第300話 ガブリエルの執念
『何故お前は……いや、お前たちはそこまで戦える? この世界を我らの支配から守る事がそんなに大事なのか?』
「そんなの当たり前だろ!!」
『お前たち転生者は前世の記憶に目覚めてからせいぜい数年程度のハズだ。そんな短い期間でそれほどにこの世界へ思い入れが出来たのか? 自分の身を犠牲にしてでも守りたいと……そこまでの覚悟が芽生えたとでも言うのか? 信じがたい話だ』
「何が言いたいんだ、あんたは!」
『私たちはこの惑星が滅亡の危機に瀕した頃を知っている。そして、永い年月を経てようやく今日のような自然豊かでエネルギーに満ちた世界へと進化再生させたのだ。――分かるか? 死に向かっていく惑星を見守りながら、再生の手段を模索する日々がどれだけ辛く恐ろしかったか。ナノマシンを投与し年を取らず食事も睡眠も必要の無い肉体に自らを改造し、何十年も研究を続ける事がどれだけ苦痛だったのか。自分たちが人外の存在になったと自覚する余裕さえ当時の我々には無かったのだよ』
「なっ……!」
『その後、惑星の死滅が回避できた喜びも束の間、そこから環境再生の研究と実行に数百年かかった。その際、生物が誕生した時のエネルギー問題解決の為にマナやエーテルエネルギー理論の研究に着手した。試行錯誤の果てに自然環境とエーテルエネルギーの循環システムを構築、その情報を持たせたナノマシンを散布することで惑星を改造し環境に悪影響を与えず豊かな生活が送れる形にしたのだ。その全てはいつかこの新世界に生まれいづる新しい人類の為に他ならなかった!』
「――っ!?」
言葉が出なかった。
クロスオーバーが戦争で壊滅寸前になった惑星を再生させ『テラガイア』にしたという事実は知っていたが、当事者の想いを聞いてその過酷さに圧倒された。
『構築したシステムに応じてそこから数十万年かけて自然環境は再生され生命体も誕生していった。そしてようやく我々が待ち望んでいた新人類が生まれたのだ。その時の我らの喜びがお前に理解出来るのか?』
<インドゥーラ>の勢いが増す。奴のエーテル障壁がこちらの障壁を侵食し始め<カイゼルサイフィードゼファー>へのダメージが加速する。
『お前には分かるまい。――そして、新人類は文明をつくり発展を続けてきた。我らも問題がないレベルで技術提供を行い文明発展の助力をしてきた。だが、その結果戦争が始まった。我々が最も恐れていた過ちを新人類は繰り返したのだ。一つの戦争が終わり平和な時期が続くと暫くして再び戦争が起きる。その繰り返しだった。我々が戦争を回避するために奔走しても、それは意味を成さなかった。なまじエーテルエネルギーなどという便利なエネルギーがあったばかりに新人類はそれを利用し始め戦争の道具としたのだ。豊かな生活を送るための力が戦争に使われた後悔と屈辱が貴様に分かるものか!!』
エーテルエネルギーの流れを通じてガブリエルの感情が俺に流れてくる。後悔、憤怒、落胆……様々な負の感情の波が押し寄せてくる。
ただ、その中で他よりも一際大きな感情があった。それは――悲しみ。
『新人類は我らの願いを裏切り戦争の道具を進化させていった。その時に起きたのがウリエルの出奔だったのだ。我らが新人類を管理しなければならない重要な局面で、奴は新人類のもとへくだり技術提供を行った。その結果、当時開発の
益々<インドゥーラ>のパワーが上昇していく。ガブリエルの負の感情に呼応してエーテルエネルギーの出力が増している。このままじゃ押し切られる。
「それは、あんた達が新人類を支配しようとしたからだろう!! それを止めるためにクラウスさんは――」
『その結果どうなった! 例えクロスオーバーが動かなくとも新人類同士で装機兵による泥沼の戦争が起きていたハズだ』
「だからクラウスさんを殺したのか! それにティアの両親まで……。そこまでする権利があんたらにはあるって言うのか!!」
