第280話 王の執念①

『ちょっと、どういう事よこれは……!? <クラウ・ラー>がこんなに強いなんて聞いてないんですけどぉ!!』


 <ナーガラーゼ>のコックピット内でバラキエルは焦っていた。

 それもそのはず相対している三機の装機兵――<クラウ・ラー>、<アクアヴェイル>、<フェンリル>の三機のうち<フェンリル>以外は性能を知り尽くしているはずだった。

 三千年以上もの間ループし続けてきた時間の中で戦いの中心にいた竜機兵や第一特異点カーメル三世の愛機<クラウ・ラー>は常に観察してきた相手だ。

 熾天セラフィム機兵シリーズの開発においてもそれらのデータを取り入れている。しかし今回のループの中では今までのデータが参考にならなかった。

 転生者の介入によって竜機兵に関しては機体、操者ともに異常な強化が行われ、<ヴァンフレア>に至っては操者が変更され圧倒的な戦闘力を見せるようになった。

 おまけにドラゴニックウェポンやドラグーンモードの実装により量産型熾天機兵では太刀打ち出来ないレベルに至っている。


 その変化は転生者の影響という事で理解出来る。だが、目の前にいる<クラウ・ラー>に関しては訳が分からない。

 機体にはこれと言った強化はされていないハズなのに性能が段違いに上がっている。普段おちゃらけながらも実際は冷静なバラキエルでさえ、この疑問符を思考から拭えず焦っていた。


『まさかアタシの知らない強化処理がされているという事かしら? それなら――』


『――残念だが、その答えはノーだ』


 バラキエルが導き出そうとした答えを早々に否定したのは<クラウ・ラー>の操者カーメル三世本人だった。

 <クラウ・ラー>のエーテルマントを六本に分割しそれぞれをエーテルの帯――エーテルバンデージに変化させると触手のように自在に操り、向かってくる無数のエレメンタルキャノンを一つ残らず叩き落とす。

 本体は胸の前で腕を組み威風堂々とした佇まいを見せ、翡翠色のデュアルアイで睨みを利かせている。


『その機体のエーテルバンデージの防御性能がここまでとはね。これはつまり今まで手を抜いていたと言う事かしら? だとしたら今までのループで死んでいった者たちが可哀想じゃない? つまりは助ける気が無かったって事になるでしょ?』


『……痛い所を突いてくるな、君は……。そうだな……そうなのかも知れない。私自身、いつの頃からか自分がどんなにあがいても世界は変えられないと諦めていた。心を閉ざす事で……希望を諦めたふりをする事で自分の心を守っていた。今思えばその時生きていた者たちには本当に申し訳ない事をしてしまった。――だからこそ、今度こそこの世界を救ってみせる! 三千年以上停滞していた時を進めるために……未来へと歩み出すために私は死力を尽くして此度の戦に勝ってみせる!!』


『そうか……その覚悟が機体のポテンシャルを大幅に引き上げているという訳ね。さすがは第一特異点……味な真似をしてくれるじゃない!』


 バラキエルは納得すると<ナーガラーゼ>を<クラウ・ラー>目がけて突撃させる。その両手には長槍の武器エーテルロンギヌスを携え切っ先を向ける。

 カーメル三世は狙いが自分だと判断すると他の二人に指示を出した。


『敵の狙いは私だ。クリスティーナ姫は援護を、ロキは私と一緒に迎撃を。例のフォーメーションで行くことにしよう』


『了解しましたわ』


『御意! <フェンリル>変形します』


 <フェンリル>は人型から狼を彷彿とさせる四足獣形態へ変形し、その上に<クラウ・ラー>がまたがった。

 突撃してくる百メートル超の敵の攻撃を二手に分かれて回避すると人型の本体部分に遠距離攻撃を開始する。

 しかし蛇の如くしなやかな動きをする<ナーガラーゼ>に直撃は与えられず再び突撃攻撃を受けた。

 戦いは膠着状態に入り攻撃と防御がめまぐるしく入れ替わる。


『さすがは熾天機兵の最新型ですわ。そう簡単には討ち取らせて貰えませんわね』


『ふふふ、当たり前でしょう。この<ナーガラーゼ>は熾天機兵の一つの到達点とも言える機体よ。<量産型ナーガ>はもちろん<サーペント>の上位互換に当たる機体なんだからねえ。――回避が遅いわよ、お姫様ァ!!』


 バラキエルは逃げ遅れた<アクアヴェイル>を標的に定め急接近する。クリスティーナは自分に狙いが集中するとクスッと笑った。


『予想通りこちらを狙ってきましたわね。やりますわよ<アクアヴェイル>。――ドラグーンモード!!』


 <アクアヴェイル>は増加装甲を纏うとエーテルフラガラッハ三基を機体周囲に配置しエーテルトライデント改で<ナーガラーゼ>のエーテルロンギヌスと鍔迫り合いを始めた。


『これだけの体格差とパワーの差は明らかでしょう。それなのに接近戦をしようなんてこちらを甘く見すぎじゃない?』


『その割には押し切れていないようですわね。あなたこそドラグーンモードの竜機兵の力を甘く見積もりすぎではありませんか?』


 クリスティーナはエーテルフラガラッハによって作り出したエーテル力場の作用で何とか踏みとどまっていた。

 その一方でバラキエルは後方支援機であるはずの<アクアヴェイル>をパワーで圧倒できない状況に驚きを隠せない。

 槍同士によるせめぎ合いが拮抗する中、<ナーガラーゼ>の蛇状の胴体を駆けてくる二機の装機兵がいた。


 狼の姿へと変形した<フェンリル>にまたがる<クラウ・ラー>は彎曲した刃有するエーテルショーテルにエーテルエネルギーを集中させながら本体目がけて一気に駆け上がってきた。


『クリスティーナ姫!!』


 カーメル三世が叫ぶと同時に<アクアヴェイル>はその場から離脱し、間髪入れずに<クラウ・ラー>がエーテルショーテルを投擲とうてきすると<ナーガラーゼ>の左肩に命中した。

 

『くっ、左肩の装甲が抜かれた!? こんな原始的な攻撃で……冗談じゃないわ!』


 機体の左肩部に異常が発生し動きが緩慢になる。すぐに自己修復が開始されるも左肩に大きくめり込んだ刃が外れる事はなく不具合は解消されなかった。

 焦るバラキエルが視界に光を感じ視線を向けると<クラウ・ラー>が光り輝く剣をストレージから抜き放っていた。

 瞬時に危険を察知すると<ナーガラーゼ>背部の六本の隠し腕を展開し<クラウ・ラー>に向けて射出した。


『この隠し腕は頑丈よ。それに獲物を仕留めるまで何処までも追いかけてくる。あなたはどう切り抜けるのかしらね、カーメル王!』


『ふっ、そんな事か。正面突破に決まっているだろう。ロキ、進路そのまま!!』


『了解! 回避はお任せください』


 <フェンリル>は迫り来る六基のロケットパンチを足場にしつつスピードを落とすこと無く切り抜ける。

 さらにロケットパンチは全てエーテルスラスターが凍り付き推力がダウンした事で落下していった。


『しばらくは自慢のロケットパンチは使えませんよ。触れた瞬間に凍らせておきましたからね』


『この……やってくれるじゃない!』

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