第289話 ロボの合体邪魔する奴は竜に蹴られて地獄へ落ちろ


 地上ではそれぞれ熾天セラフィム機兵シリーズに対してチームを作って皆が戦っていた。そのどれもが今までとはレベルの違う激戦だ。

 唯一戦いに参加していないのは敵の総大将ガブリエル。そして奴が搭乗する<インドゥーラ>は一歩もそこから動かずに高みの見物をしている。

 その余裕の佇まいを見ると苛つくが同時に安堵もしている。


 スキル『鑑定』で目の当たりにした<インドゥーラ>のスペックは他の熾天機兵とは段違いに高かった。

 それに加えてあの機体には信じられない機能があった。『その能力』をどうにかしない事には俺たち全員が束になってかかっても全滅する可能性が高い。

 だからガブリエルが動き出す前に俺が対処しておきたい。でも現実は――。


『いつまでそうやって逃げ回る気だ、ハルト・シュガーバイン。無様だな!』


 マルティエルが操る<ラクシャサ>が二刀のラセツブレードを構えて突っ込んでくる。

 俺は早々に武器をエーテルカリバーンに変更し、奴の二刀流の攻撃パターンを探っていた。

 鋭い踏み込みと間髪入れずに襲ってくる二振りの剣。一つはエーテルカリバーンで受け流し、もう一つは回避でやり過ごす。

 回避の瞬間に僅かに肩アーマーが斬られたものの大したダメージじゃない。マルティエルとの戦闘開始から今ので十回目の接触……反撃の準備が整った。


『ふっ、防戦一方か。聖竜部隊最強の男もこの程度……ミカエルやラファエルと互角以上に渡り合ったと言うから期待していたのだが、とんだ肩透かしだったな。それとも我の実力が貴様やあの二人を超えているという事かな?』


「肩をかすめた程度ではしゃぐなよ。それにお前がミカエルとラファエルよりも上だって? 寝言は寝て言いな!」


『逃げてばかりで攻撃すら出来ない弱者の戯言だな。そろそろ止めを刺して他の連中も始末するとしよう!』


 これまでで一番のスピードで<ラクシャサ>が突っ込んでくる。相変わらず寸分狂わぬ感じで二刀の構えをしている。

 一見隙がなく見えるがさすがにワンパターンなので目が慣れた。

 

『その首もらい受ける!!』


 <ラクシャサ>が二振りの剣で十字の軌跡を描く斬撃を放ってきた。それを紙一重で躱してエーテルカリバーンの横一文字斬りをカウンターで叩き込む。


『ぐあっ! 何だと!?』


「おせえよ!!」


 予想もしない反撃を食らってマルティエルは狼狽し距離を取った。


『バカな……今の斬撃を躱せるハズは……!』


「お前の剣術は確かに優れてる。構えに隙は無いし剣筋は正確で毎回鋭く打ち込んでくる。単純な剣の扱いならフレイアと同等……俺が敵う相手じゃない」


『ならば何故……!?』


「攻撃が正確すぎるんだよ。だからパターンさえ分かれば対処方法は幾らでも思いつくさ。実戦経験を積んだ者なら相手に合わせて自分の技のパターンを変えるけど、お前はそれが出来るほどの経験はないみたいだな」


『……なるほど。それで合点がいった。あらゆる流派のデータをインストールし剣を極めたと思っていたが、それだけでは足りなかったと言う訳か。我には戦いの流れを読む経験が不足していたのだな。――だが!!』


 マルティエルの静かだった雰囲気が一気に荒々しくなる。警戒していると<ラクシャサ>の二つの剣が合わさり一つの大剣へと姿を変えた。


「剣が合体した!? ってか一気にデカくなりすぎだろ!!」


 一般的な長さだった二本の剣は溶け合うようにして一つとなり身の丈を超える大剣になった。明らかに剣二本分以上の大きさだ。

 色んな法則に反していませんかね? このファンタジーな世界でそんな考えは野暮って事かな?


