第283話 姦しさと逞しさと鋼のメンタルと①

 ノイシュ・ローズは転生前は動画配信者だった。

 難易度の高い『竜機大戦ヴァンフレア』のゲーム配信をしたところバズった為に定期的に同ゲームの配信を行い気が付けばアバターは高レベルになっていた。

 だが彼女が本当に好きだったのはボーイズラブゲーム等の恋愛ゲームだった。BLとは男性同士による恋愛ものだ。――つまりノイシュは腐の付く女子なのである。


 また彼女は漫画を描くのが大好きで大人向けの薄い本をイベントで売っては完売する売れっ子同人作家としての側面を持っていた。

 根っからのオタクであった彼女は基本的に順風満帆な生活を送っていた。

 

 そんなノイシュの人生を狂わせたのは先に述べた『竜機大戦ヴァンフレア』と言う名のゲームだ。

 このゲームの配信をした当初は世間でも高難易度クソゲー扱いされた問題作をプレイしてロボット好きなリスナーを楽しませてみようと軽い気持ちでやってみただけだった。

 そして後日に自分が好きなBLゲーム最新作の実況プレイ配信をしようと考えていたのである。

 ――が、思いの外動画再生回数が伸びまくった為、味を占めたノイシュは引き続きこの異常難易度を誇るゲーム配信をする羽目になってしまった。

 BLゲームをしたいという本音を抱きながら、慣れないシミュレーションRPGの攻略に寝る間を惜しんで挑み続け気が付いたら同ゲーム配信者の一任者になっていたのである。

 そして他の転生者同様に運命の悪戯によって転生してしまった。




『ほんっとうにクソッタレな幕切れだったわよ!!』


 ノイシュは誰に言うでも無く積もりに積もった不満を吐露した。

 不意に前世の頃を思い出し今の自分の境遇と比較してしまう。こんな事を彼女は時々繰り返していた。


『本当はBLゲームの配信やりたかったし、推しキャラの同人漫画も描いてる途中だったしやりたい事が一杯あったのよ。なのに今じゃ、こんなファンタジーな世界でロボットに乗って戦争して……そんでもって世界は何百回もループ繰り返して黒幕がSFな連中とか……もうこんな生活ウンザリだっつーーーーーーの!!』


 ノイシュが操縦する<ドゥルガー>は背部の四基の隠し腕を展開、合計六本の腕に武器を装備したシックスアームズ形態で<パールバティ>のニードルミサイルを切り払っていく。

 獅子奮迅の働きをする<ドゥルガー>の前方にはエーテルアイギスを装備した<グランディーネ>が壁役として防御を引き受け、<シルフィード>は空中から牽制と攪乱を担当していた。


『今日もノイシュの不機嫌が爆発してるわね~』


『いつもより言動が酷いが操縦は冴え渡っているな。気が乗っているノイシュなら打ち負けはしないだろう』


 ノイシュと付き合いが長くなってきたパメラとシオンは彼女の爆発っぷりに戸惑うことなく日常の事だと受け止める。

 ただし相手をしているサンダルフォンは鬼気迫る勢いのノイシュにやりづらさを感じていた。


『こいつ一体何なんだ!? 戦い始めて早々にブチ切れてやがる。頭いかれてるのか?』


『そう言うあんた等の方が遙かにいかれてるでしょ! 惑星や生き物再生させて、それ全部奴隷にする気なんでしょ。神様気取りも大概にしなさいよ!!』


 <ドゥルガー>は両手に持った二つのエーテルカタールの他、四基の隠し腕にブラッディソード、アブソーブソード、二本のエーテルトリシューラを装備し接近戦において圧倒的な手数を誇る。

 かつて<ヴァンフレア>と相打ちとなった攻撃力は健在で熾天セラフィム機兵シリーズ<パールバティ>相手にも十分通用していた。


『そこっ! ブラッディソード!!』


 機体のエーテルエネルギーを大きく消耗するも高い攻撃力を誇るブラッディソードでニードルの束を切り払い、更に<パールバティ>のエーテル障壁を斬り裂き装甲に大きく傷を付ける。


