第314話 束の間の再会そして出発②

「なっ……どうしてシャイーナ様がここに!?」


「あら、これから世界の命運を賭けた戦いに臨む勇者たちを労うのは王妃として当然の務めでしょう? だから――来ちゃった!」


 可愛らしくウインクする王妃を前にして頭を抱えるシェリンドン。ブリッジクルー達は突然の王妃の訪問に恐れおののく。


「せんぱ……シャイーナ様、「来ちゃった」って……国の方は大丈夫なのですか? 今は会議などでお忙しいハズでは?」


「そりゃ当然忙しいわよ? 国内の復興に関する会議は勿論のこと『ドルゼーバ帝国』への支援に関する会議とか戦後の情勢に関する各国首脳会談の準備とか……」


「でしたら……!」


「それに関しては息子のクレインに任せてきたわ。戦後はあの子が中心となって国を治めていくのだし私は相談役に徹するつもりよ。それにこの最後の戦いに勝たなければ私たちに未来は無い。――そうでしょう、シェリー」


 正論を述べられこれ以上は何も言えなくなるシェリンドン。その様子を見てシャイーナはふふっと笑う。


「そう言う訳でちょっと二人でお話をしましょう。それじゃ皆、少しシェリーを借りていくわねぇー!」


 シャイーナはシェリンドンの手を取ってブリッジから出て行き、その場は嵐が過ぎ去った後の様に静まりかえる。残ったクルー達は呆然と立ち尽くしていた。

 ブリッジが静まる中、マドックは咳払いするとクルー達はハッと我に返る。


「さて、シャイーナ王妃はシェリーと積もる話があるようだし、わしらジジイ三人は格納庫にでも行こうかの」


「そうだな、確かにここに居ても邪魔になるだけだ。おいとましよう」


「それでは失礼したな諸君。引き続き任務に勤しんでくれ」


 マドック、ロイ、ガガンの三人もブリッジから出て行き、残されたクルー達はそそくさと<ニーズヘッグ>のシステム調整に戻るのであった。




 シェリンドンとシャイーナは<ニーズヘッグ>の展望室に移動すると席に座り外の様子を眺めながら話をしていた。

 補給物資が次々と飛空艇ドックに降ろされていき、ドグマの作業員たちや騎士団の者たちが大勢行き交っている。


「補給ありがとうございます、シャイーナ様」


「……もう! 違うでしょ、シェリー」


 シャイーナがむくれ顔で言うとシェリンドンはクスッと笑う。


「はい、分かりました先輩」


「うむ、よろしい!」


 学生時代は先輩後輩の関係にあった二人は今ではお互いに責任ある立場に就いている。

 二人だけになり周囲の目を気にする必要の無い中、昔の感覚に戻り会話を楽しんでいた。

 

「それにしても、ここ数日の聖竜部隊の動きには驚かされっぱなしよ。いきなり『ドルゼーバ帝国』に殴り込みに行くと連絡してきたと思ったら、ドルゼーバは国民のほとんどが変な機械に入れられて衰弱しているから支援部隊を送って欲しいって連絡してきて新人類同士の戦争は事実上終結。今度は『失われた大地』に向かってそこから宇宙に行くので補給よろしくって言ってくるし……ノルドに結婚してくれって言われた時よりも驚いたわ」


「済みません先輩、色々と無理を言ってしまって……」


「何を言ってるのよ。現状クロスオーバーと互角に戦えるのはあなた達だけ……今回も私たちは聖竜部隊に全てを委ねて後方支援に徹している。こんな事でしか協力できない自分が情けないわ」


「そんな事ないですよ。後方からの支援が無ければ我々は動けません。実際、こうして補給を受けたお陰で決戦に臨めるんですから」


 会話が一旦途切れ静かになり、暫くしてからシャイーナが再びシェリンドンに語りかける。


「……この補給が終わり出発した後、二日後には空の向こう側に行くのよね」


「はい。作戦の過程で空を覆っている雲海を消滅させ、その後に<ニーズヘッグ>と<ホルス>はオービタルリングを目指して飛び立ちます」


「帰って……来るわよね?」


 シャイーナの声が震えている事に気が付きシェリンドンが振り向くと彼女はさめざめと泣いていた。


「先輩……?」


「ごめ……なさい。こんな……泣くなんて……そんなつもりじゃ……なかったの。でも、でも……怖くて……空の彼方……なんて場所に行ったら……シェリーもクリスもティリアリアも……皆……帰ってこないんじゃないかって……そう思ったら……不安で……怖くて……!」


「大丈夫です。……大丈夫……大丈夫……」


 泣き崩れそうになるシャイーナをシェリンドンが抱きしめ子供をあやすように髪を撫でる。その胸の中でシャイーナは泣き続け、暫くすると徐々に落ち着きを取り戻した。


「……ごめんなさい。大事な作戦前なのに私ったら自分の事ばかりで……情けないわ」


「そんな事無いですよ。王妃としての責務……大変なハズです。先輩の性格を考えたら弱音を吐ける相手なんてあまり居ないでしょうし、こうして本音を言って貰えるのは私としては安心します」


「……はぁ、ハルト君が羨ましいわぁ。こんなにいい女の愛情独り占めなんて妬ましすぎる。それに小耳に挟んだんだけど……デキたんでしょ?」


「……はい、今三ヶ月です」


「そっかぁ。……待てよ、ハルト君との子って事はクリスの夫の子って事で間接的に私の孫になるって事じゃない?」


「はい? 先輩、いきなり何を言って……」


「そうよ……そうよ! これはめでたいわ。まさかシェリーが私の孫を産んでくれるなんて……あ、何かそう考えたら元気出てきた!」


「ちょっと待って下さい、先輩! もう、何処に行くんですかーーーー!?」


「元気出たからクリスとティリアリアの所に行ってくるわ! シェリー、帰ってきたら大宴会するから覚えておいてね! じゃっ!!」


 こうして昔と変わらずシャイーナ先輩に振り回される後輩シェリンドンであった。

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