第275話 軍神来たりて


「思ったよりも早いお出ましだな」


 増援の<量産型ナーガ>と一緒に出てきたのは幹部クラス専用の熾天セラフィム機兵シリーズだ。

 以前戦った事がある<ナーガラーゼ>、<サーペント>、<パールバティ>の三機に加えて見たことがない機体が二機いる。

 その内の一機は全身黒い装甲に身を包み頭部から赤い髪のようなものを生やした機体だ。その顔は鬼を彷彿とさせる攻撃的な形状をしている。

 そしてもう一機の異様な存在感を示しているのは黒と金色の装甲の機体だ。どことなく<シヴァ>や<ブラフマー>に似た雰囲気を感じる。

 そこにいるだけで鳥肌が立つほどの圧迫感が伝わってくる。こいつは明らかに他の熾天機兵とはレベルが違う。つまりこいつに乗っているのが――。


『初めまして新人類の諸君。私の名はガブリエル。クロスオーバーの代表をしている者だ』


 強制的にエーテル通信が繋げられモニターに中性的な男の姿が映り自己紹介をしてきた。金色のロングヘアでゾクッとするほどのイケメンだ。声を聞いていなかったら女性と間違えていたかもしれない。

 しかもその声すらも独特の色気があり人間離れした存在感がある。


『正直なところ君たちがここまで我々を脅かす存在になるとは想像すらしていなかった。何せこれまでに八百四十二回世界を自滅に追い込んだ愚か者だったからね。そこに転生者などと言う異物が少々紛れ込んだ程度でこれまで辿ってきた結末に異変が生じた。中々に興味深い見世物だったよ』


 こいつは驚いた。このガブリエルと言う男は完全に俺たちを見下している。クロスオーバーの連中のほとんどに共通している事ではあるけど、こいつの目は明らかに新人類を同じ人間として見ていない。

 まるで虫でも見るかのような……少なくとも同じ知性を持った相手として見ていない。こんな奴にこれ以上好き勝手にぺらぺらと喋られるのはごめんだ。


「――それで、その見世物に飽きたから今さら表舞台にしゃしゃり出てきたって事か。随分と重役出勤じゃないか」


『……君は確かハルト・シュガーバインだな。転生者の中でも特に君は厄介な存在だよ。君のお陰で常に破滅する運命だった竜機兵どもが全機健在、それどころか訳の分からないタンクもどきを造りウリエルの遺産までも仲間に引き込んでいる。第四特異点として君の周囲は特殊な因果の流れが出来ているようだ』


「敵の親玉に名前を知って貰えているなんて光栄だね。それで俺たちが邪魔だから排除するために地上に降りてきたって訳か。わざわざご苦労なこった。――でも、そのお陰でこっちからオービタルリングに乗り込む手間が省けたよ」


 思い切り皮肉を込めて言ってやったがガブリエルは眉一つ動かさない。まるで能面みたいな男だ。


『君は中々面白い事を言う。新人類がオービタルリングに乗り込む等と不可能な事実を述べるとはおこがましいにも程がある。こんな無知で野蛮なサルに計画を台無しにされたのかと思うと腹立たしくて仕方が無い。おまけに君のような異物を異世界から呼び寄せた影響で我々は時間を巻き戻す術を失った。全く……システムTGは愚かな事をしてくれたものだ』


「それでこの世界にとって神様な存在のシステムTGは現在行方知れずなんだろ? つまりあんたらは神様に見放されたんじゃないのか? この世界が何百回も破滅に沈んでいく中、あんたらクロスオーバーは傍観しているだけだった。そんな連中が破滅のルートから外れた今の世界を破壊しにかかっている。これだけの材料があれば一つの結論にたどり着く」


『……何が言いたいのかね?』


 ガブリエルはジロリと俺を睨んだ。今まで能面よろしく感情を表に出さなかった奴が急に殺意全開になった。

 相変わらず敵を煽るのは結構面白い。もっと言ってやろう。


「つまり、この世界を何度も破滅に追いやったのはあんたらクロスオーバーだってことだよ。いや、それよりもガブリエル……あんたの単独犯って線が濃厚だな。ラファエル達が世界が崩壊する手助けをするとは思えないからな」


 言い切るとガブリエルは顔に手を置いて沈黙した。

 その状態がしばらく続くと微かな笑い声が聞こえてきた。そしてその声はハッキリ聞き取れるほどに段々と大きくなっていった。


『……ふふふ……ふははははははははは! 実に恐れ入ったよ。只の無知なサルかと思っていたら中々どうして鋭いじゃないか!』


 ガブリエルは心底愉快といった感じで笑っていた。こいつ……!!


「その言い分から考えるに認めるんだな? お前が『テラガイア』を……皆を……何度も不幸な目に遭わせた張本人だって……認めるんだなっ!?」


『私にとって必要な処置だったのでね。その為にこの世界の時間を停滞させる必要があったのだよ。そのお陰もあって準備は整った。君たちの活躍のお陰で被害は被ったが、この<インドゥーラ>と他の熾天機兵があれば問題ない。――心置きなくこの地で滅びたまえ』


 ガブリエルは自分がこの世界を滅ぼしてきたと肯定した。

 その事実を知って皆は驚き言葉を失っていた。今、目の前にいるこいつが全ての元凶だったんだ。それならやることはハッキリしている。


「……俺たちをこの世界に転生させたシステムTGの思わくはよく分からないけど、今自分がするべき事、やりたい事はハッキリしたよ。――ガブリエル、あんたを殺す。あんたの存在はこの世界にとって害悪以外の何物でもない。俺のこの手であんたを地獄の底に叩きつけてやる!!」


『ふん、野蛮なサルが……やれるものならやってみるがいい。そして身の程を知るといい。自分が結局は無知な愚か者でしかなかったのだとな』


 うじゃうじゃいる<量産型ナーガ>が幹部たちを守るように包囲網を敷く。一気に場の雰囲気が戦闘モードになった。

 それに応じてこっちもフォーメーションを組んでいつでも乱戦に突入できるようにする。

 しばらく睨み合いが続くとガブリエルが搭乗している<インドゥーラ>が腕を挙げ、俺たちに向けて振り下ろした。

 それを合図に<量産型ナーガ>が一斉に動き出し攻撃を開始した。

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