『あの剣の斬撃は厄介だ。並の術式兵装なんかよりずっと威力がある。以前『ワシュウ』で戦った時と全然違う……!』


『あの時は連戦続きだったし不意を突かれたからね。けど、今度は違う。攻めに転じた<ドゥルガー>をそう簡単にやれるとは思わないでよね!!』


 勢いそのままに猛攻を続ける<ドゥルガー>はブラッディソードの攻撃の合間にアブソーブソードを織り交ぜて敵機と接触時に相手のエネルギーを吸収し回復、こうして無限に強力な連続攻撃を可能とするループを作り上げた。

 相対するサンダルフォンはアブソーブソードによって<パールバティ>のエーテルエネルギーが奪われている状況に気が付き距離を取ろうとする。

 だが、そんな事は想定済みと<ドゥルガー>は肉薄し今度は二本の槍――エーテルトリシューラを突き立てる。


『こっちの武器は剣だけじゃないのよ! エーテルトリシューラのリーチを甘くみんな!!』


『こいつさっきからピッタリくっついて離れない! ええい! いい加減しつこいんだよ、これで穴だらけにしてやる!!』


 サンダルフォンの憤りに呼応するように<パールバティ>の全身からニードルが出現し、その全てがけたたましい音をたてながら高速回転を開始する。


『ノイシュ、下がって! 私が前に出る!!』


『了解!』


 <ドゥルガー>が下がると入れ替わるように<グランディーネ>が凄まじい勢いで突進する。


『<グランディーネ>か! お前の盾や装甲でもこの攻撃には耐えられないよ。食らいなっ! アイアンメイデン!!』


 全身から回転式ニードルを出したまま大型の前腕部を大きく広げて死の抱擁を繰り出す<パールバティ>。

 単純な攻撃ながらも組み付かれれば全身穴だらけにされる攻撃が<グランディーネ>を襲う。

 絶体絶命な状況であるにも関わらずパメラには恐れも気負いもない。そこにあるのは絶対に負けないという気迫の表情だった。


『行くよ、<グランディーネ>! ドラグーンモード起動、術式兵装ファフニール!! そのニードル、全部根元からへし折ってやる!!』


 増加装甲を纏った<グランディーネ>は両腕に装備したエーテルアイギスを前方に展開、エーテルエネルギーを盾に集中させ加速し吶喊とっかんした。

 <パールバティ>の全身ニードル抱擁を受ける<グランディーネ>。エーテルアイギスの至る所から火花が散り赤熱化する。

 更に盾で防ぎ切れなかった回転ニードルが<グランディーネ>の各部に突き立てられ、サンダルフォンは勝利を確信した。


『はははははっ! バカが調子に乗って前に出るからこうなるんだよ。このまま全身穴だらけにして最後にコックピットを潰してやるよ!!』


『姉もそうだけど妹のあんたも下品だよ。そんな低俗姉妹なんかに負けてられるかっつーの! 奥の手でぶっ倒す!! ドラゴニックエーテル永久機関最大出力、エーテルエネルギー全身充填完了。――テュホン!!』


 全身に幾重ものエーテル障壁を展開し<グランディーネ>はまるで巨大化したような状態になった。

 積層されたエーテル障壁はニードルの回転を止めるとそのことごとくを根元から折り<パールバティ>のアイアンメイデンは屈服した。


『アイアンメイデンが……! 一体何なんだこの術式兵装は!? こんなのあたしは知らない。今までのループでこんなの見たことがないぞ!!』


『ふーん、そうなんだ。あんたらクロスオーバーとの決戦に備えてマドック技師長が考案したものなんだよ。今からぶっ飛ばしてやるから覚悟しなさいよ!!』


 パメラは吠えると巨大化<グランディーネ>の正拳突きを叩き込む。圧倒的パワーで殴られた<パールバティ>は吹き飛び雪原を勢いよく転がっていった。

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