第293話 アムリタの正体
「あれは<ベルゼルファーノクト>……それにもう一機は暴走<ベオウルフ>か!」
『……違う! 何だその『暴走』って。この強化された形態は<ベオウルフメギド>だ! その容量の少ない脳みそにしっかりと刻み込んでおくんだね、ハルト・シュガーバイン』
即座に反論してきたのは中性的な少年の声だ。明らかに俺を馬鹿にした言動がエーテル通信によって聞こえてくる。
「この腹の立つ物言いは……どうやら正気に戻ったみたいだな、アグニ・スルード!」
『お陰様でね。アインから話は聞いたよ。ドラゴンキラー部隊は君たちと同盟を結んでいるらしいね。それなら僕も手を貸してやる。でも勘違いするなよ、クロスオーバーを全滅させたら次は君の番だ』
「……相変わらず生意気な奴だなぁ。でも、まあ正気に戻って良かったよ。アイン、お疲れさん」
アグニを元に戻すのに相当苦労したであろうアインを労うと奴は仮面の下で苦笑していた。
『こんな憎まれ口を言ってはいるがついさっきまで泣きじゃくっていたんだ。多めに見てやってくれ』
『アインッ!!』
「あ~、なるほどね。だからドラゴンキラー部隊ご用達の仮面を着けているのか。そりゃ見られたくないもんな、泣きはらした顔なんて……ぶふっ」
中々に可愛いところがあるものだと笑みがこぼれてしまう。俺の中でシオンと並べてツンデレイケメンコンビとして定着した。最近腐女子として覚醒したティリアリア達が喜びそうなネタではある。
俺が笑っているのを見てアグニが悔しそうにしているのが楽しかったが、いつまでもこうしている訳にもいかない。
援軍が来てくれたのはありがたいとしても敵はあらゆる攻撃を無効化してしまう。このままでは三機まとめてやられるだけだ。
『ところで随分と苦戦しているみたいだが、そんなに強いのかガブリエルは?』
「ああ、奴が乗っている<インドゥーラ>には攻撃を無効化する機能が搭載されている。色んな攻撃を試してみたけど全部効果は無かった」
『そうなのか? そうは見えないが……』
アインが納得していないので<インドゥーラ>の状況を踏まえて説明しようとすると、地上には全身を覆っていた炎を拭う無敵ロボがいた。
今までどんな攻撃をしてもダメージが無かった<インドゥーラ>の装甲表面が焦げている。
急いで敵のステータス情報を表示し確認すると奴の耐久値が少しではあるものの減っていた。
「ダメージが通ってる……何で!?」
驚きと疑問と喜びの感情が同時に湧き上がる。
いやいやいや、落ち着け! 今までの俺の攻撃とさっきの二人の攻撃の違いを思い出せ。そこにアムリタを突破する方法があるんだ。
「さっきの攻撃は炎と闇、二種類の属性による同時攻撃だった。もしかしてそれならやれるのか!?」
『よく分からないけど同時に術式兵装を叩き込めばいいんだろう?』
『お前は機体のダメージを回復していろ。俺とアグニでもう一度攻撃をする』
二人が<インドゥーラ>目がけて急降下し左右に回り込んだ。挟撃する形で接近する。
『よくも今まで僕をこき使ってくれたね。この屈辱は君の命で支払って貰うよ!!』
『この国に思い入れは特にないが、それでも俺たちの故郷だ。それをこれ以上好き勝手にはやらせん! 落ちろ、ガブリエル!!』
<ベオウルフメギド>と<ベルゼルファーノクト>が同時に炎と闇の斬撃を放ち<インドゥーラ>に直撃した。
これでダメージがあれば連携攻撃で奴を倒す事が可能になる。
『まぐれで一度ダメージを与えた程度で調子に乗って貰っては困る。剣による攻撃とはこうするのだよ。マハーバーラタ!』
<インドゥーラ>は無傷だった。クリシュナブレードの刀身から黒雷の刃が放たれ、二機は咄嗟に防御し雪原に墜落した。
『なっ……! くそ、どうなってるんだ。バーンソードの直撃を受けたのに無傷だと!?』
『なるほど。これがハルトが言っていたアムリタの機能か。ギルティブレイクが全く効かないとは。……これは予想以上に厄介な相手だ。アグニ、一旦距離を取るぞ』
アインとアグニも<インドゥーラ>の危険性を肌で感じ距離を取った。
二属性による同時攻撃ではアムリタを突破出来なかった。だとすると何が原因でさっきはダメージを与えることが出来たんだ?
