第301話 魔法の言葉

「……いてて、各駆動系に異常……耐久値が二十パーセントまで低下か。何とかギリギリ持ってくれたか。ありがとう、<サイフィード>」


 今回も俺の無茶に付き合ってくれた相棒に労いの言葉をかける。

 機体を立ち上がらせようとしても意識が定まらず上手く動かせない。俺自身のマナも機体のエーテルエネルギーもスッカラカンだ。

 もしも、激突があと数秒続いていたらやられていたのは俺の方だったかもしれない。


『ハルトーーーー!!』


『ハルトさーーーーん!!』


 俺を呼ぶ声がしてモニターを確認するとティリアリアとクリスティーナが画面いっぱいに表示された。

 びっくりしてシートからずれ落ちる。


「うわっ、びっくりした!」


『元気そうで良かったわ。ちょっと待ってて、今回復するからね』


『先程のぶつかり合いは見ていて生きた心地がしませんでしたわ。いつも無茶ばっかりするんですから!』


 <パーフェクトオーベロン>と<アクアヴェイル>の二機による修復とエーテルエネルギーの回復が開始され、機体の状態が元に戻っていく。

 装甲の亀裂は徐々に修復され身体の痛みも和らいでいく。同時に二人のスキルで俺のマナが回復されていき、身体を蝕んでいた倦怠感が消えていった。


「二人ともありがとう、助かったよ。お陰で楽になった。でも戦線を離脱して大丈夫だったのか?」


『ええ、問題ないわ。向こうの方が先に動いたからね』


 ティリアリアの視線の先を見てみると<インドゥーラ>の側にクロスオーバーの熾天セラフィム機兵シリーズたちが集まっていた。

 もう戦えないガブリエルを守る為に集結したんだろう。

 一箇所に集中したクロスオーバー機を囲むように聖竜部隊の機体が展開している。敵も味方も全機ボロボロの状態だ。


『勝ちましたわね。よくあんな化け物相手に……凄いですわ』


「俺の力だけじゃない。アインとアグニ、それにアムリタを止めるのに力を貸してくれたあの三機、<ヴィシュヌ>、<シヴァ>、<ブラフマー>――皆が助けてくれなければ俺が負けていた。そう言えばジンはどうなった?」


 俺の代わりにマルティエルと対峙したジンの様子が気になり戦場になっていた空に注目すると二機がもの凄いスピードで地上に降りてきた。

 地面に滑るようにして降下した<スサノオ>と<ラクシャサ>は、二機とも斬撃の痕が機体の各所に見られ激しい戦いを繰り広げていたのが分かる。

 だが、その戦いも終わりを迎えようとしている。互いの大剣に高密度のエーテルエネルギーが集中している。――二人とも次の一撃で決着を付けるつもりだ。


『中々に楽しい時間だったぞ、ジン・スパイク。これほど心躍ったのは久しぶりだ。残念ではあるがこれで終わらせる! 我が奥義チャンドラハースでな!!』


『俺も実に楽しかった。卑劣な男かと思ったが、お前の剣は忠義に溢れる心地よいものだった。俺も最大の一撃で応じよう!!』


 二機が同時に突撃を開始した。<ラクシャサ>がラヴァナの太刀で三日月の軌跡を描く斬撃を放つ。

 一方、<スサノオ>はフェイスマスクが開放されると人間様のフェイス部分が露出、雄叫びを上げながら斬竜刀ムラクモで全力の袈裟懸けを放った。


『ガブリエル様の理想実現の為に我は……! チャンドラハースッッッ!!』


『主君への忠義見事! だが、それは俺も同じ。ノ太刀――滅竜散華ッッッ!!』

 全身全霊を込めた二機の斬撃は衝突し凄まじい衝撃波が大気を揺らし大地に積もっていた雪を吹き飛ばした。

 雪が舞い散る中、大地に伏したのは<ラクシャサ>だった。<スサノオ>の一撃を食らって左肩から先が吹き飛んでいる。

 <スサノオ>も無事ではなく左腕が破壊され、その場で膝を突く。ほとんど相打ちと言える勝利だ。


『ぐ……うう……見事だ、ジン・スパイク』


『紙一重の勝利だ。最初からお前に侮りが無ければどうなっていたかは分からん。だが、これだけは言える。――マルティエル……お前は忠義の武士もののふだ!』


 機体はかなりダメージがあるけれど操者は無事みたいだ。これでこの場の全ての戦いが終わった。

 <カイゼルサイフィードゼファー>を立ち上がらせると<インドゥーラ>の方に向かって歩みを進め、敵の警戒範囲ギリギリの辺りで立ち止まる。


「聞こえているな、ガブリエル」


『ああ、聞こえている。あそこまで追い詰めておきながら土壇場で挽回されるとはな……大した底力だ。このような結果になったからには認めざるを得ないな。お前たち新人類は強い。ウリエルが加担したとは言え、竜機兵を始めとした高性能機の開発、ウリエルの遺した機体の修復……お前たちは自分たちの力でそれだけの事を成し遂げた。その上、乗り手側の実力も確かだった……最終的にはその想いが全てを覆した。驚嘆するよ』


