第291話 無敵への検証

 これまでに紆余曲折あったが、それもこれも全部ひっくるめてこいつを倒せば丸く収まる。そう思うと自然と操縦桿を握る手に力が入る。


『やはり君が私の前に立ちはだかるか……ハルト・シュガーバイン』


「ガブリエル……あんたを倒してこの戦いを終わらせる。降参するなら今のうちだ」


『降参……だと? 何故自分より遙かに劣る虫けらに屈服する必要がある? 理解しがたい事を言うじゃないか』


 ガブリエルが歪んだ笑みを見せる。こいつは心の奥底から俺たちを下等生物だと思っている。――こいつの表情が、声色が、何より俺を見るその濁った目がそう語っていた。

 言葉は通じるが意思の疎通は図れない。ガブリエルは最初から俺たちの話を聞こうなんて考えちゃいない。

 ――虫けらの戯言と考えているのがよく分かった。


「最初から話が通じる相手じゃなかったみたいだな。――それならあんたを倒してエンディングに行かせて貰う!!」


『この<インドゥーラ>を相手にどこまで持ちこたえられるか、耐久試験をさせて貰おうか』


 <インドゥーラ>が専用の大剣クリシュナブレードを構えた。

 鑑定で確認した限りでは<インドゥーラ>は数種類の武器と強力な術式兵装を有している。直撃を受ければどうなるか分かったもんじゃない。

 奴の攻撃に注意しつつこちらの攻撃を当ててアムリタの能力と発動条件の検証をする。


「まずは奴の近接能力を見極める。右腕エーテルカリバーン展開……行くぞっ!」


 右腕部装甲内に内蔵されたエーテルカリバーンを展開し接近戦を仕掛ける。互いの刃が衝突しエーテルエネルギーの干渉による火花が散る。

 鍔迫り合いは、ほぼ互角。もう少し様子を見ようと思っていると<インドゥーラ>がもう一方の手に斧を装備した。


『パラシュラーマ!』


 咄嗟に下がって攻撃を躱すと空を切った斧が地面に振り下ろされ、機体周辺の地面が粉々に砕け散った。


「なっ……!? 斧を振り下ろしただけなのに地面が割れた。くそっ、通常武器でこの威力かよ!」


『距離を取ったか。ならばサルンガで射貫いぬくとしよう』


 <インドゥーラ>が雷を帯びた弓を装備しエーテルエネルギーで構成された矢を構えた。

 矢を放った瞬間、俺は反射的に横に逃げると稲妻が大気を走り装甲をかすめていった。

 稲妻が飛んでいった方向を確認すると<量産型ナーガ>に直撃し崩れるように倒れるのが見えた。


「今度はたった一矢で<量産型ナーガ>を戦闘不能にしただって!? <アクアヴェイル>のエーテルアローと段違いの威力……!」


 戦闘開始早々に<インドゥーラ>の性能の高さが理解出来た。今まで戦ってきたどの機体と比べても段違い……いや、桁違いのパワーだ。

 あの<オーベロン>ですら霞むほどの化け物みたいな強さ。術式兵装を使っていないのにこの攻撃力は危険すぎる。

 それに加えて本当にこっちの攻撃が効かなかったら……一縷いちるの望みを乗せて左腕にエーテルエネルギーを集中する。


「とにかくやってみるしかない! 術式解凍、バハムート!!」


 左腕に込めたエーテルエネルギーを竜のオーラを纏った光弾として発射した。射撃型のバハムートは<インドゥーラ>に直撃し間もなく光弾は爆散した。

 鑑定スキルによってコックピットに表示された<インドゥーラ>の耐久値を確認すると全く変化はない。

 その結果を証明するように無傷の<インドゥーラ>が爆発の中から姿を現した。


「奴のエーテル障壁を貫通したのは確認できた。機体が無傷なのはバリアで防がれた訳じゃない。そこそこ強力な単発の攻撃では無傷か。……落胆してる場合じゃない。今度はエーテルハイロゥを破壊して弱体化を図る。――ブレードテイルパージ!」


 機体背部のブレードテイルを幾つものパーツに分割し高速飛行させると敵機を囲むように配置する。


「よし、狙いはそこだ。スターダストスラッシャーーーーー!!」


 全てのブレードパーツを<インドゥーラ>の頭上に浮かぶエーテルハイロゥに集中させて斬り刻む。

 これまでの戦いではこれで熾天セラフィム機兵シリーズのエーテルハイロゥを破壊し一時的に機体パフォーマンスを低下させることが出来た。

 今度も同じようにして機体の性能が下がったところで攻撃を叩き込めば――!?


