第320話 最後の出撃②
フレイ達が機体の調整に向かうと入れ違いにアインとアグニがやって来た。
「今度はお前等か。どうしたんだよ、皆次々に顔を出して……最後のお別れじゃあるまいし」
「<ナグルファル>からこちらへ機体の搬入が終わったから来たのだが、お前が出発する前に一応確かめておきたい事があってな……」
アインが何やら意味深な事を言う。何か確認事項なんてこいつとの間にあっただろうか?
「覚えているだろうとは思うが、この戦いが終わったら俺と戦って貰うぞ。此度の戦は俺との再戦の前哨戦に過ぎないと言う事を忘れるな」
「……あっ」
すっかり忘れていた。そう言えばアインが聖竜部隊の一員になった時にそう言う事を言っていたような気がする。
「……おい、何だ今の「あっ」は。ハルト、お前今「あっ、忘れてた」と言おうとしたんじゃないのか?」
「……そんな事無いよ。オボエテルヨ。サイセンダヨネ」
「今の微妙な間はなんだ? それに棒読みだし。お前確実に俺との約束を忘れていただろう!!」
「悪かったよ。そうだよ、忘れてたよ。でも今言われて思い出したからそれで良いでしょうよ!」
その後もしつこく言い寄ってくるアイン。最近どうもこいつは面倒くさいかまってちゃんになっている。
話題を変えようとしても自分の納得がいくまで食い下がってくるので相手をしていると正直疲れる。
すると思わぬ伏兵アグニが横槍を入れてきた。
「ちょっと待て、アイン。ハルトと再戦するだと? 僕も奴には負け越しているんだ。その借りをいつ返そうか考えていた。僕もその話に一枚噛ませろ」
「いいだろう。だが、俺は三ヶ月も前から予約をしているんだ。俺が一番でお前が二番、ちゃんと順番を待てるのなら許可してやる」
「ふん! まあ、いいさ。お前程度ではこいつには勝てないだろうからね。そして僕が勝てば間接的にアイン、お前より僕の方が強いという証明になる」
「何だと!?」
お互い睨み合い火花を散らせるアインとアグニ。喧嘩するほど仲が良いという言葉はこの二人の為にあると思う。
「喧嘩するなら他所でやってくれる? それと俺はアミューズメントパークじゃないので勝手に予約待ちを増やさないでください」
「ふん、何だ僕と戦うのが怖いのか? この腰抜けめ」
「あっ? 誰が腰抜けだって? いいよ分かったよ、そんなに俺にボコボコにされたいのならやってやんよ。この戦いが終わったら待ってろよ。お前等二人まとめてぶっ飛ばして地面の味を覚えさせてやるよ」
苛ついて言ってしまうと、二人がニヤリと笑った。くそっ、何やかんやでこいつらの挑発に乗ってしまった。
「よし、
「そう言う事だ。もしも勝手に勝ち逃げをするようなら僕とアインが地獄の果てまでお前を追いかけて無理矢理にでも戦いを挑む。それが嫌ならちゃんと帰ってくるんだね」
「お前等……」
二人は踵を返して自分の機体の方へと戻っていった。
何だか不思議な感じだ。アインにしろアグニにしろ、以前は本気で殺し合った相手だと言うのに今はこうして仲間として一緒に居る。
戦いが生むのは憎しみや悲しみだけじゃなかった。お互いの意志をぶつけ合う事で理解を深める事が出来た気がする。
ただ、このケースは稀で戦争には犠牲が出る。――だから、次で終わらせる。俺が、俺たち聖竜部隊が戦いを終わらせるんだ。
アインとアグニが戻っていき再び静かになった。もう少ししたら出撃の時間だ。これまで一緒に戦ってきた相棒の顔を見上げていると新しい来客がやって来た。
「ふぅ~、間に合って良かったわ」
「ティア、クリス、フレイア、シェリー、それにマドック爺さん!」
「さっきアイン、アグニとすれ違いましたけど、何か用事があったんですの?」
「あー、二人共この戦いが終わったら再戦しろと言っていまして、挑発に乗ってオッケーしちゃった」
「こんな時までそんな事を言うとは本当に自分たちの欲望に忠実な連中だな」
「いやさ、フレイア。欲望に忠実て、お前はあいつらの事を何も言えんよ?」
指摘すると悶えるフレイア。やっぱり自分の性癖に忠実だ。それ以外の妻は俺が勝手に再戦を決めたのを怒っているみたいだ。
