第298話 聖竜機皇 熱戦、激戦、超決戦①

『ミカエル……ラファエル……そうか、貴様らがやったのか。よくも……よくも……!!』


『ふん! 他人の生き血すすって戦場に立つなんざ装機兵操者の風上にも置けない野郎だぜ。今までオービタルリングから出ようとしなかった引きこもりが調子に乗るからこうなるんだよ!!』


『ガブリエル、お前は科学者としては優秀だが戦士としては二流……いや、三流以下だ。実力うんぬん以前に心構えからしてなってはいない。戦場に立つ資格があるのは命のやり取りをする覚悟のある者だけだ!』


 正論を叩きつけるラファエルとミカエル。ガブリエルはぐうの音も出ない様子で歯を食いしばっている。

 しかし、この状況はどうしたものか。

 聖竜部隊、シリウスとセシルさん、それにラファエルとミカエル、これらは皆クロスオーバーと敵対しているが、だからといって敵対組が仲間な訳じゃない。


 ラファエルとミカエルは今まで戦ってきた相手だし、<ヴィシュヌ>をいきなり持ち出してきたシリウスの行動も読めない。

 下手をすれば三つ巴……いやこの場合、四つ巴になるのか?


『二人ともご苦労様。でも僕の計算より二分遅かったね』


『ちっ、相変わらず細けえ野郎だぜ。こういう場合は重労働を終えてきたばかりの俺たちを労うのが筋だろうが』


『だから最初にご苦労様って言ったじゃないか。ラファエルは褒められて伸びるタイプだったっけ?』


 シリウスにからかわれるとラファエルは会話を放棄した。その代わりにミカエルが話し始める。


『それにしても無茶をする。我々がアムリタを封じ込めに動かなければどうなっていた事か……』


『その辺は君たちを信用していたからね。<インドゥーラ>にアムリタが搭載されていると知っていれば必ず止めに動くハズ。その間、ここにガブリエル達を足止めするぐらいなら聖竜部隊と僕で何とかなる。作戦通りだ』


『その割には<ヴィシュヌ>を出すのが遅すぎたように私は感じましたが』


 会話からしてあの四人は手を組んでいると見て間違いなさそうだ。

 そして彼らと話すシリウスの様子からするとやはりあいつが俺たちを『テラガイア』に転生させた張本人――システムTG。

 

「シリウス、お前は――」


『まだだよハルト、倒すべき相手はまだ健在だろ? 単に無敵モードが終わっただけさ。話をするのなら落ち着いてからの方がいいと思うんだけど』


「確かにそうだな。なら、奴を倒した後に全部話してもらうぞ。お前が本当は誰なのかを……」


『そのつもりだよ。ラファエルとミカエルは手を出しちゃダメだよ。ガブリエルに止めを刺す権利があるのは、アムリタ使用中の猛攻を耐え抜いた者だけ。――そうだろ、ハルト?』


