第302話 終局への撤退
クロスオーバーは確かに倒すべき敵かも知れない。でも、そもそも彼らがいなければ『テラガイア』は無かったし、新人類である皆も存在しなかった。
俺も転生者としてこの世界に来ることも無く、皆と出逢うこともロボットに乗ることも無かった。
それが叶ったのはクロスオーバーがこの『テラガイア』を創造してくれたからに他ならない。
『…………』
あれ……ノーリアクション? 今はエーテル通信が音声のみの状態になっているからガブリエルがどんな表情をしているのか分からない。
俺が場違いな感じでお礼なんて言ったから呆れているのか。
気のせいか他のクロスオーバーの連中も動きが止まっている。もしかして結構変な事を言ってしまったのだろうか?
でもなあ、惑星再生してこの世界を創ってくれた人達である訳だしお礼は言っておくべきだよなぁ。
『……ありがとう……だと……?』
ガブリエルが呟く。何だか戸惑っている様な……どういう感情なのか今一分からない。
「そうだよ、何だよ文句でもあるのか?」
『いいや……いや……何でも無い。だが、感謝などした所で我々が計画を中止する事はありえない。新人類を統治下に置きその力を束ね、旧人類が帰還した際の戦力にする。お前たちを倒した後で失った戦力を補充する必要はあるが、そんな事は些細な問題だ』
「あくまで決着を付ける気か。……いいだろう、やってやるよ!!」
クロスオーバーは最後までやるつもりだ。こうなったらとことん付き合ってやる。
『――お互い退くつもりはないみたいだね。それなら最後の戦いに相応しい場所で決着を付けるのがいいんじゃないかな?』
俺とガブリエルの会話に乱入してきたのはシリウスだった。そう言えばこいつもいた。ガブリエルを倒すのに強力はしてくれたが、こいつの真の狙いは不明のままだ。
「どういう意味だ、シリウス。決着を付けるのなら今だろ」
<ヴィシュヌ>は空に向けて腕を伸ばすとそのまま指さした。
『――オービタルリング。惑星再生が始まった場所でありクロスオーバーの本拠地でもある。『テラガイア』の管理システムの中枢となっている場所だ。こんな雪に覆われ寂れた場所よりもそっちの方が世界滅亡を賭けた決戦場に相応しいと思わないかい?』
「今……何て言った? 世界滅亡? 誰もそんな事を話してないぞ」
シリウスがクスクス笑う。こいつがこんな邪悪な笑い方をするのは見た事がない。前世でもこんな風に他人を馬鹿にする奴じゃなかった。
『そうだね、大切な事を伝えるのを忘れていたよ。僕――システムTGは惑星再生の要として開発され、『テラガイア』における人類の動向を観察してきた。その結果一つの結論に至った。人類は不要だとね』
「……は?」
『旧人類は言うまでも無く、新人類も戦争を繰り返す闘争心に支配された生物だと言う事がよく分かった。クロスオーバーにしろ新人類にしろ、僕にとっては全て抹殺すべき対象だ』
『相変わらず傲慢だな、システムTG。人類全てを抹殺して何が残るというのだ?』
『ガブリエル……傲慢なのは君だよ。どうしてクロスオーバーが管理すれば世界が安定すると考えられるんだい? 現状を見てみなよ。君たちが発端となって『テラガイア』はこれほどに混迷を極めたんだ。仮に君たちが新人類を統治した所で世界は戦争にまみれ最終的には惑星そのものを滅ぼすよ。――それに少し勘違いをしているみたいだけど、僕が抹殺しようとしているのは人類だけじゃない。この世界そのものさ』
シリウスの発言を聞いてこの場にいる誰もが息を呑む。
こいつは今世界を滅ぼすと言った。漫画やアニメなどでは何度も聞いたことがあるお約束の台詞だが、実際に目の前で言われると正気を疑ってしまう。
しかし、こいつの言動にはためらいがない。本気だ。
『この惑星再生計画は失敗だった。だから全てを破壊し終わらせる』
「それ本気で言ってるのか!? ふざけるな!」
『ふざけちゃいないさ。真剣だからこそ、決着を付けるべき場所としてオービタルリングを指定したんだよ』
『お前の酔狂に我々が付き合う必要があるのか?』
『付き合って貰えないのであればここで全員始末するだけさ。クロスオーバーも聖竜部隊も全員疲弊している今なら<ヴィシュヌ>一機で簡単に始末出来る。その上こちらには万全な状態の<シヴァ>と<ブラフマー>が控えている。今の君たちが僕たちに勝つ可能性は0%だ。だからチャンスをあげる事にしたんだよ。一度仕切り直してオービタルリングで決着を付ける。その戦いに勝利した陣営が『テラガイア』の覇権を握る。君たちが生き残るにはこの提案に乗るしかない』
この戦いでクロスオーバーと聖竜部隊は機体も操者も限界寸前の状態だ。シリウスの言う通り、<ヴィシュヌ>なら俺達全員を簡単に倒すことが可能だろう。
最初から俺たちに選択肢なんてない。今はシリウスの提案に乗る他に俺たちが生き延びる術はない。
この場にいる全員が同じ事を考えているのだろう。誰も反論する事は無く沈黙で答えるしか出来ない。
『異論が無いと言う事は肯定として受け取らせて貰う。それじゃあガブリエル、近々オービタルリングに帰るから、その時はよろしく頼むよ』
『……いいだろう、この場で我々に止めを刺さなかった事を後悔させてやる。全機オービタルリングに帰還するぞ』
ガブリエルの命令に従いクロスオーバーの機体が次々に浮上し撤退を始める。動けない機体は大型機の<ナーガラーゼ>が乗せて運んでいく。
『ハルト・シュガーバイン』
ガブリエルがエーテル通信越しに俺に声をかけてきた。少し逡巡した後にぽつりと口を開く。
『お前が初めてだ。『テラガイア』の創造に対して感謝されたのは……』
「……え?」
『我々は二度とお前たちを侮ったりはしない。オービタルリングのセキュリティレベルを最大にして迎え撃つ。それらを見事突破しオービタルリングに到着した暁には我々が全身全霊を持ってお相手しよう。……楽しみにしている』
そう言い残してクロスオーバー全機は空の彼方へと消えていった。
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