「もう、勝手に戦いの予定なんて入れて! そう言うのは私たち妻に相談してから決めて欲しいわ。こっちだって色々と予定を考えているんだから」
「その通りですわ。戦いが終わったらお母様がパーティーをすると言っていますし、戦後の復旧活動で忙しくなります。――それに、暫くは身も心も休める時間が必要ですわ」
「確かに。勝手に決めてごめん」
「本当よ。こちとらグランバッハ家特性ジュースを大量に作ったり、新しい下着を用意したり色々と準備をしてるんだから。友達と遊ぶのは私たち妻との大事な用事が終わってからにして頂戴。ちなみに終了時間は未定なのでそこんとこよろしくね」
「イエス、マムッ!!」
「ふふ、ハルト君も大変ね。これだと決戦が終わった後が本戦になっちゃうわね」
「その通りですわね。ちなみにシェリンドンは身重で無理をしてはいけないのですから、ちゃんと休んでいてくださいね」
「ええっ!? そんなぁ……」
「いいのう、ハルト……羨ましいのう。これが若さか……」
六人で楽しく喋っていると段々と出撃の時間が近づいてくる。出撃時間が近づくにつれて皆の口数が少なくなっていき、笑い声も聞こえなくなる。
そして出撃まで残り十分になった。
「あと十分で出撃か……」
時間を確認すると皆の表情が真剣なものになっていた。クリスティーナが俺の正面に立つ。
「ハルトさん、先発部隊の任務成功と無事の帰還を祈っておりますわ。わたくし達も追ってオービタルリングに参ります。――向こうで合流しましょう」
「ありがとう、クリス。そっちも大変だろうけど無理はしないで」
クリスに口づけをすると彼女は横に移動して今度はフレイアが前に出る。
「聖竜部隊の事は任せろ。私が皆を守ってみせる。だからハルト、お前は気兼ねせず大暴れしてこい」
「ああ、信用してる。頼んだぞ、フレイア」
フレイアにキスをして彼女が下がるとシェリンドンが目の前に来た。
「ハルト君、あなたを信じています。だから無理だけはしないで。皆と一緒に『アルヴィス王国』に帰りましょう」
「うん、シェリーも無茶しちゃダメだよ。必ず<ニーズヘッグ>に帰るから」
シェリンドンに口づけをして彼女のお腹に触れる。そこにある命の温かさと力強さを感じ彼女は脇に移動した。
そしてティリアリアが凜とした表情で俺の前に立った。
「ハルト、ようやくここまで来たわね。あなたと初めて会った日の事を今でもハッキリ覚えてるわ」
「俺もだよ。あのビンタは強烈だった」
「あれはあなたが変な事を言ったからでしょう。でも、不思議な人だと思ったわ。初対面のハズなのに私の事をよく知っている感じだったから。それがゲームのキャラだったからって知った時はさすがに驚いたわね」
「そう、俺の推しだったんだよ。今思い返すと、ティアにしてみれば相当気味悪い発言してたよな」
「まあね、でも面白かったからいいけどね。ところで、だった……って過去形なのはもう前ほど好きじゃないって事? だとしたらショックなんだけど」
ティリアリアは頬をぷくっと膨らませて少し怒っている。このクセは初めて会った時から変わっていないなぁ。
あれからまだ一年経っていないのに随分と昔に感じる。それだけ色んな事があったからだろう。
そう、色々あった。その中で彼女の存在が俺の中でどんどん大きくなっていった。だから、今は推しとかそう言う次元ではなくなっていた。
「好き……とはちょっと違うかな。愛してるからね」
「うん……私も愛してる」
ティリアリアとキスをすると彼女の目から涙がこぼれ落ちる。唇が離れると自分が泣いている事に気が付き慌てていた。
「あ、ごめ……なさい。こんなハズじゃ……ちゃんと笑顔で送りだそ……って皆で約束したのに……ごめんさない。ごめ……ひっく、うあ……!」
ティリアリアが泣き始めるとクリスティーナ、フレイア、シェリンドンも涙を流し始める。そんな彼女たちを俺は手を広げて抱きしめた。
「必ず帰ってくる! 必ず帰ってくるから皆も……皆も死なないでくれ!! そして一緒に故郷に……『アルヴィス王国』に帰ろう」
「「「「……はい!」」」」
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