第319話 最後の出撃①
◇
『第七ドグマ』が『シャングリラ』に到着して半日が経過していた。その間にこの人工島の調査は進みマスドライバーが使用可能である事が確認された。
現在<ニーズヘッグ>と<ホルス>はマスドライバー基地に移動が完了し発進準備が進められている。
現状の把握を兼ねた作戦前の最終ブリーフィングが行われ竜機兵チームは<ニーズヘッグ>のブリッジに集まり、<ホルス>及び<ナグルファル>とはモニターでやり取りをしていた。
『……つまりマスドライバーの動作には何の支障も無いと言うことか。何十万年も前の施設だと言うのに驚きだね』
カーメル三世はマスドライバーの施設がすぐに使える状態で放置してあった事に驚いていた。彼だけでなく全員が同じ意見だ。
特に海上にせり出しているレール部分の支柱はずっと海に浸かっているのに腐食したりはしていないらしい。これには全員ビックリだ。
「マスドライバーのレール及び支柱はナノマシン技術を応用した金属で構成されている事が判明しました。金属表面は壊死したナノマシンが固まりコーティング剤の役割を果たし、それが海水による腐食などから守っていたみたいです。しかも壊死したナノマシンはかさぶたの如く定期的に剥がれ落ち、その内側の層が再び壊死しコーティング剤になるという流れを繰り返していたのでしょう。さらにナノマシンによる自己修復機能によって壊死した分の金属は修復され支柱及びレールは良好な状態で維持されていたと考えられます」
シェリンドンがマスドライバーの設計図を見せながら説明をしてくれる。
当時はナノマシン技術が多用されていたらしく、『シャングリラ』の建造物のほとんどはナノマシンを使用した金属で構成されていた。
その為、建造から数十万年経過しているのに当時の状態を保っていられたらしい。本当にとんでもない技術だ。
ティリアリアが挙手してシェリンドンに質問する。
「これまでの説明だと『シャングリラ』の各施設の動力はエーテルエネルギーによるものではないと言う事でしたけど、確かデンリョク……でしたっけ? それってどういうエネルギーなんですか?」
「良い質問ですね。電力は旧文明が使用していた主力エネルギーで現在の私たちの生活におけるエーテルエネルギーみたいなものです。イメージとしては電撃系のエネルギーと言ったら分かり易いかしら。具体的な説明は省きますが、『シャングリラ』は島の周辺に設置された大型ソーラーパネルで吸収した太陽光を電力に変換、さらに軌道エレベータからも電力の供給がされていて、それで『シャングリラ』全体の電力が賄われていたみたいね。ずっとフル稼働していなかったから人工島内のエネルギーは満タン状態。なのでマスドライバーも問題なく使用可能です」
「そう言えば、軌道エレベータはちゃんと動いているのですか? 見た目は大きな木になっているみたいですが……」
今度はクリスティーナが質問する。彼女が指摘した通り軌道エレベータの見た目は現在大樹の状態になっており、まともに動くかどうか怪しい雰囲気だった。
「恐らく数十万年の間に増殖した植物によって外壁が包み込まれてしまったのでしょうね。ですが軌道エレベータの調査をしたところ内部の電力供給状態も問題は無く、その他エレベーター機能もちゃんと維持されている事が判明しています。先発部隊が使用予定の大型エレベーターも正常に動いています。――これで当初の予定通りに作戦を実行に移せます」
懸念されていた敵の襲撃も無くここまでは順調に事が進んだ。調査によって軌道エレベータもマスドライバーも使用可能で作戦準備も間もなく終わる。
皆の注目が俺に集まっている。先発部隊代表である俺に作戦開始命令の権利が与えられていた。
「<ニーズヘッグ>と<ホルス>のマスドライバーへの設置も終わっているし、装機兵各機の出撃準備も終わっている。システムTG達の動きも気になるから早めに動きたいな。……よし決めた、一時間後に先発部隊は出撃する。ヤマダさんとヒシマさんもそれでいいですか?」