「はは……そう来るか……」


 乾いた笑いがこみ上げてくる。スターダストスラッシャーの直撃を受けたはずのエーテルハイロゥは原型を留めていてダメージを受けた様子がない。

 これもアムリタの無敵効果って訳か。機体だけじゃなくエーテルハイロゥにもその恩恵が付与されるのか……。


 ブレードパーツを戻してブレードテイルを再形成しながら今度は接近戦を仕掛ける。

 遠距離攻撃でダメージが与えられないのなら今度は近距離攻撃だ。直接剣で斬りつけてどうなるのか試してやる。


『……今度は接近戦か。いいだろう、今度はこちらも攻撃をさせて貰う』


 ガブリエルは薄ら笑みを浮かべている。自分の機体がダメージを受けつけないという事実から来る余裕がにじみ出ている。

 エーテルカリバーンとクリシュナブレードによる剣戟が始まった。ガブリエルの剣の腕前はマルティエルほどではなく、何度も<インドゥーラ>に斬撃を叩き込んでいった。

 だが、斬りつけている手応えはあっても依然としてダメージはない。


「接近戦でもダメなのか……だとしたら残った手札は……はっ!?」


 次の手を考えていると<インドゥーラ>の腕部に装着されている鋭い牙状のパーツが前方にスライドするのが見えた。

 横に跳んで牙による刺突攻撃を躱すと間髪入れずにエーテルエネルギーが込められた蹴りが向かってくる。

 刀身で防御しながら後ろに跳んで威力を殺すのに成功した。今のも通常攻撃なのに並の装機兵の術式兵装を超える破壊力がある。


『ほぅ……ヴァラーハとヴァーマナの連続攻撃をいなすか。見た目よりもよく動く』


「パンチとキックに一々名前を付けてるのかよ。厨二病こじらせてんのか、あんたは?」


『この機体は熾天機兵<ヴィシュヌ>をモデルとした性能向上機でね。各武装の名称をそのまま引き継いでいる。思うところがあるのなら、それは設計者であるウリエルのセンスだよ』


「なるほどね。つまりあんたはクラウスさんが造った<ヴィシュヌ>を丸パクリしたのか。二番煎じのせこい機体みたいだな、あんたの<インドゥーラ>は……!」


『……虫けらの分際で言ってくれる! ウリエルは確かに優秀な技術者だったが愚かだった。貴様ら新人類に分不相応な技術を提供したお陰で装機兵などと言う機動兵器が誕生し戦争が拡大した。――大罪人なんだよ、あの男は!』


「クラウスさんが装機兵の開発に尽力したのは、あんたらクロスオーバーによる支配を見越していたからだ! あんたらが新人類の征服を始めた時に対抗できるように遺してくれた力なんだよ。戦争が激化するようにドルゼーバを裏で操っていたあんたがどの口で……!!」


 話をすればするほどガブリエルの腐った人間性が分かってきて苛立つ。怒りに任せて攻撃してしまいたい衝動を抑えつつ<インドゥーラ>の検証を続ける。

 剣戟の中でバハムートとスターダストスラッシャーを立て続けに食らわせるも<インドゥーラ>が損傷する様子はなかった。


「くそっ! こいつ本当に無敵なのか!? 近接攻撃、遠距離攻撃、術式兵装、連続攻撃……全部試したけどダメージ無し。アムリタは常に発動してるチート能力だと証明できた。――あと検証すべきは……」

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