 シリウスが俺に微笑みかける。その仕草は確かにこいつのものではあるが、その中に俺が知らない誰かの存在を感じる。

 そんな俺とシリウスのやり取り中にラファエルとミカエルの不満の声が聞こえてきたが無視して動き出す。


「シリウス……俺一人に任せてくれないか? アインとアグニは消耗が激しくてもう戦えない。無念に散ったあの二人の分も俺が戦いたいんだ」


『『死んでねえよ!!』』


 余力を振り絞ったアインとアグニの声が聞こえたが、多分今のが最後の力だったのだろう、二人ともへたり込んでいる。

 一方の俺はシリウス達が戦っている間に休んでいたお陰でマナはかなり回復した。疲労感は強いがそんな事はどうでもよくなる位にはらわたが煮えくり返っている。

 チート能力を使い無敵になった挙げ句に人質を取り、好き勝手をやったガブリエルに対して怒りが収まらない。

 ただし頭の中は冷静だ。この怒りをどうやってガブリエルにぶつけてやろうか色々なパターンを考える。


『その様子なら大丈夫そうだね。――分かった。でも負けちゃダメだよ』


「当然だ。あいつに戦場の恐ろしさを骨の髄まで叩き込んでやるよ!!」


 <インドゥーラ>の目の前まで移動するとガブリエルは憎しみを顔面に張り付かせたままでいた。アムリタ使用中の余裕綽々な雰囲気は微塵も残っていない。


『ハルト・シュガーバイン……まさか貴様一人でやるつもりか? そんな半死半生の状態で何が出来る? 随分と舐められたものだな』


「少なくともこの世から子悪党一匹を消す位は出来るさ。今まで散々汚い手を使いやがって……このクズ野郎が……!!」


『戦いに綺麗も汚いもあるものか!! 勝利以外など無価値に等しい! だからこそ確実に勝つ為に私は――』


 ガブリエルが言い終わらないうちに一発顔面にパンチをお見舞いした。<インドゥーラ>は、二、三歩後ずさりする。 

 敵機のパラメータ状態を確認すると僅かに耐久値が減っていた。――効いている。

 攻撃が通じる。この現実を受け入れた瞬間、俺の中に留めていた感情が爆発した。


「くたばれ、このド外道ォォォォォォォォ!!!」


 エーテルエクスカリバーを上段の構えから振り下ろし縦一文字斬りをお見舞いする。<インドゥーラ>の装甲に傷が付きダメージが確認出来た。

 

『ちぃっ! パラシュラーマ!!』


 <インドゥーラ>が大型の斧を装備し振り回す。大型の武器は攻撃パターンが単調になるから読みやすい。

 刀身で斧の刃を滑らして地面に打ち込ませると柄の部分を斬って破壊した。


『なっ、パラシュラーマが!?』


「斧を壊して悪かったな。余りにも隙だらけだったんでね」


『おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!』


 安い挑発に一々激昂するガブリエル。アムリタが使用不可能になった事で焦っているのをひしひしと感じる。


「どうした、ガブリエルさんよ。無敵モードが使用不能になっただけで随分と余裕が無いみたいじゃないか。良かったな、戦いの恐怖を実感出来るようになって。これであんたも装機兵操者の仲間入りだ。――これは俺からの餞別だ。しっかり受け取りな!!」


 接近戦に持ち込みエーテルエクスカリバーで斬りかかる。パラシュラーマを失った<インドゥーラ>はクリシュナブレードで応戦し剣戟が始まった。

 無敵じゃなくなったガブリエルは鬼気迫る勢いで剣を振るう。<ヴィシュヌ>と戦い戦闘用AIが学習したからか動きが良くなっていた。

 でも全力の俺にとってはこの程度のレベルアップは大して意味は無い。

 <インドゥーラ>の斬撃を切り払い即座にカウンターを叩き込む。それを何度も繰り返し確実にダメージを蓄積していく。


『何故だ! さっきは互角……いや、こちらが有利に立っていたハズだ。それなのに何故こうも好きにやられる!?』


「相手が無敵なのにずっと全力で攻撃する訳ないだろ。アムリタの検証中は可能な限り省エネモードで戦っていたんだよ。でも攻撃が通じるようになった今ならその必要もない。――ここからは俺のターンだ!! 術式解凍ッ!!」


 左腕にエーテルエネルギーを集中し魔法陣を形成する。俺の十八番おはこをぶち当ててやる。


「いっけぇぇぇぇぇぇ! バハムートォォォォ!!」


 高密度のエーテルエネルギーの光弾を発射し直撃させると<インドゥーラ>は後ずさりし動きが硬直する。この好機を逃す手はない。


「まだだ! バハムートッ!!」


 二発目のバハムートを発射し追加ダメージを与え吹き飛ばすとガブリエルの苦悶の声が聞こえた。


『ぐあっ! この程度の攻撃で私を倒せると思うなよ、転生者風情がっ!』


「あんたに言われるまでもなく、これで終わらせるつもりはない! まだまだ撃ち込んでやる!! ――バハムート! ……バハムートッ! ……バハムートッッ!!」


 バハムートを連続で放ち五発目が直撃すると<インドゥーラ>の膝が折れ大きく体勢を崩した。


「それを待っていた。エーテルフェザー最大出力、全エーテルスラスター全開! おおおおおおおおおおおおおっ!!」


 バランスを崩した<インドゥーラ>目がけて全速で接近し奴の頭部を鷲掴みにすると地面に叩きつけめり込ませる。

 <インドゥーラ>を大地に押し込みながらで猛スピードで飛行し追撃に入る。


『ハルト・シュガーバイン、貴様ァァァァァァァ!!』


「大地の味はどうだ、ガブリエル。さっきあんたがアインにやったのと同じだよ。これはアムリタに翻弄されてやられたアインとアグニの分だ。――こいつを食らえ!! バハ……ムートォォォォォォォォォ!!!」


 左手掌に集中したエーテルエネルギーを開放すると<インドゥーラ>の頭部が半壊し、臨界に達したエネルギーによって爆発が生じた。

 爆発が広がっていく中、その場から脱出すると少し離れた場所に滑り込むように不時着した。

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