――あの時の状況を思い出せ。
<インドゥーラ>が術式兵装をぶっ放す直前に二人が攻撃を……待てよ、そう言えば一度目のカルキ・ラスト・アヴァターラを食らっている時に剣で斬りつけたらダメージこそ与えられなかったけど術式兵装を中断させることが出来た。
この二つの状況に共通しているのは……。
「<ニーズヘッグ>! ブリッジ、聞こえるか!? シェリー、頼みたいことが――!!』
『今、戦闘データからアムリタの正体を突き止めているところよ。もう少しだけ待って!』
「って、ええっ!? マジで!!」
モニターに映るシェリンドンは真剣な表情で頷く。凄まじい速度でコンソールをタイピングする音が聞こえてくる。
『さっき<インドゥーラ>がダメージを受けたのは、術式兵装を発動する瞬間に攻撃を受けたからだと考えられるわ。これまでのハルト君の攻撃を無効化した条件と照らし合わせてデータをまとめた結果から、その可能性が高いことが証明されたの。その件を調べて欲しかったのでしょう?』
「仰る通りです」
指を神速で動かしながらシェリンドンが説明してくれた。神がかりなマルチタスクに俺は舌を巻く。これがスーパーキャリアウーマンの仕事ぶりなのか……すっご。
驚嘆しているとタイピングの音が止んだ。シェリンドンは額の汗を拭うと口を開いた。
『……やっぱり私の予想通りだったわ。<インドゥーラ>に搭載されているアムリタの正体……それは『アストラル・ディメンション・シフト』よ!』
「あす……でぃめ……? 何て?」
初めて耳にした言葉だった。仰々しい単語の羅列にとんでもない意味を含んでいる雰囲気だけは伝わってくる。
『アストラル・ディメンション・シフトよ。物理衝撃やエーテルエネルギー等のあらゆる外的要因が生じた際に、そのエネルギーを別次元に転移させ無効化する技術。――ええと、つまり攻撃が機体に触れた瞬間にそのダメージを別の次元にワープさせているの。だからどんな攻撃をしようとも効き目がなかったのよ』
最初の説明で首を傾げる俺たちの様子を見たシェリンドンが分かりやすい言葉を使って説明し直してくれた。
馬鹿ですんません。でも、そのお陰でアムリタが相当ヤバい代物だという事が分かりました。ありがとう、シェリンドン先生。
「なるほどな。そのアストラル何とかの弱点が術式兵装発動の瞬間ってことなのか」
『……ええ。アストラル・ディメンション・シフトを発動させるには極めて複雑な術式を組む必要があるの。それこそドラゴニックウェポン物質化時のそれよりもずっと複雑なものを……。それ故に術式兵装を使用する瞬間に術式に僅かな歪みが生じて機体の無敵化が一瞬だけ解除されたと考えられるわ。さっきはその瞬間に攻撃を受けてダメージが通ったのよ。――それにしても、あれはとても装機兵に組み込めるシステムではなかった。少なくとも私はそう考えていたわ、ついさっきまでは……』
それを実現したものが目の前にいる<インドゥーラ>に組み込まれている。俺が知っている中でも究極の防御機構だ。
術式兵装を使おうとする瞬間に狙いを絞って攻撃するのは難しい。
そもそも相手が術式兵装を使用しなければ無敵状態はずっと続く。――完璧に詰んだ。どうすればいい?
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