第322話 雲海を越えて

 カタパルト内に生成された力場によって機体が浮遊し射出される。

 身体にGが掛かり<ニーズヘッグ>から発進するとそのまま真っ直ぐ飛行してマスドライバー基地から外に出た。


『続けて<カイザードラグーン>発進します』


 エーテル通信から<カイザードラグーン>の発進シークエンスが聞こえ、間もなく俺の後を追うように飛行してくるのが見えた。

 飛行軸を合わせて<サイフィードゼファー>を<カイザードラグーン>の上に乗せると高度を上げて『シャングリラ』を見下ろした。


「はぁ~、本当に凄いな。軌道エレベータは大樹そのものになってるけど、それ以外の施設はSFロボットものに出てくる宇宙港みたいだ。この人工島だけ時間の流れに取り残された感じだ」


 <カイザードラグーン>を外見が大樹になっている軌道エレベータに向かわせると後方から追いついてきた二機の<ハヌマーン>と合流する。

 早速ヤマダさんとヒシマさんと回線を繋いでやり取りを始める。


『さーて、とうとうファイナルバトルの開始だな。覚悟は出来てるか野郎共!!』


『だーもう!! いきなりデカい声を出すな、ヒシマ! 耳がキーンと鳴っただろうが』


「準備は万端。後はぶつかるだけです!」


『良い返事だな。ヤマダはもうちょっとハルトを見習って元気出せよ!!』


『俺はこれで元気あるの! お前たちみたいに普段から気合いが振り切れていたら身が持たないっちゅーの』


 談笑しながら飛行し軌道エレベータの内部エレベーター乗降口に到着した。

 そこには既に聖竜部隊所属の錬金技師たちが待機してエレベーターの起動確認をしてくれていた。

 

『先日説明したが軌道エレベータの中心部は空洞になっている。そこは大型資材輸送用のエレベーターシャフトになっていてこれを第一エレベーター、その外側に位置する中型資材輸送用の第二エレベーター、小型資材や人を輸送する第三エレベーターと呼称している。俺たちはまずここから雲海まで第二エレベーターを使って移動する。<クラウドメーカー>破壊後は再び第二エレベーターで上を目指し、宇宙空間になったら第一エレベーターに移りシャフトを通って一気にオービタルリングに侵入する。小型の第三エレベーターは使わないぞ』


「確か第二エレベーターの終点はオービタルリングの港でしたよね」


『その通り。第一エレベーターなら港を通過してオービタルリングに直接乗り込めるから最後はそっちを使う。途中シャフト内に敵機が待ち伏せしているだろうが戦闘するには狭いから最大出力で一気に突破した方が良いだろうな』


「了解です!」


 第二エレベーターの隔壁が開いて乗り込むと十分な広さが確保されていて装機兵三機程度であればかなり余裕があった。

 エレベーターが稼働開始し上がり始めた。ここからは三人だけで敵と戦う事になる。味方の援護はない。

 仲間と再会出来るのは<クラウドメーカー>を破壊し<ヴィシュヌ>を倒した後だ。


「そう言えば、どうして最初から第一エレベーターを使わないんですか? 移動速度は第一と第二で特に変わりは無いですよね?」


『そりゃあ、第一エレベーターはここよりも広いけど結構暗くて外の様子が分かりにくいのよ。それに比べてここなら眺めも良いからな』


 ヤマダさんが外を見るように促す。軌道エレベータの外側は植物のツタなどによってがんじがらめになってはいるものの隙間から外の風景を眺める事が出来た。

 

「うわぁ……!」


 第二エレベーターから見える絶景を前にして感嘆の声が上がる。下方に見える『シャングリラ』はどんどん小さくなっていき、その向こうに広がる大海が一望出来る。

 生憎あいにく、途中からは雲海のカーテンが掛かって水平線を眺める事は出来なかったがそれでも美しい光景が一面に広がっていた。


『戦闘前にこれぐらいの楽しみがあってもいいと思ってな』


『ゲームで見た眺めよりもこっちの方が断然良いな。こっちは現実なんだから当然っちゃ当然だけどな』


「空を飛んでる時とはまた違った趣がありますよね。……あ、そうだ。ヤマダさんとヒシマさんに渡す物があったんだ。手渡したいのでコックピットハッチを開いて貰っていいですか?」


『お、何かくれるのか?』


 ハッチを開くと二人に携帯食用ボックスを渡す。思わぬ贈り物に二人は驚いていた。


「これは……おにぎりとサンドイッチにクッキー、それに飲み物もあるぞ。これどうしたんだ?」


「ティア、クリス、フレイア、シェリーの四人が作ってくれたんです。クッキーはセバスさんが用意してくれました。飲み物はスポーツドリンクみたいな物ですね。先発部隊は作戦行動時間が長いから途中で食べてって言ってました」


「そいつはありがたい! 俺たちが持ってきたのは味気ないレーションだったから、こういう手作り弁当なんて嬉しくて涙が出そうだよ。<クラウドメーカー>を倒してから頂くとしよう」


「え……今食べちゃダメか?」


「ヒシマさん、さすがに早いですよ。雲海がある中継ポイントから先が長いんですから……」


 それから中継ポイントまではハッチを開いたまま三人でゲームの事や『テラガイア』に来てからの事を話し時間が経過していった。

 そして、中継ポイントに到着するとそれぞれハッチを閉めて戦闘態勢を整える。


『……中継ポイントに到着したな。外は雲海で視界が悪い。ハルト、頼むぞ』


「了解、ドラグエナジスタルなら雲海を吸収して無力化出来るので二人は俺の後ろにいて下さい」


『あいよ! 頼りにしてるぜ大将』


 <カイザードラグーン>に機体を乗せて軌道エレベータから外に出ると雲海の真っ只中だった。濃霧の中にいるのと同じで周りが見えない。

 後方には雲状の飛行ユニットであるキントウンを展開した<ハヌマーン>二機が続く。


「まずは視界を確保しないとな。――よし、ドラグエナジスタル出力上昇!」


 機体胸部に仕込んでいるドラグエナジスタルが活性化し周囲の雲海を吸収無力化していく。

 周辺の視界がクリアになっていくので気分が良い。それにこうして雲海が無くなっていけば、それを感知した<クラウドメーカー>が自分から姿を現すハズだ。


「さーて、ここからは釣りだな。相手はでっかい亀もどきだけど」


『こんだけ上等な餌をばら撒いてんだ。必ず食いつくさ』


『……二時の方向! 来るぞっ!!』


 雲海を消滅させながら移動していると雲の向こうに巨大な何かの影が見えた。それにしてもデカい。こいつで間違いない。


「ここじゃ視界が悪すぎます。雲海上層で戦いましょう。俺の後に続いてください!」


『『了解!』』


 雲海を消滅させながら上を目指して全速で飛翔する。やがて雲海を抜けて上層に到達すると遙か上空にオービタルリングが見えた。

 視線を下方に戻し空を覆い尽くす雲の海を見やると一部が山の如く盛り上がっていく。

 そして雲海を突き破って出てきたのはブリーフィングで見たのと同じ超巨大な機械仕掛けの亀だった。

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