第287話 氷結を溶かせ②
予想外の状況にメタトロンは顔をしかめ<サーペント>を下がらせる。
間もなく氷の棺は完全に消滅し、何事も無かったかのように<ヴァンフレア>は二刀のドラゴニックウェポンを構える。
『バカな……<ヴァンフレア>の出力でアイスコフィンを破る等と……。機体だけでなく操者の精神にも異常を与えるハズなのに……』
『ふっ、まさかこの程度で私が怯むとでも思ったのか? こんな氷の精神攻撃に比べれば以前ハルトにやられた二十四時間放置プレ……無視の方が精神的にクるものがあった。――まだまだ手ぬるいぞ、メタトロン!!』
熱を帯びた赤いオーラを放ちながら<ヴァンフレア>はエーテルカンショウとエーテルバクヤで斬りかかる。
<サーペント>はエーテルサリッサで迎え撃つも接近戦で圧倒的な技量を誇るフレイアが一枚上手で攻防は一方的だ。
<ヴァンフレア>の斬撃が次々に決まっていき、斬られた箇所から炎が噴き出しては氷結による鎮火修復が行われるという状況が続いた。
『あはははは! これで理解出来たでしょう。剣の達人であるあなたの<ヴァンフレア>でも<サーペント>に決定打を与えることは不可能なのですよ』
メタトロンは愉快とばかりに声を出して笑い出す。そして<サーペント>の長大な尻尾をしならせ雪原ごと<ヴァンフレア>をなぎ払おうとする。
『単純な攻撃パターンだ。弾幕を張る、尻尾でなぎ払う、氷結効果のある範囲型術式兵装で行動不能にする。――お前がやっているのは機体の性能に頼り切った薄味の攻めだけだ!』
フレイアは紙一重で尻尾を避ける瞬間に二振りの炎刃を突き刺し溶断した。
メタトロンは灼き斬られた部分をパージすると再び尻尾同士を連結させて元通りにする。
その様子を見ていたフレイアは驚くこともなく再度接近戦を仕掛けた。
『随分と便利な尻尾だな。幾つもの同型パーツを連結して尻尾をかたどっている訳か……しかもセルスレイブの作用で切り離したパーツを再構築している。これではどんなに尻尾を破壊しても半永久的に生えてくる。――やはり狙うのなら人型の上半身部分だな……』
『言うのは簡単ですが、そう簡単にはやられませんよ。さっきも言ったように操者がその道の達人であろうとも機体の性能差が戦いの雌雄を決定づけるのです。装機兵の戦いというのはそう言うもの……戦争に身を投じてきたあなたなら分かるでしょう?』
<サーペント>は距離を取ってエレメンタルキャノンとアイスニードルの弾幕を敷いて<ヴァンフレア>の接近を妨げる。
フレイアは回避と切り払いを駆使して弾幕を切り抜けようと試みるが数の暴力によって捌ききれなかった攻撃が深紅の装甲に当たりダメージが蓄積していく。
『……持ってくれ<ヴァンフレア>。――メタトロン、やはりお前は装機兵の戦いを理解できていないようだ。機体と操者、その二つの力が渾然一体になった時の爆発力は足し算ではなく乗算レベルに相当する。私はそれをやってのけてきた者を身近で見てきた。甘く見ていると怪我では済まないぞ』
『説教のつもりですか? 脳まで筋肉で出来ているような人間がこの私に教えを説こう等と一万年早いのですよ。そこまで言うのなら、この<サーペント>最大の術式兵装で終わりにして差し上げます。そして私の方が正しいと言うことを証明してあげましょう!』
<サーペント>の頭上に輝くエーテルハイロゥが数倍に広がり巨大な魔法陣が展開される。そこに膨大なエーテルエネルギーが集中し急速に周辺の大気が凍り付き始めた。
『全ての生命は絶対零度の中でその活動を停止する。――さあ、このアブソリュートゼロの抱擁によって永遠の眠りにつきなさい、フレイア・ベルジュ!!』
