第278話 黒竜と赤狼①
地上で聖竜部隊とクロスオーバーの戦いが激化する中、その遙か頭上――雲海の上では激しい空中戦をする二機の装機兵の姿があった。
『この……! いい加減に俺の話を聞け!!』
『黒い<サイフィード>……黒い竜……竜は全て敵!! 殺ス殺ス殺ス殺ス……!!』
セルスレイブにより禍々しい姿に変貌した<ベオウルフ>は炎の翼を発生させ周囲の雲海を灼きながら<ベルゼルファー>を追い回す。
戦闘開始からずっとアインはアグニを正気に戻そうと必死に呼びかけるが、当の本人は聞く耳を持たず会話すら成立しない有り様だ。
『くそっ! 元々人の話を聞かない奴だったが、ここまでとなると言葉での説得は無理か……ならば!!』
アインは飛竜形態の<ベルゼルファー>を雲海の中に突っ込ませ姿をくらませる。すると<ベオウルフ>は大出力の炎を噴射し雲海ごと灼き払おうと試みる。
『アハハハハハハハハハハハハ!! 燃えろ燃えろーーーーーー!! 全部燃えちゃえーーーーーーーー!!』
『……バカの一つ覚えに無闇に炎を出し過ぎだ!!』
燃える雲海の中から姿を現したのは<ベルゼルファー>の強化形態である<ベルゼルファーノクト>であった。
不意を突いて<ベオウルフ>の顔面を殴りつけて吹っ飛ばすと頭上に展開したエーテルハイロゥからドラゴンブレスを照射して追い打ちをかける。
『こんなものォォォォォォォォォ!!』
アグニは叫ぶと同時にエーテル障壁をピンポイントで展開しドラゴンブレスを軽減しつつ距離を取った。
所々ダメージを負っていた部分はセルスレイブによる自己修復機能により急速に修繕され元通りになる。
『――お互いセルスレイブによる高レベルの自己修復がある以上、生半可な攻撃では状況は変わらないようだな』
『この程度の攻撃で僕がやられる訳がないだろ! お前なんか<ベオウルフ>の炎でドロドロに溶かしてやるよ!!』
正気を失ったまま敵意をむき出しにするアグニを見つめアインは「ふぅ」と息を吐く。
『少しばかり離れていたからお前との対話の仕方を忘れていたようだ。お前は元々人の話を聞くような奴ではなかったな。お前とはいつも拳を交えながら互いの意見をぶつけ合っていた。――ならばお前と対話するのに必要なのは言葉ではない。剣を……拳を……互いの戦術をぶつけ合うことでしか俺たちは理解しあえない。覚悟しろアグニ。ここからは実力行使でお前ととことん語り合ってやる!!』
『うるさい、うるさい、うるさぁぁぁぁぁい!! お前なんて……燃えちゃえばいいんだよ!!』
エーテルファルシオンと左腕の大型の五本爪に炎を宿らせると<ベオウルフ>は炎の翼を大きく羽ばたかせて急速接近する。
アインは武器をエーテルアロンダイトに変更すると真正面から応じ激しいぶつかり合いが始まった。
漆黒と深紅の二機は雲海の上を高速で飛び回りながら何度も得物をぶつけ合う。
『ズタズタに灼き裂いてやるよ! フレイムネイル!!』
左腕の爪から放たれた炎の斬撃波が<ベルゼルファーノクト>の装甲表面を抉りそこから炎が噴き出す。
かすり傷が致命傷になりかねないダメージを負うも、冥竜機兵は異常とも言える自己修復機能で瞬く間に元通りになった。
『だから言っただろう、生半可な攻撃では意味は無いと。その程度では俺と<ベルゼルファーノクト>には届かん!! 今度はこっちから行かせて貰う――ギルティブレイク!!』
エーテルアロンダイトの刀身に闇のエーテルが集中し斬撃と共に<ベオウルフ>に放たれると、その赤い装甲は所々砕け散り雲海に向かって落ちていく。
それでも本体は何事も無かったかのように体勢を立て直し破損した装甲の修復を開始する。
『よくもやってくれたなぁぁぁぁぁぁ!! 今度は僕の――』
『一々甲高い声で怒鳴るなよ。鼓膜に響く』
アインは自己修復を終えていないアグニに再び攻撃をたたき込みダメージを与えていく。その熾烈な猛攻に<ベオウルフ>は徐々に破損箇所が増えていった。
『チィッ! 何で……!?』
『<ベルゼルファーノクト>と<ベオウルフ>はお互いセルスレイブによって機体が強化されている。条件が同じなら勝つのはその力を制御している側だ! お前はクロスオーバーによって機体共々操られ暴走しているに過ぎん!! 正気を失ったバカにやられるほど俺は甘くはない! そんな事はお前がよく知っているだろう、アグニ!!』
<ベオウルフ>の両腕から繰り出されるエーテルファルシオンとエーテルネイリングの同時攻撃を丁寧に捌いてカウンターを叩き込み終始圧倒する<ベルゼルファーノクト>。
手も足も出ない状況にアグニは唇を噛む。
『ちくしょう……チクショウ、チクショウ、チクショウ、チクショオオオオオオオオオ!!! 僕が負けるハズがない! 僕は最強の力を手に入れたんだ。だから、こんな黒い<サイフィード>なんかに負けるハズがないんだっっっ!!』
『……何が最強の力だ。無理矢理敵に与えられただけの焼き付け刃の力だろう。暴走して攻撃の精細さを欠いた今のお前は以前よりも弱い!! 何度もお前と剣を交えた俺にはそれがよく分かる。――アグニ、お前はそんな見せかけの強さに支配されて終わる気か!? 敵にいいように利用されて悔しくないのか!!』
『ぐ……ウウウウウウウウ! うるさい、うるさい、うるさぁぁぁぁぁぁぁい!! 僕は……僕は……強いんだ! もうあんな真っ暗な場所に帰るのは嫌なんだ。だから全部燃やして明るくすれば、もう何も怖くないんだよ!!』
突然話題が変わったことにやはり話が通じないと思うアイン。しかし、何処かアグニの言葉が引っかかる自分がいた。
怒りにまかせて攻撃を仕掛けるアグニの猛攻を凌ぎ反撃をしながら、先程の違和感の正体を考え、そしてその答えにたどり着く。
『暗い場所……そうか……俺たち強化兵の施設の事か! 確かにあそこは暗くて痛くて怖い、最低の思い出しかないな。何だ、お前はあの時の出来事が怖くて、光が欲しくて炎で全てを燃やすのか! ――だとしたら、とんだ弱虫だなアグニ!!』
『なん……だとォォォォォォォ!!』
<ベオウルフ>が炎の爪で特攻してくると<ベルゼルファーノクト>は右腕にエーテルエネルギーを集中し突撃する。
『燃えろォォォォォォォォ! フレイムネイル!!』
『砕け散れ! ウロボロス!!』
炎と闇のエーテルエネルギーによる術式兵装がぶつかり合い周囲の雲海を大きく波立たせる。
その激突を制したのは<ベルゼルファーノクト>側だった。<ベオウルフ>の左腕は肘から先が粉々に吹き飛び機体は雲海の中に沈んでいった。
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