『ハルト・シュガーバイン、確かに貴様は危険な存在のようだ。今度はこの『ラヴァナの太刀』でお相手しよう』


「ラヴァナの太刀……あの剣からはヤバい雰囲気がする。斬竜刀と同じ一撃オーバーキルな武器って感じだ」


 以前ジンと戦った時の事を思い出し冷や汗が頬を伝う。

 あんな綱渡りな戦いは二度とごめんと思っていたのに、まさかこんな土壇場で同じような敵に当たるとは予想していなかった。


 辟易しているとラヴァナの太刀を振りかぶりつつ<ラクシャサ>が突撃してくる。

 二刀流の攻撃パターンに慣れてきた所で武器変更は痛いけれど、ジンとの戦闘経験が生かせるハズだ。


『はぁぁぁぁぁぁ!!』


 身の丈を超える大太刀が全力で振り抜かれる。

 敵の動きに注意し剣の軌道を読んで余裕を持って回避する。斬撃時の衝撃波と殺意が装甲越し伝わってきた。

 まともに食らえば聖竜機兵の装甲でも致命傷になりかねない。そんな威力に寒気を覚えながら「いけるかもしれない」という想いも強くなる。


「威力は凄いが武器が大きくなって取り回しが悪くなった分、攻撃が単調になった。タイミングを合わせてカウンターを仕掛ければやれる!!」


 機体のエーテルマント、各部エーテルスラスターのパフォーマンスを最大に保って次の攻撃に備える。

 マルティエルに武器がデカけりゃ勝てる訳じゃないと教えてやる。


『いつまでもちょこまかと……沈めぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』


「――来た! ここで合わせる!!」


 袈裟懸けに振り下ろされた斬撃をエーテルカリバーンの刀身で受け流し、そのままこちらの斬撃を<ラクシャサ>に叩き込んだ。


『なっ!? また反撃を……!』


「攻撃が単純なんだよ!! 今度はこっちのターンだ!!」


 動きが怯んだ<ラクシャサ>に次々とエーテルカリバーンの刃を打ち込んでいく。さすがは熾天機兵、装甲も耐久力も通常の装機兵とは比べものにならない。

 セルスレイブの自己修復機能もあって致命傷には至らないものの、それでも流れはこっちに来ている。――いける!


『この……! 調子に乗るなぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 マルティエルの怒号と共に全力を込めたラヴァナの太刀が迫ってくる。当たればヤバいが、こんなものに当たってやるほど俺は優しくはない。

 紙一重で躱し、すかさず斬撃を入れると左腕にエーテルエネルギーを集中する。


「少しばかり劣勢になったからって簡単にカッカしすぎなんだよ! 術式解凍――バハムートォォォォォォ!!」


 エーテルエネルギーを込めた左掌を<ラクシャサ>の腹部に打ち込んで爆発させると奴は煙を噴きながら後方に飛んだ。

 俺から距離を取ったのだろうが隙だらけだ。

 マルティエルはその言動から察するに、特に修行や訓練などせずに剣術のデータを取り込んで剣技をマスターしたみたいだが、俺に言わせればそんなの只のハリボテでしかない。

 どんなに素晴らしい剣さばきが出来たとしても、修行で身につく忍耐力や対応力など心構えを学んでいなければ、いざという時に動きがお粗末になる。


「楽して強くなろうと考えるからそうなるんだよ。――背中がお留守だぜ、マルティエル!!」


『なん――!?』


 奴が振り返った瞬間、後方に回り込ませておいた<カイザードラグーン>が猛スピード突撃し脚部で蹴り飛ばした。

 全エーテルスラスターを噴射して<ラクシャサ>が吹き飛んだ方向に回り込みエーテルカリバーンにエネルギーを集中する。


「ロボの合体邪魔する奴はぁぁぁぁぁ! 竜に蹴られて地獄へ落ちろぉぉぉぉぉぉぉ!! 術式解凍――コールブランドォォォォォ!!!」


 <ラクシャサ>が体勢を整えた直後、黄金の閃刃でエーテルハイロゥごと斬りつけ地上にぶっ飛ばした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る