それは一瞬だった。瞬きをするほんの一瞬の間に<ヴァンフレア>は完全に凍り付き動きを停止した。
距離を取っていた<パーフェクトオーベロン>はアブソリュートゼロを免れたものの近づけば同じ
ティリアリアはその場から動けず氷漬けになった<ヴァンフレア>を真剣な眼差しで見つめていた。
『ふふふ、次はあなたの番ですよ、ティリアリア・グランバッハ。ウリエルの忘れ形見には全員消えて貰います。あなたを始末した後はクリスティーナ。その次は『アルヴィス王国』の王族……あの男が遺した危険因子は全て私が滅ぼします。そしてガブリエル様が神となって統治する新世界が誕生するのです!』
メタトロンはうっとりとした表情で理想の世界を夢想する。モニター越しにその様子を目の当たりにしたティリアリアは興味なさげな顔でため息を吐いた。
『……はぁ、私の何十……いえ、何千倍も長く生きてるくせに頭の中がお花畑って……見ていて痛すぎる光景ね。あなたはあのガブリエルとかいう、いい歳して金髪ロンゲでナルシストっぽい趣味の悪いおっさんを溺愛しているようだけど、そういうのは自分たちだけでやってくれる? 巻き込まれるこっちは大迷惑よ。――それと、あなたにはクリスにもシャイーナ叔母様にもクレインにも手出しさせないわ。そんでもって何よりも、その程度で私の親友がやられる訳ないでしょ』
『な……あな、あなた……ガブリエル様を、しゅ、趣味の悪いおっさ……ですってぇぇぇぇぇ!? その傲慢無知な言動……絶対に許せないわ! <ヴァンフレア>と同じようにアブソリュートゼロで氷付けにして粉々に砕いてあげます!!』
『――痛いところを突かれたようだな、メタトロン。ティリアリア様の忠告を無視した貴様にはキツい仕置きをしてギャフンと言わせてやるのが一番だ』
凜とした声が聞こえると同時に<ヴァンフレア>を覆っていた絶対零度の殻が内部から溶かされ蒸発していった。
中から姿を現した深紅の竜機兵は再び氷結の力を屈服させ悠然とした足取りで前方に立ち塞がる<サーペント>に向かって歩いて行く。
メタトロンは驚きを顔に張り付かせたまま、ゆっくり近づいてくる<ヴァンフレア>を注視する。
『な……バカな……。<サーペント>の氷結を一度ならず二度までも……竜機兵のスペックではそんな芸当は不可能なハズなのに……』
『これが機体と操者、その二つが渾然一体となった力だ。今度はこちらから行かせて貰う。やられた分は倍返しに利子を付けて返す。――やるぞ、<ヴァンフレア>!!』
フレイアが吠えると同時に駆け出す<ヴァンフレア>。
両手に携えたエーテルカンショウとエーテルバクヤの炎刃が勢いを増していき巨大な炎の刃を形成する。
『貴様の氷など幾らでも溶かしてみせる! 炎の刃を受けろっ! ――ケツァルコアトル!!』
二振りの炎刃を重ねて生まれた豪炎の斬撃は<サーペント>が放った無数のアイスニードル全てを一瞬で消滅させ、強固なエーテル障壁を破壊し敵機の左腕を灼き斬った。
『くぅぅぅぅぅ!! 左腕消失……自己修復が開始されないですって!? あの炎がセルスレイブの活動を殺している? ――ここは一旦引いてダメージの修復を……はっ!?』
メタトロンは蛇の様に機体の尻尾をウネウネと動かしコックピットがある上半身を<ヴァンフレア>から遠ざける。
安全な距離まで離れられたと安堵した瞬間、急に影に覆われ暗くなる。何事かと上を向くとコックピット内にアラートが響き渡った。
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