第285話 姦しさと逞しさと鋼のメンタルと③
『何が可笑しい!? この……』
『これがお前が笑った精神論――言わば想いの力だ。たっぷり味わえっ!!』
暴風の螺旋がぶつかり合いに勝利し、ドリルを形成していた<パールバティ>の右前腕を砕きながら眼下に広がる雪の大地に向かって急降下していく。
地面に激突する瞬間、<シルフィード>はエーテルスラスターを最大出力で噴射すると同時に翼を大きく羽ばたかせ横に飛び雪原に身体を打ち付ける。
『突破口は作ったぞ。パメラ! ノイシュ!』
シオンの叫びに応じて、雪の大地に叩き落とされた<パールバティ>に向かって接近する機体が二機――<グランディーネ>は術式兵装テュホンを維持し巨大化した状態で正面から突撃し、<ドゥルガー>は猛スピードで雪原を駆け抜け標的の後方に回り込んだ。
『信じてたよシオン! あんたが作ってくれたチャンス最大限に生かしてみせる。――今必殺の! ジャイアントォォォォォ! インパクト!! ナッコォォォォォォォォ!!!』
ダメージでおぼつかない動きの<パールバティ>に巨大化<グランディーネ>の渾身のパンチが炸裂した。
拳が打ち込まれると同時に放たれた衝撃波が全身に伝わり強固な内部フレームを歪ませる。
殴り飛ばされた<パールバティ>は地面を大きく抉りながら後方に激しい勢いで転がっていく。その先にはシックスアームズを構える<ドゥルガー>が待ち構えていた。
『そっちに行ったよ、ノイシュ!』
『オッケー、後は任された! シオンきゅんとパメラから渡されたバトン確かに受け取ったわ。――<ドゥルガー>、カーリーモード起動。これで仕留めてやる!!』
<ドゥルガー>の黄色の装甲が黒色に変化し機体性能が向上する。ありったけのエーテルエネルギーを各武器に込めて前方から迫ってくる敵機を襲撃する。
『シックスアームズ最大稼動! これでも食らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』
<ドゥルガー>が装備した六つの武器が<パールバティ>に次々と繰り出され、装甲を破壊し内部を流れるエーテル循環液が血しぶきのように噴き出すと黒い装甲に降りかかった。
限界まで攻撃を続けたノイシュは距離を取ってズタズタに斬り裂いた<パールバティ>を見やった。
『はぁ……はぁ……どうよ、フルウェポンインフィニティコンボの威力は……!』
三機の必殺攻撃を立て続けに受けた<パールバティ>は雪原に倒れ込み動かない。
機体内部から流れ出た循環液が周囲に染み出し雪を溶かしていくと横たわる体躯が蒸気で見えなくなった。
動けなくなる程に敵機にダメージを与えたシオン達には確かな手応えがあった。それでも相手は自分たちの常識を超越する存在だ。一瞬の油断が命取りになりかねない。
一番近くにいたノイシュが慎重に近づいていくと蒸気の向こうから無数のニードルミサイルが飛翔し両手のエーテルカタールで切り払う。
『ったく……冗談じゃないわよ。あれだけダメージを与えたってのにまだ動けるの!?』
ノイシュの頬を焦り由来の汗が流れ落ちていく。<ドゥルガー>のコックピットモニターには恐るべき速度で損傷箇所を修復していく<パールバティ>が映っていた。
蒸気で一瞬機体の姿が隠れる度に部分的に元の状態に戻っていき、それを数回繰り返した後には<パールバティ>は戦闘開始時と同じ状態に戻っていた。
敵機が元通りになるのと対極的にテュホンの維持限界に達した<グランディーネ>は積層したエーテル障壁が解除され元のサイズに戻ってしまう。
強力な術式兵装を使用した反動でパメラはマナを大きく消耗し息が荒い。
そのようなリスクを冒してまで手に入ったのは<パールバティ>の異常な修復能力という事実だった。
『はぁ……はっ……参ったわね。これで勝てるとは思っていなかったけど、ダメージが完全に直るまでとは思ってなかったわよ』
『パメラは一旦下がってマナを回復しろ。こうなると長期戦になる。先程と同じように僕が攪乱するからノイシュは攻撃を叩き込め。奴の自己修復能力は高いがそれにはマナを消耗するはずだ。この戦い……操者の精神力と体力がどれだけ持つのか、忍耐力のチキンレースになりそうだな』
シオンが提示した作戦にパメラとノイシュが頷き陣形を組み直す。
一方のサンダルフォンは鬼気迫る表情で彼らを睨んでいた。怒りによって顔面に青筋を立て目尻はピクピクとヒクついている。
『まさかここまでやってくれるとはね。少々遊びが過ぎたみたいだ。――お前等は全員穴だらけにして殺してやる!! 絶対だ!!』
怒り狂うサンダルフォンの意志をくみ取り<パールバティ>はハリネズミの如く全身にニードルを纏いシオン達に逆襲するため活動を再開した。
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