『――あるさ。『テラガイア』を創造した我らだからこそ、新人類を導く権利と義務がある。それを成す為には不穏分子には消えて貰う他ない。それなのにシステムTGは貴様ら転生者を呼び寄せた。この世界の
装甲の亀裂が拡大していく。広がっていく痛みとマナの消耗によって徐々に力が入らなくなってきた。
エーテルエネルギーの繋がりと本人自らの吐露によってガブリエルの想いが全てではないが理解出来てしまった。
これだけの憎しみと悲しみを背負って、なおこいつは立っていられるのか――もしも、俺が奴の立場であったら……きっと心が耐えられず折れていたに違いない。
でも、それでも……それでも、俺は――。
「確かに権利なんてない。俺はただ、ゲームを楽しんでいただけだ。そしたらいつの間にかこの世界に転生していて、『ドルゼーバ帝国』との戦争が始まって戦いづくめの日々になった。生き残るのに必死で戦争に介入する権利なんて考える余裕は無かった。――でも、それでも! 守りたい人達が、一緒に生きていきたい人達が沢山できたんだ! 俺が戦う理由はそれだけで十分だ!!」
『……ウリエルと同じだな。その様な狭い視野でしかものを語れない愚か者だ。だからこそ我々が新人類に誤りの無い正しい道を示そうと言っているのだ!!』
「誤りの無い……? 正しい道……? そんなものこの世にあるもんか!!」
『なん……だと?』
「あんたの話を聞いていて思ったよ。あんたは自分たちで再生させた『テラガイア』とそこに生まれた命が可愛くて仕方がなかったんだ。言うなれば過保護な親だ。だから、自分たちが犯した過ちを子供にさせたくないと思ってしまう」
『それの何が悪い!! 親であるなら子供に幸福な道を用意するのが義務だろう!!』
俺は人の親になった事は無い。多分ガブリエルも同じだろう。親としての経験がない二人で問答しているのもおかしい話だと、ふと思ってしまう。
そんな時に思い出すのは遠く離れた土地から俺を見守ってくれていたかつての両親だった。
「子供はあんたの操り人形じゃないんだよ、ガブリエル。一人の人間なんだ。あんたが願う子供の幸福が必ずしも本人にとっての幸せに繋がる訳じゃない。散々転んで痛い目を見たあんたは、子供にはそんな事をさせない為の努力をしてきたんだろ。――でもさ、転び方を知らないまま大人になる人間なんていないんだよ。過ちや失敗を経験して少しずつ成長していくんだ。あんたがやっているのは子供の成長を止める事に他ならない!!」
『――っ!?』
「確かに新人類は過ちを繰り返してきたかもしれない。でも、そこから何も学ばなかった訳じゃない。戦争の中において平和的に戦いを終わらせる手段を必死で考える人がいた。戦争という憎しみの連鎖を断ち切る考えを模索する人がいたんだよ。その人達の想いを受け継いで今の俺がいる。――あんたに必要だったのは新人類に安全な道を用意する事じゃない! 彼らを信じて見守る事だったんじゃないのか!? 何度転んでも自分の足で立ち上がる子供を我慢して見守る事じゃなかったのか!! そうだろう、ガブリエル!!!」
<カイゼルサイフィードゼファー>の出力が上がっていく。これなら――!!
『そんな事知ったことか! ループを繰り返す世界の中でお前たちはジッとしていれば良かったのだ。それを貴様ら転生者が台無しにした!!』
「ループを繰り返す鳥かごみたいな世界なんて俺たちはいらない!! 俺たちの未来は俺たち自身の手で切り開いていく!! いくぞ、相棒!! はああああああああああああっ!!!」
<インドゥーラ>のエーテル障壁を突き破りリンドブルムが直撃した。奴の強固な装甲を壊しながら押し進んでいき、最後は雪が覆う大地に叩きつけた。
攻撃に全ての力と意識を集中していた俺は機体で受け身を取って雪原を転がりやがて止まった。
コックピットモニターには機体のあちこちが限界に達しているという情報が警報音と共に表示されていた。
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