし本気で来られていたら勝てなかっただろうって」
『そうかバレてたか。フレイってゲームだとポンコツだったが、この世界では随分と切れ者だよな。それでいて情に厚い。結構気に入ってるのよね、あいつ』
「フレイも同じこと言ってましたよ。ヤマダさんとヒシマさんとは一緒に大多数を相手にする事が多いから凄く信頼してるって」
『嬉しい事を言ってくれるじゃない。――そうだな。エレベーターに乗ってから先が長いから、その道中お前の質問に答えるよ。お前んちの愛妻弁当食べながらね』
「あはは! 分かりました」
俺たち三人は無事に<クラウドメーカー>を破壊し軌道エレベータに戻るとオービタルリングを目指し移動を開始した。
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