第282話 王の執念③

 二手に分かれた二機の装機兵のどちらに攻撃を優先するか一瞬惑うバラキエル。その一瞬の間に後方側の敵接近警報が鳴る。そこにいたのは既に魔法陣を展開していた<アクアヴェイル>であった。


『黄金の装甲は防御力以外にも相手の注意を引く役目も果たしてくれますのよ。エーテル集中……リヴァイアサン!!』


 魔法陣から高出力の水の砲撃が放たれると、三基のエーテルフラガラッハが展開した魔法陣を通過しさらに威力が増す。

 極太の水のレーザー砲となったリヴァイアサンは<ナーガラーゼ>のエーテル障壁を貫通し人型の本体部分へと直撃した。


『ぐぅぅぅぅ!! 状況確認……装甲小破、まだいけるわ!』


『残炎ですけど、わたくしの攻撃は布石に過ぎませんわよ』


 クリスティーナが笑顔で言い捨てると同時に今度はエーテルグングニルを前方に突き出した<フェンリル>が突撃する。


『注意力が散漫になっているようですね。先程言いかけましたが、必ず殺す技と書いて必殺技と呼ぶんです。――オーディンストライク!! 貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』


『ちぃっ!!』


 <ナーガラーゼ>は六本の隠し腕を全て防御に回しコックピットがある胸部の守りを厚くする。ロキは構わず乾坤一擲の一撃をそこに叩き込んだ。

 エーテルグングニルによる全力の刺突攻撃は隠し腕全てを貫通撃破し<ナーガラーゼ>の腹部を貫いた。


『コックピットを外した!?』


『……残念だったわね。もう少し上に当たっていたらあなたの勝ちだったわ。必殺技の極意しっかりと見せて貰ったわよ。今度はこっちの番――』


『私としたことがまだまだ修練が足りないようですね。ですが役目は果たせました』


 エーテルグングニルを引き抜くと<フェンリル>はその場から急速離脱する。直後、上空から眩い光が降り注ぐ。

 

『……参ったわね。一番忘れてはいけない存在を忘れていたわ。――カーメル王、勝負よ!!』


 光剣エーテルソラスの刀身にありったけのエーテルエネルギーをみなぎらせ黄金の刃を形成した<クラウ・ラー>が凄まじいスピードで急降下してくる。

 その姿を捉えたバラキエルは余力をつぎ込み強固なエーテルの鎧を展開すると急浮上を開始する。


『その意気や良し! 全力の我が黄金の刃で応じよう。――ゴールドレクイエムッッッ!!』


『ボーガバティーに全てをつぎ込む! 落ちろぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 空中で術式兵装を展開した二機が激突した。<ナーガラーゼ>を覆うエーテルの鎧に黄金の斬撃が叩き込まれ亀裂が生じる。

 最初は僅かだった傷が急速に広がっていき全体に行き渡ると乾いた音を立てて鎧は粉々に砕け散った。

 そして――。


『はああああああああああああああっっっ!!!』


 カーメル三世の雄叫びと同時に振り下ろされた斬撃は<ナーガラーゼ>の左半身を斬り裂き、その巨躯は勢いよく大地に叩きつけられた。

 <クラウ・ラー>は減速しながら<ナーガラーゼ>の近くに着陸し、その場に<アクアヴェイル>と<フェンリル>が集う。

 落下の衝撃で視界がかすむ中、バラキエルは何とか機体を起こしエーテルロンギヌスを構えた。


『まだやる気なのか?』


『当たり前……でしょ。アタシが負ければあんた達は他の連中の所に行く。だから倒れるわけにはいかないのよ!!』


『……そんな義理堅い君の想いに君の仲間は……ガブリエルは応えてくれるのか?』


 カーメル三世が問うとバラキエルはしばらく逡巡した後に口を開いた。


『相手がどうこうの問題じゃない。アタシがそうしたいからそうするだけよ。あなた達には理解出来ないでしょうけど、アタシ等は気が遠くなるほどの期間この星を再生させる為に一緒に行動してきたの。その時間で築き上げた関係は家族とか友達とかそういうレベルじゃないのよ!』


 自己修復が間に合わない程のダメージを負いながらも戦う意志を崩さないバラキエル。カーメル三世たちも揺るがない覚悟を胸に戦闘を継続するのであった。

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