第308話 オービタルリング突入作戦

 マスドライバーまであるのか! 宇宙戦争を描くSFロボットものでは外せない要素じゃないか。

 ふとヤマダさん、ヒシマさん、マドック爺さんと目が合うと三人とも俺と同じようにそわそわしていた。SF好きなら反応せずにはいられないだろう。

 でもマスドライバーの説明が俺たちに回ってくる事はなかった。説明大好きシェリンドン先生が嬉々として全部語る。


 ディスプレイには『シャングリラ』のマップが表示され一部が拡大される。画面にはジェットコースターの開始部分を連想させる長大なレールが映っている。レールは空に向かって伸び途中で切れているという不思議な形をしていた。

 マスドライバーに関して知識のある人間からすれば「これだ、これ!」と思うところだろうが、そうでない人から見れば「これはなんぞや?」となるに違いない。


「説明しましょう。マスドライバーとはレール上に載せた物体を加速射出し大気圏外に送り出す巨大な装置です。飛空艇から装機兵を発進させるカタパルトを巨大化させたものと言えば分かり易いかしら。かつて旧人類はこのマスドライバーを使用して宇宙に多くの物資や宇宙船を送り出していたらしいわ」


 マスドライバーを知らないメンバーも今の説明で概ね理解出来たらしく誰もが頷いていた。そして宇宙船を射出していたと言う話から今回こいつをどう使うのか予想がつく。


「ここまでが今回の作戦に関係する主な施設の紹介です。――そしてここからが重要な作戦内容の話になります」


 そう、ここからが本題だ。室内の空気が一層真剣なものに変わる。


「まず我々は二週間以内に『シャングリラ』に赴く必要があります。これはシステムTGが指定した満月の日が二週間後になるからです。『シャングリラ』を覆う雲海に関しては『第七ドグマ』に搭載されている対雲海用障壁で突破を試みます。同型要塞である他の<フリングホルニ>よりも強力な障壁発生装置に交換しているので問題なく通過出来ると考えられます。『シャングリラ』に到着後、まずはマスドライバーのシステムを掌握し<ニーズヘッグ>と<ホルス>をレール上に設置、射出準備に入ります。今回<ナグルファル>を含むドラゴンキラー部隊は軌道エレベータとマスドライバーの防衛任務に就いてもらいます。クロスオーバーは我々のオービタルリングへの進出を妨害するハズです。ドラゴンキラー部隊にはその対処をしてもらいます」


「了解した。ドラゴンキラー部隊の全戦力を持って<ニーズヘッグ>と<ホルス>の発進を死守してみせる」


 ゼクス隊長が了承しシェリンドンが頷くと作戦説明が次に移る。


「ただ、本作戦ではこのまま飛空艇をマスドライバーから射出する訳ではありません。仮に現状のまま発進したとしても空を覆う雲海通過時に減速し大気圏を離脱するスピードが得られなくなるからです」


 その通りだ。空に雲海がある以上マスドライバーを用いてもスピードが殺される。

 以前、王都『アルヴィス』奪還作戦の際に、厚さ十キロメートルある空の雲海を突破した時には<ニーズヘッグ>は減速して雲海上層ギリギリの高度を維持するのがやっとだった。


「雲海は<クラウドメーカー>と呼ばれる全高千メートルの巨大な機動兵器が作り出しています。<クラウドメーカー>は軌道エレベータ付近の雲海内に待機しており『シャングリラ』周囲にも雲海のカーテンを敷いて軌道エレベータの存在を隠蔽していました」


 ディスプレイに四肢がヒレの形状をしている亀みたいな兵器が映し出される。千メートルという巨大な規模からもロボットと言うよりは要塞といった風貌をしている。


「こんなデカブツが雲海を作っていたのか……」


「その為作戦の第一段階として装機兵による先発部隊を軌道エレベータで雲海高度まで派遣、<クラウドメーカー>を破壊し雲海を消滅させます。雲海は発生源が居なくなれば構成物質であるナノマシンが連鎖的な死滅反応を起こし極めて短時間で消え去ります。そして作戦第二段階……先発部隊は軌道エレベータにてオービタルリングに直行、後発部隊の<ニーズヘッグ>と<ホルス>はマスドライバーを用いて加速発進し大気圏を離脱、オービタルリングに向かいます。そして作戦最終フェイズの第三段階……先発部隊はオービタルリング中枢部に向かい動力の停止コードを入力しオービタルリングを停止させます。恐らく<ヴィシュヌ>とはここでぶつかるハズ……戦闘の可能性が極めて高いと考えられます。後発部隊はオービタルリング突入後、熾天セラフィム機兵シリーズの製造を行っている工廠エリアを強襲します。こちらではクロスオーバーの全戦力を相手取ることになるでしょう。その為、先発部隊は少数精鋭のチーム、後発部隊は聖竜部隊のほぼ全戦力を投入する形になります」