『それで問題ないぜ』
『俺たちはいつでも行けるぞ』
いつもの陽気な感じで二人が答える。これで決まりだな。
「それでは先発部隊は一時間後に出撃、軌道エレベータで上空雲海に赴き<クラウドメーカー>を破壊、その後は再び軌道エレベータでオービタルリングに直行し<ヴィシュヌ>を倒し中枢システムを停止させます」
最終ブリーフィングが終わると皆一斉に持ち場に戻り作戦準備に取りかかった。俺は格納庫に直行し、出撃に備えて諸々の準備を進めていく。
コックピットで最終調整をしようとするとシミュレーターモードになっていたので通常モードに切り替える。
その際モニターには俺の最終戦績『百戦 五十勝 四十七敗 三引き分け 現在三十連勝中』という表示が出ていた。
「色々な戦法を試してみたけど、やっぱり正面切ってのガチンコ勝負が一番良かったな。相手がセシルさんだから
調整と言ってもすぐに終わる内容だったのであっという間にやることが無くなり手持ち無沙汰になってしまう。これならもう少し早めの出撃でも良かったかも知れない。
コックピットシートに体重を預けて暇そうにしているとコンコンとノックをする音が聞こえた。
「出撃前だから緊張しているかと思えば随分暇してるな」
フレイが笑みを浮かべながら外に立っていた。コックピットから出るとフレイの他にもシオンとパメラがいる。
「いやー、実際暇だったからどうしようかと思ってたんだ。何か話でもする?」
「全く……世界の命運を決める戦いを前に暇を持て余すとは、本当に捉え所のない奴だ」
「ハルトが緊張してるだろうから皆でリラックスさせに行こうって事で来たんだけど、そんな必要全然なかったね」
呆れるシオンと笑うパメラ。こいつらも若いなりにここまで戦ってきた歴戦の勇士だ。――さて、ちょっと気になる案件があった事に気が付いた。
「ところでシオンとパメラってさ……付き合ってんの?」
「なっ……! 唐突に何を言い出すんだお前は! バカなのか!?」
「いやさ、うちのチームじゃお前たちはいつも二人で行動してきただろ。戦闘の時だって息ピッタリだし。これから最後の戦いかと思ったら急に気になっちゃってさ。――で、実際どうなん?」
「そう言えば俺も気になってた。丁度良い機会だし教えてくれよ」
俺の提案にフレイも乗っかり二人でシオンに圧をかけると、眉根を寄せて俺たちを睨んできた。
「不謹慎な連中め! 僕とパメラは付き合ってなどいない。信頼し合う戦友だ!」
「ふーん、そうなんだ。――パメラはシオンをどう思ってるんだ?」
「……ん? んー、私もシオンの事は大切なチームの仲間だと思ってるかなぁ。ほら、私枯れ専だしお子様は守備範囲外だからね。――でも、シオンの事はそういうの度外視にして好きだよ。何だかんだで私が辛い時に優しかったり一緒にいてくれたりしたからね」
「だってさ。良かったな、シオン。パメラお前のこと好きだって」
「あ……な……ええ……?」
パメラが好意を持っていると知るとシオンは情けない声を出して顔を真っ赤にした。
本当はこいつがパメラに気があるのは知っていたしパメラも満更ではないと思っていたので本人たちの前で確認してみたのだが、俺がやれるのはここまでだ。後は本人たちの意思に任せよう。
「フレイは誰か気になる人はいるのか?」
「生憎それどころじゃなかったんでね。今は<ドラパンツァー>が俺の恋人ってところかな。でも少し――」
「そうか、<ドラパンツァー>格好いいもんな。良かったな」
「少しは俺の恋愛事情に興味持てよ!!」
フレイだけ仲間はずれにするのも何だし一応訊いて話を終わらせると激怒していた。まあ、こいつは訓練生の頃からモテていたのでどうにかなるだろ。
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