 ガブリエルの口調は戦闘中と違って穏やかだった。憑き物が落ちたみたいに別人に見える。


『ハルト・シュガーバイン、お前は新人類を信じて見守れと言った。だがな、失敗を繰り返し戦争を繰り返し、その果てにこの惑星を滅ばしたのが旧人類だ。そして我々に惑星再生を任せた後、生き残った連中は新天地を目指し旅立っていった。この惑星が再生された後に再び戻ってくると言い残してな……』


「何だって!?」


『オービタルリングにはこの惑星の情報を連中に送信するシステムが存在する。ここが再び居住可能な環境に戻れば奴等は我が物顔で戻ってくるだろう。我々の苦労など知る由も無く、な。だからこそ私は終焉現象が発生するようにプログラムし実行に移した。その結果、システムTGは予想通りにタイムループ機能を使用した。この流れを繰り返し『テラガイア』内の情報が更新されなければ旧人類が戻ってくるまでの時間稼ぎが可能になる。その間に私はウリエルが設計した熾天機兵の量産型と試作機を基にした機体を開発製造したのだよ』


「それが今あんた達が乗っている機体か。『テラガイア』内は時間が戻っても大気圏外にあるオービタルリングはタイムループの効果範囲から外れてる。だから量産型をあんなに沢山造れたのか」


『思ったより察しが良いな。そして我々クロスオーバーは世界の監視と並行して戦力を整えていった。旧人類が戻ってきた時に対抗出来るようにな。その前に『テラガイア』内を統一しておく必要があったのだが、ある時アクシデントが発生した。システムTGによる転生者の召喚だ。それによりオービタルリングに蓄えていたエネルギーの大半が失われ、タイムループが使用不可能になった。その為我々はスケジュールを大幅に繰り上げ世界の統一に動き出さなければならなかった』


「それが今回の戦争……あんた達にとっては旧人類を迎え撃つ前哨戦に過ぎなかったと言う訳か。俺たちはそんな事を知ることも無く必死で殺し合いをしていたのか……」


 いきなり話のスケールが大きくなった。ガブリエル達は宇宙に旅立った旧人類と宇宙戦争をする気だった。

 ファンタジー世界での話かと思ったら宇宙戦争物かぁ。ゲームの話だったら面白そうだけど、実際やるとなったら話は別だ。どういう展開になるのか先が読めない。

 

『終焉プログラムが働いている以上、放っておいても新人類同士は戦争で自滅する。それでもドルゼーバに技術提供を行い潰し合いを促したハズだった。だが、それらは上手くいかなかった。お前たち転生者のお陰でな。しかも、これまで何百回と繰り返してきた終焉プログラムすらはねのけ、今はこうして私が敗北するまでに至った』


 そう、ドルゼーバにこいつらが技術提供をした影響でゲームでは中盤以降に戦場に出てくる<フレスベルグ>や<エイブラム>が戦争序盤から出てきたんだった。

 あの展開には驚いたし苦戦もした。この世界はゲームとは別物だと早々に思い知らされたっけ……。

 

 過去の戦いを思い出すと同時に前世の記憶に目覚めた頃を思い出す。ファンタジー世界の風景に魅了されたし初めてロボットを操縦した興奮を良く覚えている。

 戦いに翻弄されて大変だったけど皆とそれに<サイフィード>と駆け抜けた日々は毎日が充実していた。

 その世界が……『テラガイア』があるのは……。


「ガブリエル、俺はあんた達がやってきた事を許せないし、まだ戦うというのなら徹底的にぶっ潰す。その覚悟はある。――でも、その前に言っておきたい事がある」


『ふん、恨み言か? 良いだろう聞いてやる』


 改めて言うとなるとちょっと緊張してきた。勢いに任せた感があるけど状況的におかしい内容になるかも知れない。でも今言わないと二度と言う機会はないだろう。

 だから今ちゃんと口に出して伝えないと――。


「本来ならあんた達に初めて会った時に言うべきだった。――この世界を創ってくれて……ありがとう!」

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