 ここまでの説明が終わるとカーメル三世が挙手し質問を投げかけた。


「そうなると先発部隊のメンバー選びは特に重要になると思うが、その辺り目星は既についているとみていいのかな、シェリンドン女史?」


 シェリンドンは躊躇いがちな表情になり口ごもる。するとヤマダさんとヒシマさんが代わりに対応した。


「先発部隊のメンバーは、ヤマダ、ヒシマ、そしてハルトの三人です。それ以外のメンバーは後発部隊としてクロスオーバーと戦闘して貰うことになります」


「……そのメンバーの選抜理由を教えて貰ってもいいかな?」


「先発部隊メンバーの三人は転生者であり、軌道エレベータやオービタルリングと言った建造物に対して予備知識があり不測の事態が発生した時にも比較的対処が可能であること。<クラウドメーカー>との戦闘では空中での戦闘になるので飛行可能な機体であること。そして何より先発部隊は<ヴィシュヌ>との交戦可能性が高く、少数で立ち向かうにはこちらの最大戦力である<サイフィードゼファー>を主軸にしつつ幅広い対応が可能な機体を随伴させるのが望ましいということ。これらの条件を踏まえ戦闘の勝率と生存率を考えた結果、この編成がベストになった訳です。これで納得出来ましたか、カーメル王?」


「そうか……確かにベストな編成だ。だが、それだと先発部隊……特にハルトの負担がかなり大きい。もう少し先発部隊に戦力を割いてもいいと思うのだが……」


 カーメル三世が俺に視線を向け意思確認をしてくる。ヤマダさんの説明を聞く限り、俺もこれがベストの配置だと思う。


「俺は現状の編成が一番良いと思います。転生者の中でもヤマダさんとヒシマさんは知識が豊富であらゆる状況にも柔軟に対応してくれます。もちろん戦力としてもの凄く心強いので二人がいてくれると助かります。<ヴィシュヌ>に関しては……あいつには俺が単独で挑むので、その間二人にシステム中枢を抑えて貰えればいけると思います」


「一人で<ヴィシュヌ>と戦うと言うのか、ハルト!?」


「<ヴィシュヌ>は収集した戦闘データから相手の次の動きを予測し先手を打ってくる。実際、先の戦闘では<インドゥーラ>の攻撃を躱し続け一方的に攻撃を当てていた。あの動きに対抗出来るのは俺の『灰身けしん滅智めっち』しかない」


「確か各能力と集中力や反応速度を向上させるスキルだったね」


「……ああ。<ヴィシュヌ>が未来を予測する動きをする以上、こっちが人数を増やしても動きを読まれて各個撃破される。でも灰身滅智を発動した俺なら奴の動きに追いつける。――システムTGが希望している様に俺も奴とは一対一で戦いたいんだ」


「君とシステムTGとの戦いには誰も介入は不可能という訳か。――分かった。ならば先発部隊は君たちに任せる。後発部隊の事は気にせずベストを尽くしてくれ」


「ありがとう、カーメルや皆も気をつけてくれ。俺たちが中枢システムをダウンさせれば<インドゥーラ>へのエネルギー供給を止められる。そうすれば奴はアムリタを使えなくなる。それまで無理をせず何とか耐えてくれ」


 こうしてオービタルリング突入作戦のブリーフィングが終了し解散となった。

 この作戦の成功は先発部隊が如何いかに迅速に動けるかにかかっている。

 <クラウドメーカー>の破壊と雲海の消滅、<ヴィシュヌ>との戦闘、中枢システムの掌握と停止――これらをやり遂げなければ後発部隊が全滅する。

 作戦説明では敢えて名前が挙がらなかったが、システムTGと行動を共にしているミカエルとラファエルがどう動くのかは予測がつかない。

 最悪、聖竜部隊はクロスオーバーとシステムTG一味全てを相手にする状況になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る